第28話 変わらぬ想い
「ようやく終わった~~!!」
アドラ率いる生徒会メンバーとの試合後、すぐに僕は彼らを叩き起こして裏生徒会の設立に必要な書類を集めるため、彼らと共に生徒会室で作業をしていた。
作業中もアドラは終始僕に対してイラついているし、他のメンバーもさっきの試合でトラウマでもできたのか僕に脅えてコミュニケーションが取れないしで結局作業が終わったのはむしも寝静まる真夜中だった。
『…………あ~~俺様も疲れた。おいクソガキ、なんか面白いことでも言って俺様の機嫌を取れ』
「なんで何もしてない君が疲れることがあるんだい? 作業中もずっと黙ってたじゃないか」
『馬鹿かお前は、黙りこくってたから精神的に疲れたんだよっ。俺様のさりげない優しさに気付かないとは、この愚か者めっ!」
「そんな優しさを君に望んだことなんてないよ。僕が君に求めるのは王としての正しい行動や知恵だけだ。だがそれも時代遅れの骨董品だったけどね」
多少の臨機応変な対応に助かったのはあるが、放課後のクライのアドバイスはまったく役に立つことはなく、結局はその場のテンションでの解決だった。
その話を遠回しに伝えるとそれはクライにもちゃんと伝わったらしくクライもそれについて言及する。
『あんな些細なことをまだ引き摺っていたのか? やはりお前は器の小さい男だな。それじゃあこのビッグな魂の持ち主の俺様がお前と融合できるはずないな、納得だ』
お返しにとばかりにクライも僕に遠回しな皮肉をかましてくるが、その時にクライが言ったちょっとしたことに僕は興味が湧いた。
「それはそうと、君が僕と融合するのは得があるのは分かったけど、僕にはどんな利益があるんだい?」
『おっ? なんだなんだ? ついに俺様と融合する気になったのか?」
「少し気になっただけだよ。で、一体どうなんだい?」
僕は下駄箱から靴を取り出しながら何気なくクライに聞いた。
『まぁいい。俺様がお前に与えてやるのは俺様たち魔族のみが行使できる
「ソウル……ギフト……?」
僕がオウム返しでそう聞き返すと、クライはそれを短く肯定する。
『お前たち人間の力が脳力ならば俺たち魔族の力は
「魂……だって……? そんなもの、現代の科学でも扱うこともその存在を証明することもできないよ。そんな高位のものを君たち魔族は使ってたというのかい?」
今までクライの話しに驚かなかったことはほとんど無かったが、これは流石に荒唐無稽すぎた。そうして僕が頭で理解しようとしているのは悟ったクライが僕を子馬鹿にするように言った。
『それなら聞くがなクソガキ、俺様が
「確かに……そうだけど……」
言いたいことも分かる。クライの言っていることには信憑性も窺える。
だが、それでも、やはり未知のものと遭遇するとすぐには納得できるものではなく、僕はしばらく顎に指を添えて考える。
『煮え切らないガキだな、お前は。まぁ気が向いたらいつでも言ってくれ。俺様には俺様の目的があるからな』
そう言って僕はなぜクライは体を失ってまでこの時代に来たのかが気になり、クライに聞こうとしたその時、まったく別の声が僕たちにかけられた。
「レイ……ジア、君」
「…………………!?」
僕が振り返ると、そこには何か後ろめたいことがありそうに俯きがちでこちらを見るカナタがいた。
「カナタ……? どうしたのですか? こんな遅い時間に? もしかして、僕を待ってたのですか?」
僕がそう聞くとカナタはちょこんと首を縦に振って僕の質問に答える。
「…………どうしても、聞きたいことがあって…………」
カナタはそう言うと、両手でスカートに裾を強く握り締めてまるで意を決したように僕に告げた。
「朝の……その……私が襲われてる時……。あの時、助けてくれたのは、本当にレイジア君だったの?」
カナタの思わぬ発言に僕は寸でのところで平常心を装った真顔を作った。だがそんな鉄仮面の下の僕の心境は穏やかではなかった。
――なぜバレたっ!?
あの時、僕にとってもかなり予想外の出来事だった。その真相は、僕に中途半端に融合したクライの勝手な行動に他ならないわけだが、それは傍から絶対に分かるわけがない。
だが実際には、その場にいたカナタには違和感を残していた。この状況を切り抜けるべきか、それともカナタには全てを打ち明かすのか、そんな迷いを見通したクライが僕に指示を出す。
『落ち着けクソガキ。今裏生徒会のトップはお前だ。ここで他の奴がお前を操っているなんて思われたら、カナタはともかく他の奴らからは白服やアドラたち生徒会が赤服を内部から瓦解させるために演技したと思われてもおかしくない。ここは俺様のことはすっとぼけて真っ直ぐ家に帰れ』
頭が真っ白になっていた僕は、クライの指示に特に何も感じずその言葉通りにした。
「……人に助けられておいてそんな風に思うんですね。カナタさん、僕はとても悲しいです」
「っ……!? ち、違うよっ!! ただ、私はっ!」
「ただ……何ですか? あなたは疑ってるのではないですか? 僕が赤服のために力を貸すなんてと。それとも、他の赤服生徒たちに命令されて来たんですか?」
「だから違うよっ! 私はただレイジア君のことが心配で……!!」
「…………心配?」
僕が小さく問うと、カナタは顔を俯けながら
「朝は白服の所為で酷い目に逢ったよ……。でも……それでも、レイジア君が助けてくれた! それがとても嬉しかったっ! でも、昨日にあんなにしっかりと私とは関わりを持たないって言ったのに、まるでレイジア君が変わったみたいに行動を始めて……。あんなに目立つのが嫌いだったのに…………。だからもし、本当に自惚れてるみたいになるけど、レイジア君が私のために無理をするなら、まったく別人みたいに振舞うのかなって思って」
なるほど、直接的に僕がクライと精神を入れ替えていることには気付いてないみたいだ。
だが、それでも心配してくれたんだ。あんなにも酷いことを言ったのに。
またしてもカナタへの罪悪感や愛おしさで僕の胸は内側からクサビを打ち込まれているほどに痛くなる。それがとても嬉しくもあり悲しくもある。この矛盾とした気持ちと痛みを胸のクサビごと引き抜きたくなる感情を制して、僕は彼女から目を逸らすように後ろを向いた。
「…………本当に……馬鹿ですね…………。僕がたった一人の女性徒のために自分を偽って行動するとでもお思いですか? これは僕がこの国に不満を持ち、そしてあなた
「………………そう……なんだ……」
僕が彼女の言葉を全て否定する頃には、後ろで佇んでいるであろうカナタは弱った声で返事をした。
僕はその声を聞きたくなくて、後ろにいる彼女の表情を想像したくなくて心なしか早歩きでその場を去った。
そしてその時、僕はふと思った。
クライが居ても、やはり僕は、まだ何も変わってないと。
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