魔王に魂を乗っ取られましたが、結果、幼馴染とも付き合えて僕は幸せです
友出 乗行
第1話 絶滅
過去、世界には魔族という種族が存在した。
だが種族の名前が違うだけだ。人間のように泣くし、笑うし、怒るし、悲しむ。そんな当り前ができる種族。
その種族が今まさに人間の手によって滅亡しようとしていた。
人間はありとあらゆる手段をもって魔族の全てを殺そうと企てた。それは女子供から老人に至るまで変わらない。大量の虐殺だ。
俺はその魔族の最後の王として国民を守るために戦った。
目の前に広がる敵の足を噛み千切り、首を斬り落とす。
魔術を持ってして敵が身に着けていた鎧ごと体を焼き尽くした。
人間よりも遥かに強靭な肉体を持ってして敵の腕を折って投げ飛ばし肺を踏み潰しもした。
喰らう、焼く、潰す、折る、飛ぶ。噛み砕く、滅する、消す、折る。とにかく様々な方法で人間を殺した。守るために。
だがそれも限界を迎えた。遂に人間たちは魔族最後の国リブンロックまで侵攻した。
もう既に逃げ場の無くなった魔族に俺様は最後の戦いに出ることとなった。
だがその前に俺様は一度落ち着くために大きく深呼吸をして、始めて城内を見渡した。
「あー……。もう百は逝ったか……」
目を閉じると、視覚を絶ったおかげで聴覚がよく働き、俺のいる『リブンロック城』の中の様子が良く分かった。
侵入してきた人間たちの連合軍の兵士たちの叫び声が良く聞こえた。まさに阿鼻叫喚だ。
再び目を開けば、死屍累々の地獄絵図が待っていた。
戦争が始まってからこの光景にはだいぶ慣れたと思っていたが、やはり無理だな。
ある奴は炎に生きたまま焼かれ掠れた叫びをあげ、ある奴は崩れ落ちた城壁に潰されてて即死していた。そんな光景を敵味方関係なく見続ける、それが戦争だ。
苦しみの死か無自覚の死か、どちらが幸運かなんて議論があるがこの光景を見れば答えは簡単だ。どちらも不運だってな。
「まぁ、今の俺様も死んでいるっちゃ死んでるがな……」
俺様の掠れるような文句も、城が崩れる音と敵の叫び声や悲鳴で上書きするように掻き消される。
俺様は再び立とうと足に力を込めるが、何故か足の感覚がない。
それだけでなく、さっき飛ばされた時も思っていたが、なんだか体全体が予想以上に重い。
さすがの俺様でも《時空移動》を使って部下全員を移動させるのはしんどかったか?
俺様はため息をつき、自分の考えの無さを呪う。
そして、もう一度立ち上がろうと手で足に力を入れようとした時、俺様は体のだるさの意味を知った。
「ははは……。体は重いのに足は妙に軽いと思ってたら…………足ねぇし……」
どうりで普通に座った時よりも視線が低いと思った。
そう分かると痛みが遅れて俺様を襲い、既に虚ろな意識を刈り取ってくる。
――まだ、俺様は死ぬ訳には行かない。
奥歯を噛み締めてなんとか意識を保ちながら、仕方なく俺様は《飛行》を使って、城内の廊下を飛び、王の間へ行く。
そこには戦いの中で剣激で飛ばされ床に突き刺さっている俺様の唯一の愛剣グラナドラの傍で着地する。
剣なんて使えればなんでもいいと思っていたが、このグラナドラは絶対に壊れないことが売りで、いつも適当に剣を使って速攻で刃こぼれだらけにする俺様でも、唯一安心して使える愛用の一品だ。
「でも……まぁ……足が無いんじゃ、これは振れないな……」
俺様は名残り惜しく、グラナドラの柄をそっと、丁寧に、名残り惜しく撫でる。
足の一本や二本など生やそうと思えば生やすことはできるが、もう、俺様の魂も衰弱している。力の一割も使えないだろう。
それなのに__
「……ったく……また連合軍の部隊が合流しやがったな……。数は、ざっと……五千ってところか……」
改めて、城の王室を見渡すと、いつも過ごしていた日常の光景が自然と浮かび上がってくるようだった。
そんな短い回想すらも許さないように外からの砲撃による一撃は俺様を容易にこの地獄に無理矢理引き戻す。
大量の人間たちが《土壁》で作った壁を破壊し、俺様を滅ぼさんと奴らの正義を掲げて悪の魔王となった俺様の居る王の間まで一直線に向かってくる。
――もう、ここは長く持たない。
――もう、ここにはいられない。
途端に視界が滲み始めた。頭部には傷は無い。
「おっと……まだこれは見せる時じゃねぇな……」
目元に垂れたそれを押さえ込むようにしてぐっと堪えると、俺様は『魔王』として、最後の大仕事をする。
「魔大国リブンロック、最後の住人にして最後の王である俺様クライ・リブンロックが、ここに命じる!!」
城壁は崩れ落ち、床は割れ、周りにあるのは燃え盛る火の海と魂無き抜け殻に魂の留まった屍のみ。
まさに死屍累々、阿鼻叫喚。
その中でただ一人、味方が誰一人としていない城で、俺様は叫ぶ。
それはただの叫びではない。願いでも、願望でも、見えない希望でも、現実から逃げるための世迷言でもない。
そう、これはただの指令という名の,これから起こる事実。
何十年、何百年、何千年になろうとも、必ずこの声を聞く者がいる真実がある。
それがわかるから、俺様は叫ぶことが出来る。
そして、俺様は愛剣の切っ先を己の心臓に向け、この国最後の指令を、今、何処に、どの時に、どんな世界で会えるかわからない、まだ見ぬ従者達に下す。
「皆、またこの地にて再び、交えようぞ!」
そして俺様は迷い無く、愛用の魔剣で自分の心臓を貫いた。
こうして地上にはいた魔族という種族は、絶滅した。
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