第17話 変態

 朝の騒動の後、あまりにも遅い僕を心配したユリねぇが僕の部屋を訪れ、僕たちは普段よりも遅れて学園へ登校した。


「ごめんユリねぇ……僕が寝坊したばっかりに、こんなギリギリの時間に登校させちゃって……」

「もう、そんなことでお姉ちゃんに気を遣わないでいいのよ? 私は好きでレイジア君と一緒に登校したいんだから」

 

  ユリねぇの言葉に嘘はなさそうで、さっきからずっと隣で朝食も取れなかったのに上機嫌に鼻歌を歌いながら歩いている。

 

 ユリねぇが問題ない、となると、今対処すべきは――

 

『おっほ~~! いいねいいね! さすがは俺様の遺伝子を持つ娘なだけあって胸もでけぇ! 揉んだらきっと手への吸い付きもいいんだろうなぁ~~!」

 

 先程から僕の腰元でユリねぇに聴こえないことを言い事にセクハラ紛いの発言を繰り返している変態魔剣のクライをどうにかした方がいいかも知れない。

 

 家に置いて何をするか分からないからわざわざ鞘をベルトに通してまで連れて来た

僕がバカだった…………。

 

『おいおいクソガキ! お前こんな姉貴がいるならもっと早くに言えよな~』

 

 ――この魔王は本当に下世話なことしか言わないな。


「おい、あんまり話しかけないでくれよ。君の声は僕にしか聞こえなくても僕の声はユリねぇには聞こえるんだから……」

 

 そう、クライの声はクライが乗っ取ろうとして中途半端な”融合”という形に落ちついた僕にしか聞こえないことが分かった。


 そのクライがどうゆう風に外の景色を見ているかは定かではないが、融合したということは恐らく、クライは僕の視覚を共有して外を見ているのかもしれない。だがそうなるとクライはどうやって自分の意志を伝えているのかというのは分からない

 

 結局のところ、僕からはクライの口を閉ざすことも目を閉じることもできない。

 四六時中この声に苛立ちを覚えなければならないと思うと、自然とため息もでてしまう。


『おいクソガキ? どうした、急に落ち込んで。悩みなら聞いてやってもいいぞ?』

「……悩みも何も……今僕は君への対処について考えているんだ……。本当に心配してくれてるなら、君が少し黙るだけで僕の気はだいぶ晴れるよ…………」

『そんな邪険にするなよ~。俺様たちはもう一心同体、運命共同体なんだから』

 

 それなら尚更のこと僕の機嫌をそこなわないようにしてほしい……。

 

『にしても、お前のねぇちゃん何を食ったらあそこまで大きくなるんだろうな~?一回だけでいいからあのたわわなおっぱい揉んでみてくれよ』

「何で僕が実の姉の胸を揉まなきゃいけないんだよっ!」

「えっ…………!?」

 

 しまった! 

 つい声を荒げてしまったせいでユリねぇに不審な目で見られてしまった! 早くごまかさないと……!

 

「ち、違うんだよユリねぇ! その……え~と……ほら! 最近ユリねぇって学園に通うために凄く勉強してたじゃないか! だから、何かマッサージでもしてあげれたらなって思って!!」

「………………」

 

 さっ、さすがに無理があったか?

 さっきからユリねぇの顔も赤いままだし……ここは素直に謝ってしまおうか……。

 そんな風に僕が諦めていると、ユリねぇは何かモジモジして恥ずかしいそうに呟く。

 

「しょ、しょうがないなぁ~レイジア君は……。じゃあまた今度頼もうかな……色々と……」

「う、うんっ! 任してよユリねぇ! ユリねぇが気持ちよくなれるように、僕がんばるからさ!」

「き、気持ちよく……!? …………その節はお手柔らかにお願いします…………」

 

 よかった……何故かさっきよりも顔が真っ赤になってるけど、どうやら難を逃れたようだ。

 

 そうして僕が安心して肩から脱力していると、隣で歩いているユリねぇから「ひんっ!?」となにやら可愛らしい声が聞こえてきた。

 

「うん? どうしたのユリね――!!??」

 

 僕は隣のユリねぇを見て絶句した。

 

 端的に説明するとユリねぇの片乳が指が食い込むほど強く、深く揉みしだかれていた。それだけでも異常な光景だが、問題はユリねぇの乳を揉んでいる右手は僕の右手ということ。

 

 ――ってどういうことだっ!?

 

 あまりの信じられない現状に思考を放棄していた僕は、即座に脱力していた腕に再び力を入れ、引き剥がすようにユリねぇの片乳から右手を離す。

 

 恐る恐る僕がユリねぇを見ると、ユリねぇは耳の後ろまでも赤くして今にも泣きそうに声を擦れさせていた。

 

「ご、ごめんユリねぇ! 今のは事故というか何がなんだか僕にも分かってなくて……!!」

「や……やっぱり……わた……ま……り」

「え……な、なんて? ユリねぇ、大丈__?」


 「やっぱり私にはまだ無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


 そんな風に叫びながらユリねぇは持てる力全てを使って遠くに見える校門に向かって走り去って行った。

 

 僕が唖然としていると、この問題を起こしただろうクライが感慨深く僕に言う。

 

『やっぱり巨乳は最高だな……俺様……本当に転生してきてよかった……』

「頼むからもう一度死んでくれ、この変態魔王!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る