第24話 裏生徒会

 僕が目的を告げた瞬間、教室のざわめきはさらに増し、お互いに聞き間違えたのかどうかを顔を合わせて確認しあっていた。

 

 当然だ。僕もこれをクライに言われた時は心底驚いたのだから。

 それでも僕は生徒たちが動揺するのもお構いなしに言葉を続ける。


「このまま進めば近い未来、この国の王は継承権第一位の僕に引き継がれるでしょう。ですが、今のこの国の制度では、僕がこの国を統治する頃には自分勝手で傲慢な貴族が圧制を敷くそんな世の中のままと危惧します」


 僕の演説を聞いていた赤服の生徒の何人かが頭を縦に振って肯定する。


「その未来の国の縮図が僕はこの学園と考えています。生まれ持った脳力や家柄だけを振りかざし、貧しい者や弱き者に暴力を振るう、そんな事は日常茶飯事です。今日ここにいる皆さんも見たでしょう。朝のあの白服生徒が振るった暴力をっ!」


 そこまで言うと教室のどこかから「お前もそんな変わらないだろ……」と言う声が聞こえてきた。

 それを波紋にしてその声の近くにいた生徒たちにも白服の僕が同じ白服を貶めている言動に違和感を持ち始めた。


『問題ないぞクソガキ。このままの路線で話を続けろ』


 言い淀んでしまいそうになる僕をクライの言葉が繋いでくれた。僕はそのまま言いたかったことを伝えていく。


「ですが皆さんは違います。あなた方の結束力、団結力、そして学園初日からの勧誘活動という行動性に僕は感動に近いものを感じました。その力を生かせる場を若い頃から育み育てることこそ、僕は将来この国に必要なものだと確信しています。あなた方と僕とで新たな国への架け橋になりたいっ。そこで僕と一緒に《裏生徒会》の運営を《救世連盟》のあなた方とやっていきたいっ!」

 

 この僕の発言にまた赤服の生徒たちは驚きを隠さず、先ほどよりも騒がしく動揺する。

 

 この聖アメリア学園の生徒会の規則は全てが白服生徒たちの都合で設定されているため、その規則を赤服の生徒が破らざるを得ない場合がある。

 

 昨日の朝からの勧誘もその一つであり、赤服の生徒は《救世連盟》以外の活動である部活動や委員会活動も同様の理由で禁止をされている。

 

 もし、裏生徒会が設立する事が出来れば、今まで困難だった《救世連盟》の勧誘や部活動や委員会活動など、学園行事に関する活動も活発的にすることが可能になる。

 だが、ここまで聞いても赤服の生徒たちの不安や不信感が勝っていた。


「それができないから、今まで困ってたんじゃないか…………。今さらそんなことが可能なのか?」

「でも、王族のレイジア様が宣言して頂ければ、それだけでも変わるんじゃないか?」

「そのレイジア様だから信じられないんじゃないか。今まで、どれだけの俺達の同志たちがレイジア様に補導されたと思ってるんだよ!」

「そうよね……。今まで、散々私達の邪魔をしてきたレイジア様が、今さらになって私達の手伝いをしたいってこと自体おかしいのよね」

「何か裏がありそうで……怖い……」

「やっぱり、信用しちゃだめなのかな……?」


 どうやら僕の今までの王族での活動や低脳者への扱いが僕を信頼から遠ざけているらしい。

 

だが、こうなることはクライも僕も最初から分かりきっていた。

 今は活動拠点を作ると伝えることが今回の目的だ。信頼を築き上げる策はこれから考えていけばいい。今は彼らに話を聞いてもらっただけでも及第点だろう。


「今すぐにとは言いません。今回はお話だけ聴いていただけでも良かったです。これ以上のことは後日、僕が生徒会との話が終わり次第に――」


 その時だった。

 突如、レイジアたちのいる旧校舎に物凄い振動が襲った。


「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ななな、な、何だよおおおぉぉぉぉぉ!?」


 何かの突撃とその衝撃。


 耐震工事すれも怠っていた旧校舎の床や壁や天井にはヒビが走っていき、建物の命が磨り減っている証拠のように天井から土屑が舞う。


 突然の衝撃で生徒の殆どがパニックに陥いる中、すぐにフォルや他の生徒たちがみんなを落ち着かせようしていた。


「…………ふっ…………!!」


 僕は左手を床に付けて《生殺与奪ギブ・アンド・テイク》の脳力を使用。

 旧校舎に起こる振動や衝撃を全て吸収していくと、次第に揺れは収まってゆき、ヒビの進行や天井の土屑が舞うのも止んだ。


「皆さん! 大丈夫ですか!?」

「……はっ、はい……なんとか、怪我人はいません……」


 僕の声に辛くもそう答えたフォルや遠くで女の子同士で固まっているカナタを見て、本当に怪我人がいないことを確認し終える。


「よ……良かった……」

『何が良かっただ! 外を見て見やがれ!』

 

 安心するのも束の間、クライに促されて外を見渡すと、そこには白服の生徒たちが何十人もずらりと隊列を組んでこちらに手をかざしていた。

 

 そしてその隊列の一番先頭にいる男を見て、僕は目を見開いた。


 それは僕の実の兄にして、ガレアス王国王位継承権第二位の男。そして現生徒会の生徒会長アドラ・ガレアスだった。

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