第29話 通り魔

 裏生徒会の活動はすぐに始まった。


 旧校舎の隅にあった使われていない体育倉庫を改築し、中に裏生徒会メンバー五人の席を設けた。


 とりあえずメンバーは会長の僕以外に四人の赤服生徒の構成で、活動は主に救世連盟の活動範囲の増加、赤服校舎の改修工事費の再検討申告。その申告で白服校舎にのみ過剰に寄っていた費用を削り取り、赤服校舎の改修工事を開始しすると同時に、まだ裏生徒会への不信感が残る赤服生徒に対して裏生徒会のイメージをアップさせるための活動をし始めた。


 まずは赤服生徒専用のカリキュラムの作成だ。

 

 今まで赤服生徒の授業は白服生徒が使い古した旧型の教科書を使っており、さらに内容も元は白服生徒のために使われていた教科書、ランクの違いやまったく合わないIQ理論を並べられた授業はもはや時間の無駄だった。


 その状況を見た僕はまずその教科書を全て破棄した。そしてその代わりに僕がこれまで《救世連盟》で集めたデータを下に個人のランクにあった教科書の製作にあたった。


 なぜ王族の僕が《救世連盟》のデータを持っているのかと裏生徒会のメンバーには疑問にも思われたが、そこは僕が隠れて《救世連盟》と連絡を取っていたと説明し、その証拠として指導者である救世主からの手紙も見せて彼らを納得させた。まぁ僕がその救世主なのだが。


 そうして裏生徒会の活動を開始をしてから数日後、ある噂話しが拡がっていた。


「――通り魔、ですか?」

「はい。ここ数日、この第一区を騒がせているのがその通り魔です」


 僕の目の前で書類を持ち説明したのは僕が初めて赤服の校舎に赴いた時に真っ先に僕に食い掛かっていたフォル君だ。

 

 今では彼も裏生徒会のメンバーの一人のとして活躍してくれたおり、些細なことでもしっかりと向き合う性格が裏生徒会運営によく働きかけている。

 

 そのフォル君曰く、現在僕らが通う聖ガレアス学園のある第一区では、ランク関係なしの人を襲う通り魔がいるらしい。


 その通り魔に襲われた者たちのほとんどが白服生徒や高ランクの脳力者たちで誰一人として殺されていないらしい。だがその噂では襲われた彼らの全てが脳力を失いIQ値の判定が0となっていると言う。


「裏生徒会ができたばかりで高ランクだけを狙った事件。とすれば、自然とそれを疑う対象は最近活動が活発な僕らに向く。そうして僕ら裏生徒会、ひいては《救世連盟》の息がかかった赤服生徒たちの行動の阻害のために自分たちで自作自演をしているのかもしれません。しかしたとえ王族や貴族の多くが在籍する白服生徒なら、彼らの土地が多くあるこの区域内で噂になるほどの事件を起こすメリットは無いはずですが……」


 ――もしくはそれ以外の目的があるのか


 僕は一度息を大きく吸い込み、伝えることを頭の中で反芻はんすうする。



「現在の赤服生徒の被害者は?」

「今のところはいません」

「それは良かった。とにかくこの問題が解決するまでは赤服の生徒たちに集団下校と集団登校を呼びかけてください。狙われているのが必ずしも高ランクだけとも限りませんから。この問題については僕個人でも動いてみますので後ほど報告します」

「分かりました。指示をお待ちします。それと、今さらなのですが…………」


 話しに区切りが付いたと思っていると、突然フォル君は僕に向かい頭を下げて申し訳なさそうに謝罪をしてきた。


「初めてレイジア様にお会いした時は生意気な口を聞いてしまい申し訳ございませんでした。まさかここまで我々低脳力者のことを考えてくださっていたとは思いませんでした」


 その言葉に僕が目を大きくしている間もフォル君は頭を上げない。そして僕はその反応に少しばかり照れくさかった。


「顔を上げてくれよ。僕はあの時に他の仲間たちのために真っ直ぐ僕に向かってきた君の姿に感銘を受けて今こうして裏生徒会メンバーにしてるんだ。そして今僕は、君と共に働けることを感謝してるよ。ありがとう」


 そう言って僕が未だに頭を下げるフォル君の肩を叩き、頭を上げた彼と笑い合った。




 その日の内に僕らは赤服生徒たちに集団での行動をするよう勧告。特に今日やることが無かった僕は、他の裏生徒会メンバーに細かい書類のチェックを任せて普段よりも早く帰ることにした。


「…………君はどう思う?」

 正門から出ると僕は周りに誰も居ないこと確認してからクライに聞こうと思っていたことを尋ねた。


『例の通り魔のことか?』

「あぁ。第一区の高ランク脳力者たちはそこらのチンピラが倒せるはずがない。どう考えても同じランクかそれ以上のランクの脳力者でなければ倒せない。だが彼ら高ランクが争いあう理由などあるはずがない」

『つまり……最近低ランクの支持を初め、その上で高ランクのことをよく思ってない奴、つまりお前が一番に疑われるわけだ』

「だが僕はやってない」

『それは分かる。ずっと見てるからな』


 それらの結論から導き出される答えはただ一つ。


「誰かが僕を嵌めようとしている」

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