第2話 星に願いを
人の人生は生まれた瞬間、その人の脳の出来次第で決まる。それがこの国ひいてはこの世界のルールだ。
新界暦。
それは神の奇跡、超常現象と呼ばれる超常の力の全てが人間の脳の力によるものだと解明されたことからできた新たな暦。
人間の脳組織をとある連合諸国の学者たちが解析し、人間の知識や記憶といった才能全てが脳の出来次第で分かると決定付けられた。
そして、その出来を判別する異能の力を学者達は『Identity Quality』通称IQと名づけ、そのIQによる影響や特殊な能力のことを”能力”と”脳”を文字って『脳力』と名づけられた。
人々はその脳力を基準に自分の就ける仕事、役職、委員会、学校、友人までもが全て国によって定められた基準によって決められた。
そしてそれは、恋人を選ぶ権利すらも例外では無かった。たとえそれが子供同士であったとしても。
街から一番近い丘。そこが僕とカナちゃんのお気に入りの場所だった。今日この日までは。
「いやだ……僕、カナタと、離れたくないよ……。ずっとずっと、一緒にいたいよ……!!」
「ほら! 男の子が泣かないの!! 今のレイ君、すっごいかっこ悪いよ!」
別れを惜しみ泣きじゃくる僕に対して、幼馴染の女の子のカナタはいつも通り明るい笑顔で僕を慰めるように叱る。
「それに今日が最後って決まったわけじゃないじゃない。私、レイ君のお家まで、毎日遊びに行くからっ!」
僕が思う事の正反対のことをカナちゃんは相変わらずの太陽のような笑顔で言い切った。
「……カナタは引越し先がどれくらい遠いか知らないの?」
「うん、知らないっ! でも、なんとかなるでしょ?」
僕は重くなる頭を手でなんとか支え、その他の問題も挙げていく。
「……王族が平民と遊べるのは十才までで、僕は明日十才になる……。仮に脳力の基準がないアメリア学園に二人で入学したとしても、もう僕はカナタとは仲良く出来ないよ……」
そういうとカナタは「う~ん……」と唸り声を上げながら、腕を組んで考える。ただ腕をバツ印にしているだけで、カナタにとっては腕組みをしているつもりのようだ。
そうして少しの間考えたカナタは、名案を思いついたと指を鳴らそうとしてた。だが、二度、三度やっても親指と中指を何度も掠らせるだけで気持ちの良い音はでない。
ついに諦めたカナちゃんは両手をパンッと強く叩いて提案する。
「よし! じゃあ約束しよっ! もし将来私たちが再会することができたら、二人でこの世界のルールを変えよう! 一人ではできないかもしれないけど二人ならきっと大丈夫!」
「……二人でも無理だよ」
「じゃあ三人!」
「いや、人数の問題じゃなくてね……カナタってランクDでしょ? その時点でもう絶望的というか、敗北してるというか……」
そういって消極的な事を言っていると、カナタは僕の顔を覗きこむように見つめてくる。
「レイ君は…………もう、私とは会いたくないの?」
「そんな訳無いだろうっ!! けど……誰も、僕達のことを許してくれないじゃないかっ……」
僕は掠れ消えそうな声でカナタの言葉を否定する。
すると、カナタはこれまで以上に明るい笑顔で僕に微笑む。
「じゃあ約束ねっ。あそこ、見て」
カナタに言われるがままに、僕は彼女が指差す空の一隅を見る。
そこには夜が訪れたことを急いで思い出したように星々たちが煌きだしていた。
この調子なら、あっと言う間に夜になるのも近いだろう。
「あの星、覚えた?」
「う、うん……? 一応場所は覚えたけど何で?」
僕がカナタの行動を不思議に思うと、カナタは星の中でも一際煌いている星に指を差したまま言った。
「あれが私たちの星」
「えっ? どういうこと?」
「一番星、見つけるの得意でしょ、レイ君は。私が見た中であれが今日の一番星」
この丘では色んな事をカナタとした。鬼ごっこ、おままごと、かくれんぼ、あやとり、しりとり。その中でも僕が一番好きだった遊びが一番星を見つけることだった。
活発で走り回ることの方が好きなカナちゃんは不満だったのかも知れないけど、二人で芝生に寝そべって、手を繋いで、必死に星を探す無邪気な彼女の横顔を見るのが何よりも幸せだった。
「次に会うのは、多分、学園――きっと誰でも入学できる聖アメリア学園に入学してから。だから、その……その時にもし、もしも、今と同じ気持ちが少しでも残っていたなら。あの星の下で……その……キス、しよ。それで、恋人になって二人で世界を変えるの…………それが約束」
少し恥じらい、言い篭りながらも確かにカナタは言った。僕と将来キスをしようと。恋人になりたいと。
その気持ちだけで、僕が彼女に返事をするには十分過ぎた。
「わかった……。僕、頑張るよ。絶対に僕が父上よりもすごい王様になって、カナタと一緒に居られるような国にしてみせるっ!!」
僕がそう言い切ると、カナタに僕は左手の小指を差し出し、カナちゃんも自分の右手の小指を出し、指きりをする。
いつも、この丘で次の待ち合わせを約束するように。
「じゃ、またね」
「うん、またね」
そう言って、僕達は同時に指を離した。
この時のことを、僕は、未だに一度も忘れたことはない。
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