第35話 Aランク対Dランク
先手を取ったのは、カナタだった。
審判役が手を振り下ろすと同時に、カナタは昨日の嵐の影響で荒れた校庭の地面に手を付いた。そして、その手を引き上げると、彼女の
カナタの脳力、《
カナタの
そしてカナタは、その水球に意識を飛ばす。すると水球はその体を千切られるように一粒、また一粒と小さな弾となり、それがカナタの周りを浮遊する。
「これでも喰らえっ!」
カナタがそう叫ぶと、小さな水の弾丸はカナタから離れ、物凄い勢いでアドラを襲った。
たとえ水といえど、あの勢いの水の弾が当たれば、一たまりも無い。
だがアドラは、咄嗟に行われた水の弾幕攻撃に為す術がないのか、何の抵抗も示さず直立不動のままその攻撃を受けた――はずだった。
「――なんですか? このお遊びのような攻撃は?」
「っっ…………!?」
流石はアドラだ。カナタが驚くのも無理は無い。
たとえあの水弾がコンクリートにも穴をうがつほどの威力だろうが、アドラの脳力ならば関係ない。
アドラの脳力は、《
電気を発生させることができる、Aランクの脳力だ。
電気脳力の強みである応用性はもちろん、アドラにしか出来ない芸当である、自身の体に電気を充電できるという脳力から、アドラは国の中では三桁の数もいない、僕のランクの一つ下のAランクの高位脳力者だ。
対してカナタは、最低ランクのDランク。常識的に考えれば、DランクのカナタがAランクのアドラに勝てる可能性は、満の一つもない。たとえどんな馬鹿でも、この時点で自分の愚かさと無知さを呪い、勝負など諦めるだろう。
だが、カナタは違った。
「う~ん? 今のはどうやってガードしたのかな? 何か変な壁みたいなのが水を蒸発させたみたいだったけど?」
「ははっ、そんなに大したことはしていないのですがね。いやはや、低脳の脳力ではここまでの芸当はできませんから、驚くのも仕方がないですね」
「あ~~! また馬鹿にしたっ! そうやって人を下に見てると女の子にモテないよ!」
「低脳風情の意見を僕が受け入れるとお思いですか?」
「なら、私が勝ったら、その偉そうな態度を改めてよ……ねっ!!」
憎まれ口を叩きながら、カナタは先ほどよりも巨大な水弾をアドラに叩きつける様に撃ち放った。
そして先ほどと同じように、アドラはその場を動くことなく水弾は蒸発した。
大量の水を一気に蒸発させたことで、校庭には目に見えるほどの水蒸気のカーテンを作り上げられた。
「仕方が無いのでお教えしますが、先ほどからあなたの水を蒸発させているのは、僕の《
「そんなのやってみないとわからないじゃないっ! 脳力だって無限に使える訳じゃない。なら、私はその電気の壁を越えるまで、何度でも何度でも撃ち続けるだけよっ!」
その後もカナタは何度も、何度も水弾を撃ち続けた。見ている僕の気が狂いそうなくらい何度も、何度も、何度も。地面に手を付き、水を吸い上げ、その場所に水が無くなったら違う場所へ走り、吸い上げ、それを繰り返した。
そしてそんな光景を上から見ていた僕は、ふと観客たちに目線を落とした。
そこには、すでに勝負に飽きた白服の生徒と、希望も何もないカナタに諦観や哀れみ、それらを通り越して呆れた目を向ける赤服の生徒たちがいた。
何をやっても無駄。生まれた時点から決まってた。誰も助けてくれないのに、あの子は何がしたいのだろう。そんな気持ちを孕んだ目だった。
そして、遂にこの無駄な繰り返しが終わりを向かえる――
「――はっ、はっ、はっ……!」
とうとう水が校庭に無くなった。事実上の弾切れだ。
「ふぅ…………もう終わりですね」
そして、その様子を静かに傍観していたアドラが、不意に右手をカナタに向けた。
(まずいっ!! 今、カナちゃんは脳力の酷使と、校庭を走り回って心身ともに疲れきっている。そんな状況でアドラの攻撃をかわす事が出来る筈がないっ!!)
「カナタっっ!! 逃げろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」
僕の声が突然聞こえたからか、一瞬、カナタは振り向いた。
でも、それがいけなかった。
僕の方に振り向いた瞬間、一筋の電光がカナタの腹部を貫いた。
「が、はっ……」
その電光の正体はアドラの体で蓄電していた電気を、一筋の雷の槍として撃ちだしたものだ。
その威力は、アドラの体の中にある電気の蓄電量で何倍にも上がる。そして、アドラはこの試合で、まだ一回も直接的な攻撃をしなかった。
ならば、今撃ちだした電撃は、僕が想像した威力以上のものかも知れない。
雷光がカナタの体を貫通し、カナタが口から湯気を吐くと、カナタは前のめりに倒れた。
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