第41話 固定概念――アブソリュート・ギア
「先手必勝……ってな!!」
俺は先ほどと同じように右手の手の平で空気を吹き飛ばし、加速しながら立ち上がったアドラに斬りかかる。
「ひひひっ…………!?」
ギリギリで気付いたアドラは、まるで霧のように体を薄れ、剣が当たる寸での所でその場から消えた。
「ぶふぁあああぁぁぁぁぁっっっ!?」
だが、そうするのは分かっていた。
だから、俺はアドラが消えた瞬間、姿勢を後ろに戻し、《
突然の衝撃とカウンター気味に受けたその一撃は、アドラをまた地面にバウンスさせるほどの威力があり、アドラは十文字型に仰向けに倒れる。
これではっきりとしたが、やはりクライが言っていた融合は、クライの身体能力や生きてきた中で培われた経験も俺に加算されているらしい。
でなけれれば、先程のアドラの転移先の先読みや、人一人吹き飛ばす威力の拳などを放てる訳が無い。
融合の力を確かめていると、先ほどよりも早く立ち上がり、俺のことを訝しげに見ていた。
「君~~っっ!! その力、この時代の物ではないな~~!! まさか、僕チンと同じ転生者がこんなにも早く現われるとはっ!! 一体、君はどこの誰なのかな~~?」
「人に物を尋ねる時は、まず自分から名乗るのが常識だと思うが」
俺が嫌みを言うと、アドラは顔中の筋肉を引きつらせ、これまでで一番の憤慨の表情を見せる。
「まぁいい。君がどこの誰だろうと僕チンのご主人様に敵対するなら、やることはただ一つ。ご主人様に仇なす者に粛清を与えるだけぇぇぇぇぇ!!」
また消えたか。性懲りも無く同じことの繰り返し――いや、違う。
「ふんっ!!」
何かが俺の頭上から落ちてくるのを確認し、俺は咄嗟に横に飛んでその何かを回避する。
俺が後ろを確認すると、そこには巨大な火柱が立っていた。
「どうだい? これがこの送り人の鎌の本当の力さ~~」
後ろから声がし、すぐに臨戦態勢で振り返る。
そこには先程と同じ様にニヒルの笑顔を浮かべるアドラが鎌を振りかぶり、俺の腹部目掛けて斬りつけてくる。
それにいち早く気付いた俺は地面を転がるように鎌の刃先の下を潜り抜け、即座に剣を構える。
「っっ…………!?」
だが、そこにアドラの姿は無く、その代わりに強風がカマイタチの様に俺の体を斬りつけた。
「小賢しいことを。今までに《
「ほ~~ぅ、流石にリブンロック王国の幹部たちの
クライから聞いていた俺の先祖、アメリアの《
それならば、その加算された力がどういう風に加算されるかを考えると、自然とその答えは『奪った力を使うことができる』という仮定ができた。
「でも~~知っていたとしても無駄だよ~~。僕チンは既に何人も生徒を襲っているからね~~。さっき僕チンが斬った女も合わせて約三十人の脳力を使用できるんだ~~。だから、たとえば――こんなこともねっ!!」
アドラはまたもや瞬間移動で俺の前に現われ、そのまま右手だけで鎌を振るう。
送り人の鎌自体にも『対象物以外の遮蔽物の無効化』という性能がある。
あれを剣では受けることはできないと、アドラは考えている。
俺は鎌を避けるために一旦後ろに後退するが、その瞬間、アドラは下卑た笑みを浮かべた。
「もう遅いっ!!」
気付いた時には、俺の居た場所はアドラ使った《
その光景を見て、アドラは改めて勝利を確信し、下品に笑う。
「きゃははは~~!! どうだいっ! 自分の力でトドメを刺される気分はっ!! これで今度こそ僕チンの勝……りぎゃあああああああああああああああっっっ!?」
そして、その油断した横っ面に、俺は剣の腹部分で殴りつけるようにして一薙ぎした。
その結果、アドラは勢い良く鼻血を噴出しながら仰向けに倒れたが死に至るほどでは無い。
あれでも一応身内の身体だ。加減はしたつもりだったが、想定外のことが起きたせいか、体よりもメンタルに効いたようだな。
「なんでだ…………何で生きてる!? あの距離、威力、タイミング、全て申し分なかったはずだ!! なのに、何故、君には火傷の後が一つもないんだあああぁぁぁぁぁっっつ!??」
アドラが激昂する中、俺は剣を振るって重さを確かめ、次の攻撃に備えながら返事を返す。
「別に大したことはしていない。爆発で起こる科学反応を”固定”し、爆発その物を止めただけだ」
俺がありのままの事実を伝えると、何を勘違いしたのか、アドラは違う方向性で怒り出す。
「訳のわからんことを言いやがって…………あくまでシラを切るつもりかいっ? なら、今すぐに言いたくなるようにしてやるよぉぉぉぉぉ!!」
そういった瞬間、アドラはまたもや瞬間移動で俺の目の前に移動する。
それを見越していた俺は奴に向かって右拳で奴の顔面を見据えてカウンターを決めるつもりだった。
「っ…………!!」
数センチで拳が鼻先に当たると言うところで、アドラはまた瞬間移動によって姿を消し、俺の背後に回っていた。
「これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
あの送り人の鎌の『遮蔽物の無効化』でガードが出来ず、俺はこのまま斬られる――とアドラは思っているに違いない。
だが、俺はまさにこれを待っていた。
俺は体重の右拳を思い切り振りかぶり、その勢いで体を捻るように反転させる。
既にそこには、鎌を振りかぶっているアドラが、あの不気味な笑みを浮かべてその鎌を振り斬っていた。
斬れば人の魂を奪い、ガードをすることも許さない、まるで死神の鎌。
その確死を司る鎌相手に、俺は剣を構えた。
その瞬間、今度こそ勝ちを確信したアドラはさらに口角が吊りあがり、その不気味さを増した。「こいつ、最後の最後でしくじりやがった」と言わんばかりに。
だが、次に響いたのは俺の腹の肉を切り裂きながら血が噴出する音ではなく、鉄と鉄がかち合った金属音。つまり、アドラの鎌と俺の剣がぶつかった音だった。
「はっ…………? なん……ふぁうぅぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!??」
その事実にワンテンポ反応が遅れたアドラは、今度こそ俺の右拳を顔面にめり込ませ、後ろに吹っ飛んで倒れる。
「な…………がぁっ! …………な……ぜぇ……!?」
まだ意識があるのか。流石はクライと同じ時代の奴だ。
「不思議そうだな。俺が何をしたのかが理解できなくて」
俺が小馬鹿にするように言うと、アドラはフラフラと立ち上がりながら俺を睨む。
「何故だ……あのアメリアの鎌だぞ? その鎌の性能があんな剣に劣るというのかっ!!」
「はははっ!」
それを聞いた俺は、笑いを堪えきれず、少し噴いてしまう。
「なっ……! 何がおかしいっ!!]
「いや、すまないな。忙しなく変わるお前の表情が面白くてな」
「貴様ぁぁぁぁぁっっっ!!」
今度は瞬間移動も使わず、馬鹿正直に鎌で斬りかかって来た。
おそらく、先ほどの送り人の鎌の性能が効かなかったのがたまたまだと思ったのだろう。
奴は今までに無いくらいに焦った様子で鎌を振るい続ける。
だが無駄なことだ。
「はははっ! はははははっっ!!」
「笑うなっ! 笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その攻撃全てを俺は難なく受けきり、それと同時にアドラの隙を縫うように、何度も鉄拳を顔面にめり込ませ続けた。
それを繰り返す内、何度やっても同じと気付いたのか、一度アドラは俺から距離を取り、肩で息をしながら思案する。
「何故……? 何故なんだぁぁぁぁぁ…………!!」
そろそろ哀れに思えて来たな…………少しサービスでもしてやろう。
「実は、この剣グラナドラにも性能があるんだよ」
「何…………? そんな剣が……伝説の魔武器の一つだと言うのか…………!?」
俺はグラナドラを掲げるように持ち、アドラのアホにも伝わるように解説をする。
「このグラナドラの性能は、簡単に言えば”壊れない”こと、ただそれだけだ」
それを聞いたアドラはまたもや頭に血を昇らせ、激高しながら俺に攻撃してくる。
「ふざけるなっ! その程度の性能で、この送り人の鎌の攻撃を防げる訳がないだろうがっ!!]
「確かにそう思うかも知れないが、壊れないと言うことはつまり、形が変わらないということと同義だと思わないか?」
ここまで言って、やっとアドラは気付いたらしい。
アメリアの鎌、送り人の鎌は確かに強力な武器だ。
だが、それは遮蔽物に関与して、その対象遮蔽物をすり抜けるように同化することで効果を発揮する。
だが、グラナドラは壊れない。つまり、形や認識も変わらないために、対象としても認識されない。だから、送り人の鎌はグラナドラを貫通せず、剣激を行なうしかなった。
「確かにその鎌は強い、しかし、使い手が相手の武器との相性も考えない馬鹿なら話は別だ」
「貴様ぁぁぁぁぁ…………!! 舐めるのもいい加減にしろっ! まだ僕チンには低脳者やお前から奪った脳力のストックが…………!!??」
そこまで言いかけて、アドラはワナワナと体を震わしながら涙目になる。
「無い……? 僕チンの……僕チンが集めた脳力が……!!」
今さら気付いた所でもう遅い。既に魂の定着は完了している。
「お前が探してるのは――こういう力か?」
俺は右手で精神エネルギーを噴出しながら一気にアドラに詰め寄り、その勢いに任せてまた剣の腹で殴る。
「げふぅぅぅううううぅぅぅぅぅっっ!?」
もろに直撃したアドラは、剣で殴られた腹から鈍い音を立てて膝を着く。おそらく、アバラの二、三本は折れただろう。
「がっ…………あっ………それは《
「奪ったんじゃない。この力を俺の魂に固定し定着させたんだよ」
「こていと……てい、ちゃく、だと……?」
ダメージが残っているせいで遂に立ち上げれなくなったアドラは、首だけを動かして俺の顔を見上げる。
「そうだ。そもそも
俺が説明し終わる時には、既にアドラは言葉を失っていた。
先ほどからしている空気での高速移動も、空気中の酸素を瞬時に別離させることでその場の空気圧を手で押し出しただけ。
そして俺は、アドラに鉄拳を打ち込む度に、奴が《
「残ったのは、お前の魂だけだ」
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