第26話 SSランクの戦い
生徒会メンバー四人は、同時に各々の脳力を発動。
各々の手から生成された炎弾・水槍・突風・土塊が僕を襲う。僕はそれらを時には避け、時には脳力で危なげなく吸収していく。
僕の脳力『
だがそれでも彼ら四人の攻撃の手は緩むことはなく、それどころか余裕の笑みを浮かべていた。それらから推察される彼らの戦い方は一つしかない。
「なるほど。どうやら耐久戦がお望みのようですね」
脳力は脳の機能の一つだ。それゆえに限界があり、無限に使えるわけではない。
使い過ぎればこの前カナタとのデートで遭遇した女性建設員のように脳欠症を引き起こす。だがそれを危惧し僕が脳力を使うこと躊躇えばその隙を狙われる。
たとえ僕よりも劣るとはいえ、あちらの四人は国内でも稀少な存在であるAランクの脳力者。その脳力による攻撃を避け損ねれば僕でもただでは済まない。
体力が尽きた僕に自分たちの攻撃が当たるか、僕の脳が限界を迎えるか。その二つのどちらかが彼らの勝利条件だ。
しかも彼らは攻撃のローテーションを組み、適度な小休止を挟んで攻撃を繰り返している。
これでは大抵の人ならジリ貧で負けることは確実だ。
「ほらほらどうした賢弟。お前にも一度だけ攻撃のチャンスがあるのだぞ? それともそんな隙もないのか?」
アドラが口元を歪めて僕を煽るが、事実、僕は今攻撃に移ることができない。
理由は二つある。
一つは、アドラが言ったように僕に与えられた攻撃は一度のみ。その攻撃で一人でも倒し損ねれば、僕に攻撃の権利はなく強制的に敗北とみなされる。
そして二つ目は、僕の
そのため放出の隙を与えず少しの間すら空けずに攻撃を繰り広げる彼らに、僕は攻撃を行うタイミングを奪われている。
「心配しなくても攻撃はするよ。ただ、それが今じゃないってだけだよ」
「今じゃなければいつだ? 五分後、それとも十分後か? その頃にはお前がどうなっているか楽しみでつい顔がにやけてしまうよ」
そう言って歪んだ口元を隠すアドラだが、その開ききった瞳からは勝利を確信した強者ゆえに嘲りの色が濃く見られた。
基本的には脳力を行使できる時間というのはランクが上がるにつれて上昇していく。その段階はAランクならぶっ続けて脳力を行使できるのは十分。そして僕のランクSSランクは二十分とされている。
だが彼ら四人はローテーションを行って脳力を使っているのを見て考えると、多く見積もっても一人当たり十五分近くは脳力を使うことができるだろう。
そして彼らとは違い僕は一人でその攻撃を受け、たまに体力を消費しながらかわすを繰り返している。
そこから考えて僕の脳力の行使時間は基本水準よりも短くて十五分だろう。
そしてその計算は大方あっており、彼らも理解している。さらには――
「レイジア様はフットワークが軽い。先を見越して攻撃しろ!」
「今の攻撃は避けにくそうだぞ! もう一回同じ方法を試せ!」
「火の攻撃はあまり吸収なさらないわ! 恐らく熱さにはあまり慣れてないのかもしれないわ!」
「水と土なら土の方が吸収が遅い気がする! 次の攻撃で確認する!」
生徒会のメンバー同士の連携の錬度の高さも、彼らが僕と相対できている理由だ。
僕の癖や脳力の詳細などを細かく分析して、次にはそれらをちゃんと活かしてくる。
直接的な攻撃だったものがどんどんと先を見越すような攻撃へ。陽動と思いきや攻撃などの繊細で
「レイジアの動きが止まったぞ! 一気に畳み込め!」
「「「「了解っ!!」」」」
アドラの指示通り余力を残さぬ勢いでの一斉攻撃。
火炎の熱に当たれば体の全てが焼け焦げる。
水槍に貫かれれば内臓を撒き散らす。
突風に晒されれば皮膚は破れさる。
土塊に当たれば骨は砕ける。
どの攻撃を受けても僕はただで済むはずもなく、それらの一点集中の攻撃を僕は右手で支えながらも左手一本で受け止めた。
「いいぞ! 俺たちでレイジア様を押してるぞ!」
「あぁ! アドラ様の言う通りだ!」
どうやらこの作戦を考えたのはアドラみたいだが、当然といえば当然か。
僕の脳力を細かく知っている人間なんてそういない。そのアドラも枠外で満足げな笑みを浮かべている。
「さぁ愚かな弟よ、吸収を続けるのは辛かろう。脳力を常に使い続けるなんてのはほぼ拷問行為だ。たとえSSランクのお前でもそれは変わらない。降参すればその苦しみから逃れられるぞ」
「優しい申し出には感謝する。だけど、生憎僕はこれ以上の苦しみを知っているからね。これぐらいじゃあ負けは認められないよ」
僕の答えが気に入らなかったのか、アドラの舌打ちが大きく響く。
「ならばその地獄を味わい続けろ。数分後、お前は脳力を使うこともできずその場に倒れ伏せる。そしてそのままこいつらの攻撃を食らうことになるんだからなっ!」
アドラの発言に後ろにいる赤服の生徒たちから不安そうな囁きが聞こえてくる。
「だ……駄目だ……あのままじゃレイジア様が…………」
「レイジア様の心配をしてる場合じゃないだろうっ! このままじゃ俺たちの校舎が解体されちまうぞ!!」
「そ、そうなったら私たちどうなるの……?」
「もしそうなったら……退学……かな……?」
「そ、そんな横暴、許されるのかよっ!?」
彼らが不安がるのを野次馬の白服の生徒たち、生徒会のメンバー、そしてアドラも隠すことなく嘲笑う。
――こんな奴らなんかに、この国は任せられない。
「赤服の皆さんっ!」
後ろの赤服の生徒たちに嫌でも耳に入るくらいに僕は大声を張り上げる。
それを聴いた生徒たちが顔をあげてこちらを見るのを肩越しに見て、もう一度彼らに僕は宣言する。
「必ずです! 僕は必ず、あなた方のお役に立てることを約束します。だから見ていてください。ここから、僕たちは変わりましょう!」
後ろの赤服生徒たちと自分に向かって僕は言いきる。
――そうだ、変わるんだ。僕もここから。
「はははっ!! そんな風に考えていたのか愚弟よ! ならば示してみろよ! ほら今にも潰れそうなんだろ? 我慢するなよ。いい加減潰れちまえっ!!」
アドラは僕に向かって言い放った瞬間――
「はっ?」
アドラは目の前で起こっている状況を理解できずアホみたいな声を出した。
先ほどまで僕へ放たれていた四種類の脳力の攻撃がピタリと止まったからだ。
「な、ななな、何手を抜いてやがる!? 早く止めを――!!」
そう言い掛けてアドラが生徒会メンバーの方を見て言葉を失った。
そこには手を掲げたまま立ち尽くした生徒会メンバーの四人。
その顔色は死人のような蒼白く、マラソンを終えた後のように疲れきって肩で息をしていた。
その様子を見たアドラにはそれがある症状の兆候を指し示しているのを知っている。
「……の、脳欠症!? なぜだ!? まだ五分ぐらいしか経っていないはずだ。なのになぜこんな早くに…………!?」
「どうやらまだ何が起こったか分からないみたいだね」
僕がアドラに話しかけると、アドラは首をすぐこちらに向けて僕を警戒するように中腰になった。
「お前……一体何を……」
「兄さんは二つ誤解をしているよ」
うろたえるアドラに対し、僕は指を二つ突きつけてネタバレをしていく。
「一つ目は、僕の脳力の誤認だ。僕の
「……………………!?」
僕がネタをバラす度にアドラは金魚のように口をパクパクとさせるばかりで言葉を発しようとしない。
この姿をもうしばらく見ているのも少し面白いけど、やっぱり悪いからね。もう終わりにしよう。
「それと二つ目なんだけど――」
言葉を綴りながらも僕はおもむろに右手を生徒会メンバー四人に向けてる。そして――
「僕の実力を、甘く見すぎだ」
僕は脳力を発動し、今まで蓄積していた火炎・水槍・突風・土塊をまとめ、一つのエネルギー弾を現出した。その大きさは容易に正方形の枠を越える倍の大きさ、直径にして約十メートルになった。
そしてそれを僕は容赦なく、脳力を使い切り気力も体力も尽きた生徒会の四人に撃ち放った。
「「「「「がああぁぁぁぁぁっ!!」」」」」
それを避ける術を持たない四人とその四人の枠近くに立っていたアドラは、その余波だけで旧校舎の外まで吹き飛ばされ、地面を何度もバウンドした末に力なく意識を失った。
それを確認して僕は唖然とする白服生徒たちに向かって優しく笑いかけた。
「指定範囲外への移動は敗北、だよね? それじゃあこの勝負の勝者は誰かな?」
この後、「勝者はレイジア様です……」の一言が出るまで、僕はさらに優しく白服の生徒たちに笑いかけることになった。,
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