第11話 再会

  ガレアス中央通りから離れた僕たちは、中央通りを抜けた先にある小高い丘に来ていた。

 先ほどの通りとは違いここには少し大きな木が一本忘れ去られたように立っているだけで特に人が集まるほどの場所でもない。だがそんな何もない所だからこそ昔から僕はこの丘が大好きだった。


 カナタさんはその木に近づき、手探りで何かを思い出すように木を撫でる。


「懐かしいね、小さい頃はいつもこの木の周りで色々なことをして遊んだね……レイ君」

「……………………」

 

 レイ君と呼ばれたが、僕は反論せず黙り込んでいた。

 

 そうして黙り込んでいる内に、すでに街の空は血のように赤く、地平に沈む陽の光は橙黄色に変わっていた。


 夕日が静かに夜を迎えるのを待たず、その場の沈黙を破ったのはカナタだった。

 

「《生殺与奪ギブ・アンド・テイク》……だったよね? レイ君の脳力の名前」

 

 黙り続ける僕に構わず、カナタは木を撫でながら話を続ける。

 

「左手で吸収して無力化した様々な力や無機物、そして脳力で作られた物質ですら脳内で解析して、右手でそれらを倍にして放出する。それがレイ君の脳力。昔、ここで聞かせてくれたから覚えてるよ。そして……双子か親子でもない限り同じ脳力を持つ人はいない。ましてやそれが、世界中の人を含めて約二十人しかいない《国宝》と揶揄やゆされる脳力の最高ランク、SSランクなら尚更だよ」

 

 話しを終えて僕に振り向いたカナタは、今日これまでで見た中で一番綺麗だった。


 夕日のように情熱的な真赤な瞳。

 その双眸を携えた表情には少しの憂いが残り、儚げで物悲しい。まるで願いが届くように祈る、小さな子供のような純粋さが滲みでているようだった。

 

「あなたは……レイ君……だよね……」

 

 表情に見合った不安そうな声音で僕にそう尋ねるカナタ。

 

 そんな彼女は僕には愛おしくて、美しくて、純粋すぎた。

 そしてそんな彼女を欺き続けることは、僕にはもう出来なかった。

 

 「…………あぁ、そうだよ。久しぶりだね…………カナちゃん……」

 

 僕が久しく呼ぶ愛称にカナタは目を潤わせて今日の中で一番――いや子供の頃から隣で見てきたような屈託のない笑顔を僕に向け、そして僕の胸に飛び込んできた。

 

「やっぱり間違ってなかった!! レイ君だ! 本物だ! レイ君!! レイ君レイ君レイ君っ!!」

「ちょ、ちょっと! 近い! 近いから! 何処にも行かないからとりあえず離れて!」

「もうちょっと……もうちょっとだけだから、こうさせて。…………ダメ?」

 

 ぐっ!? 何、この子…………。めちゃくちゃ可愛いんですけど!


 犬みたいに僕の胸に飛び込んできたと思ったら、今度は上目遣いで残念そうに眉毛を曲げて涙目になるとか…………もう……辛抱堪らん!!

 

「…………もうちょっと……もうちょっとだけだからねっ」

「うんっ! ありがとうレイ君!」

 

 そして少しばかり僕はカナタを胸に抱きながら街を見た。

 その頃にはもう、街に陽の光は差してなかった。

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