第15話 悪夢
目を閉じた瞬間、僕は謎の悪寒に襲われはっと目を覚ました。
――ここは……どこだ? 暗い……夢の中か……?
見渡す限りの黒い空間。
光すら感じ取れないその闇の中で、僕は何故か自分の姿だけがはっきりと認識できていた。
そして突如、それは黒い空間の一部分を切り取って僕の目の前に現われた。
その姿はまるで陽炎のように揺らいでおり、この黒い空間よりも深い漆黒。
そしてそれの表面に光る赤い双眸が、僕を見つめて離さない。
陽炎は僕の姿を一度舐めまわすように見ると、どこか聞き覚えのある喋り方で僕に話しかけてきた。
『やっと会えたな。まったくもって、ホトホトお前には失望したぞ。まさか転生先がこんな女々しいガキだとはな』
――何だ……こいつはっ…………!?
その声を聞いたのは初めてだったが、なんとなく僕はこの声の主がいつも直接では無く、文字が頭の中で浮かび上がるように聞こえる声の主だと感じた。
声自体は中年男性くらいのドスの利いた声で、その言葉の節々からは何かの熟練者と感じさせるようなどこか威厳のある声だった。
『まぁ、素材としては悪くもないし、俺と同じ位にはイケメンだし、使う分には及第点は超えてるだろう』
――何を言っているんだ……? 使うって……どういう意味だ!
そう言おうとした僕の口から声は一言も発されず、ただただ空気を体から吐き出すだけで意味を成さなかった。
そして気付くと、僕はただこの空間に浮かんでいるだけで体に力が入らないことに気付く。
顔が無いから表情を読み取ることが出来ないが、突然のことで困惑する僕を見て目の前の陽炎が僕のことを鼻で笑った気がした。
『こんなことでうろたえるとは情けない。最後の足掻きがそれでいいなら、ありがたくお前の体、頂戴させてもらおう』
謎の陽炎がそう言うと、陽炎の漆黒の体が空間そのものを呑みこんでいくように膨れ上がった。
そして空間ごとその体を膨れさせた陽炎が僕の体を羽交い絞めにし、僕の口を無理やり開けた。
『さらばだクソガキ。無駄な人生だったな』
最後に言葉を贈ると、陽炎は無理やり開けた僕の口から体に入って来た。
陽炎が僕の体を侵すたびに、僕の体から何かが抜け出し始め、その感覚は手、足、胸とどんどん僕の体が違う何かに変貌していき、僕の感情は恐怖心に彩られた。
だがそれも束の間にことで、すぐにそんな感情すら抜け落ちていった。
そして恐怖を初めとして僕の感情はどんどん抜け落ちていく中、僕に残った最後の一つの感情に陽炎が入り込もうとした瞬間、それは起こった。
最後まで残った僕の何かの感情が、この黒い空間を白い輝きで塗りつぶしていき、僕の中で陽炎の苦しい叫びが木霊した。
陽炎の叫びが途絶えてもその白い輝きはどんどんと強さを増していき、僕の意識すらもこの空間から消えた――
「ハッ……!? はぁ……はぁ……はぁ……」
__そして今度こそ目を開けた僕は、いつの間にか自室のベッドの上で朝を迎えていた。
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