第36話 戦う原動力
「カナタァァァっ!!」
受身も取らずに倒れたカナタは、電気の影響の所為か、体をピクピクと痙攣させて倒れ伏していた。
もう勝負は付いたはずなのに、それでもアドラはカナタを挑発するように声を掛ける。
「おやおや、どうしたんですか? まさかこれで終わりですか? 真っ先に私の勝負を挑んであっさり負けるなんて、一体、あなたは何がしたかったんですかね?」
クスクスと笑いながらカナタを蔑むアドラ。それに合わせるように周りで見ていた白服生徒たちが、カナタに罵声を浴びせる。
「やっぱり低脳は、この程度が限界ね」
「本当に雑魚っ。レイジア様ならまだしも、何であんな女がアドラ様に挑むんだって話だよな」
「悪あがきも程ほどにして欲しいわ。これじゃまるで、アドラ様が弱い者苛めしてるみたいじゃないの!」
「生きる価値もない低脳のクズの癖に、俺たち高位脳力者に手を掛けさせるなよな!」
これ以上いいだろうっ。もう止めてくれ――僕がそういう前に僕の周りで見ていた白服生徒たちが口々にカナタを罵る。
何故、そんな酷い言葉が言える……。
何故、カナタがこんなになるまでに傷つけられなければならない……。
どう考えても、悪いのはお前らだろうがっ。
彼ら赤服生徒や《救世連盟》が君たちに何をしたって言うんだよっ。
将来的不安要素の排除? クーデター対策? テロリズム? 違う。
お前らはそんなこと、考えたこともないだろっ。
ただただ理由もなしにいたぶれる標的としてしか見てない。
そんな奴らのために、今見ている同じ低脳たちのために、そして何よりも、カナタがこんなにボロボロにされているのに何もしない僕なんかのために、君が傷つく必要はない。
(頼むから……もうそのまま、起きないでくれっ)
「まだ、勝負は…………終わってないっ……」
僕が観客から目線を戻すと、そこには先ほどまで俯けで倒れていたカナタが、麻痺している両手を無理やり動かし、再び立ち上がろうとしていた。
「ふぅん? 今ので終わらせるつもりでしたが、あなたも中々の精神力をお持ちのようですね……少し、興味が湧きました。弱者を嬲る趣味は持ち合わせてはいませんでしたが、少し痛みを覚えてもらいましょう」
さっきと同じ構え!! あいつ、まだこれ以上カナタを攻撃するつもりなのかっ!?
「だい……じょうぶ……だよ……」
今にも電撃の槍を繰り出そうとするアドラから、今にも消え入りそうな声のする校庭の中央で立つカナタを見た。
服のあちこちには焦げ目や泥が付き、その足取りは覚束ないといった様子。
誰がどう見ても、カナタはすでに満身創痍だった。
「カナタ…………何で、そこまで…………」
本当に意味が分からなかった。何故、ここまでしてまで、カナタは戦うのか。
彼女が立ち上がる原動力は、そこまでのものなのか。
そんな気持ちで僕がカナタを見ていて気付いた。
いつの間にかカナタの表情が、僕にいつも向けていてくれた、あの太陽のような笑顔になっていた。
「呼んで……くれたんだ…………」
「…………何をですかね?」
「彼が……『カナちゃん』って…………呼んでくれたんだ……っ……」
「っっっ………………………!!!!」
僕は声を上げることができなかった。
カナタの原動力の根本、それがまさか、再会した時に僕がふと言った、昔のあだ名だったからだ。
僕が頭の上に疑問符を立てている中、カナタはその笑顔を絶やすことなく続ける。
「私はね……本当のことを言うと、最初に会った時に、一目で彼がレイ君だって分かってたの。でも、レイ君はすっかり大人っぽくなってて、それに比べて何にも成長してない私がそのまま出て行くのが恥ずかしかったの……。でも、私はただ、昔みたいに戻りたかった……。仲良くしたかった……。世界を変えるとか、レイ君の頑張りを証明するとかなんとか言っても……ただ、それだけだったの……嘘ついてて、ごめんなさい……」
「カナ……ちゃん……!!」
その場にいないはずの僕に向かっての謝罪の言葉。それに釣られてか分からないけど、僕も自然とカナタを昔のあだ名で呼んでいた。
(それだけのために、ただ、僕の為に、そこに立ってくれたのか……)
そんなにボロボロになるまで戦って、傷ついて、誰も味方がいない中で……勝てない勝負と、分かっているのにっ……!! たった一人でっ……!!
「もういいですか? その茶番は?」
「……………………」
「おおっと、そんな目を向けられても何も変わりはしないよ。臭い三門芝居にも飽き飽きしましたからね。ここでこの試合は終わりにして差し上げます」
そして改めて、カナタに向けて突き出した指で今度をカナタの心臓を指差した。
今度は感電させる形ではなく、雷撃を直接心臓に叩き込むことを示唆していた。
無慈悲なアドラの死刑宣告。それにカナタは微笑で応えた。
「ふふっ……」
「何を笑っているのですか? 気でも狂いましたか?」
「違うよ。この試合で初めて、あなたと気が合ったなって思ってね」
そういうと、カナタの両手の平に集まるように、水がまるでオアシスのように湧いて出てきた。
この光景には先ほどまで余裕を浮かべていたアドラも唖然とした。
それはそうだ。様々な研究をしてきた僕ですらこんな光景は見たことが無い。
カナタは今、何も無いはずの無から水を精製したのだ。
「この勝負、私の勝ちだっ!!」
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