第14話 挫折

《低脳力応用成長化計画》。これを作るきっかけは、カナタが引越してから低脳力者でも何か応用や身体の工夫などで、国の検査以上の結果を生むことができないかを模索している時だった。

 

 そんな最中、ユリねぇのネグレクトが発覚し、僕がそれを止めた。

 そしてユリねぇが今後自分一人でも価値を示せるように、僕がユリねぇの脳力を扱えるための練習台になっていた時だ。


 その時に、偶然だがユリねぇの脳力が”重力を操るもの脳力”ではなく、”一定エリアの引力の一部を操る脳力”だということが判明した。

 

 その時僕は思った。

 これはユリねぇに限った話ではないのではないだろうかと。

 

 それを確信に変えるため、僕は様々な脳力の実験をするためにまず国の極少数の貴族たちと母上を味方に付け、王位継承権を僕の兄から奪った。

 

 母は僕を猫可愛がりしていることは知っていたし、王女である母の後ろ盾があることもあって、僕に甘い蜜を求めて群がる貴族連中がいるのも知っていた。


 僕はそうして得た権限を使い、様々な脳力の研究のために低脳力者たちからデータを集め始めた。

 

 その過程で集まった低能力者の団体を僕は《救世連盟》と名づけ、団体に僕とカナタの理想を目的として『低脳力者でも堂々と生きれる社会にする』という目的を掲げた。

 

 その目標のおかげか、様々な脳力を持つ低脳力者の人々が《救世連盟》の活動を行うにあたって主要メンバーの脳力を検査することができた。


 時には僕も王族の義務と称して低脳力者が起こす暴動の制圧や国が行う取り締まりを自ら行い、組織の内側からも外側からもデータを集めた。

 

 その結果集まったデータは膨大になり、その用途や脳力の詳細からユリねぇと同じように低脳力者の中でも脳力の効果が誤認されている者たちがいることに気付いた。


 そしてそれらの脳力は、正しい使い方や細かい系統を調べることで、その脳力の応用方法や使い道を作ることで、低脳力でも新たな可能性を広げることの立証に成功した。


 こうして完成したのが《低脳力応用化計画》の全てだ。

 

 その研究結果を娘や妻など、親族に低脳力を持つ貴族やその関係者に極秘で送り、返答次第で計画は本格的に始動する――はずだった。

 

 そこに父であるリバル・A・ガレアスが、僕が研究結果を送った貴族全ての土地を総変更し、直接政治に関わらせないようにするまでは。

 

 それを知った僕は父に直談判したが、その時の父の言葉を僕は一言たりとも忘れたことはない。


 *


『父上! 何故いきなり国の貴族たちの異動などという馬鹿げたことをしたのですかっ!? それによりできた我が国の新たな政治体系に不安を持つ民衆の声が聞こえないのですかっ!?』

 

『それはお前が王族らしからぬ無駄なことをするからであろう。一人で何をこそこそやっているか調査させてみれば、まさかテロリストの手引きのような真似をしているとは…………』


『……お言葉ですが父上。僕はそのような愚行を行ったつもりは……』


『黙れっ。結果、この国に突如現われた《救世連盟》なるお前の組織は、脳無し共に本当の救世主のような扱いを受け、さらには《救世連盟》の所属を名乗るテロリストの増加により、我が国の治安は他の九カ国に比べても最悪な治安に成り下がった。違うか?』


『確かにそうかも知れません……ですが、それでもそのテロリストは全て僕が排除し、罰を与えています。結果的には国には大きな損失は無いはずです!』


『テロが起きていること自体が問題だと言っているのがわからんのかっ! お前こそ、民の声が聞こえていないのではないか?』


『その声の多くは自分の身を守る事さえできない低脳力者の声ばかりですっ! そんな力の無い国民のためにもこの研究結果を発表して実行すれば、もう誰も弱い人々はいなくなり、治安も国の過去最高レベルまで引き上げることができる筈ですっ!』


『……そうなるかもしれない。だからこそ、この研究結果は危険なのだ。賢い我が息子よ、お前ならわかるであろう。これには読むだけで低脳力者たちの脳力を底上げできるほどの力がある。これが低脳力者たちの手に落ちれば、それだけで我が国の――いや各国の政治体系は今以上に混乱し、最悪の場合、今の我々の立場が逆転する事も考えられる。それは全ての者に等しく平和になる事だろうか?』


『それは王族や高位脳力者にはマイナスにしかならない。今の立場が変わり、貴族制が廃止されるかもしれないと言いたいのでしょうっ! 結局父上は自分の事しか考えていないではないですかっ!?』


『お前はもっと冷静になるべきだと言いたいんだ。決して力を持たせることだけが良いことではないのだ』


『では力無き者たちは永久に強き者たちに搾取され、仕事や自分の環境すら選べず……想い人とも一緒に居ることができないのが当たり前で良いと父上は仰りたいのですかっ!?』


『…………あの娘のためか。それなら尚更許すことはできん。私がお前に許すのは、お前が未だにしている《救世連盟》という組織を使った豪勢ごうせいな革命ごっこだけだ。それ以上の特権を私はお前に与えることは一生ない。この研究結果も没収させてもらう。以上でこの話は終わりだ。即刻部屋に戻れ、この非国民の親不孝者がっ!!』


 *

 

 十二歳のそれ以来、国王である父とは書面ですら言葉を交わした覚えはない。

 

 僕は王族だから、国のトップの血を継いでいる。

 だからこの国を自分で廻していける。

 誰もが幸せになることができる世界を作れると、本気で思っていた。

 

 だがそれは思い違いだった。

 

 僕はあの自己中心的な王の息子なのだとあの時に思い知らされた。

 

 あの王の血はとても醜い。

 

 だから、僕の血も醜いに決まってる。

 だから、僕もきっとあいつと同じような政治をするに決まっている。

 だから、僕にはカナタを救うことはできない。苦しめるだけだと諦めたん

 

 これを思い込みだなんて一度も思ったことなんてない…………無いけど……もしこれが自分で正当化した思い込みだとしても、そうだとしても__

 

「そうやって生きていかなきゃいけないくらいに、僕は……無力なんだよ……」

 

 そうこう思い耽ってる内に僕は書類を拾うのも億劫になってしまい、またもやベッドに飛び込んだ。

 

 僕の掠れるくらいに弱弱しい反論は頭の声には届かなかったのか、あの声はその後もう返って来ることはなかった。

 

 まるで何かに満足してどこかに去ったようにも思えたが、自分の心に反論するのは自分自身しかいない。

 

 そうして僕はいつの間にか目を閉じて意識を失っていた。

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