第6話 お誘い
その翌日の朝、校門前。
「レイ君! おはよう! 今日はいい天気だね!」
僕は声をかけてきたカナタを一瞥もくれず素通りする。
「ちょいちょいちょい!! それはひどいよレイ君! せっかくこんなにも可愛い彼女を無視するなんて!」
歩き続けていた僕の前に手を大の字にしてカナタが行く手を遮る。
「誰が彼女ですか……。あと、僕はあなたの言っている方とは別人ですので、その呼び方は止めていただけますか? 迷惑です」
「え~、だってレイ君はレイ君でしょ? そんなことよりも、今日これから『救世連盟』の活動でビラ配りするんだけど、レイ君もどう?」
「…………正気ですか、あなたは」
「正気も何も約束したじゃない。二人で世界を変えようって。そのための第一歩を二人で踏みしめるのは当然なのです」
そういうことじゃない。『救世連盟』自体、規模が小さいためにただのデモ活動に収まっているが、国の基盤であるランク制に抗議している『救世連盟』は非国民と変わらない。
そこに王族である僕も参加しろという神経は図太い、いや図太いというよりは狂っているの方が正しい。
それに何よりも、僕は一番『救世連盟』に関わってはいけない理由がある。そしてそれは、たとえ、彼女にも知られてはいけない。
僕は彼女を振り払うように半ば強引に横を抜けつつ一言だけ彼女に言い放つ。
「とにかく、もうあなたとお話しすることはありませんので僕は失礼します。そして……今後一切、僕に関わらないでください。迷惑です」
「…………」
さすがにこれでカナタが僕に構う必要はないだろう。これだけの拒否をアピールしたのだから。これでまだ関わってくるのならば、彼女は本当に図太い性格だろう。
そしてその日の放課後。
「あっ、レイ君っ!! 待ってたよ!! 今日ちょっと時間ある?」
ホームルルームを終え、帰ろうと教室を出るとカナタが僕を待ち伏せていた。
「いいえ、僕は忙しいので、今から帰ろうと思うのですが…………」
「あ、そうなの? なら、私と放課後デートしよう!!」
……おかしい。
僕は急がしいと言ったはずだが、相変わらずこの子は人の話を聞かないな。
「僕はこのまま帰ると言ったんです。あなたと遊んでいる暇などありません」
僕は相も変わらずカナタに冷たく接するが、彼女はケロッとおかしそうに笑う。
「だって、ただ帰るだけなんてつまらないよ。だから、ちょっと私と遠回りするための放課後デートってことだよ」
「僕は退屈な帰り道で結構です。それに、帰るなら僕は他の方と帰りますので、あなたの暇潰しはご自分の友人達とどうぞ」
「え~ケチ~。いいじゃ~ん、行こうよ~」
僕が抗議の声を挙げると彼女は人差し指を顎に当てて真剣に考え事を始める。
面倒な事になった。が、これは諦めさせるチャンスでもある。
このデートで僕が『レイ君』では無いという所を見せれば、今後彼女と関わる事は無い筈だ。
「…………分かりました。今日だけはあなたに付き合いましょう」
「本当にっ!? やった!! じゃあ早く行こうっ。私、レイ君との初デートは絶対ここって所があるの!」
僕が承諾すると、カナタは僕の腕を引っぱりながら歩き出す。
その表情は子供の頃と変わらず、一転の曇りのない満面の笑顔を浮かべていた。
「何でそんなに嬉しいのかが、僕にはまったくわかりませんよ」
ただ遊びに行くだけでこんなに喜ぶとは、見た目どうりお気楽な性格らしい。
前を歩く彼女の姿に僕は肩を落として諦め、ゆっくりとその後を追おうとした――
『そういうお前も、顔が綻んでるように見えるが』
「っっっ……………………!?」
風が吹き抜けるような声が僕の耳元を通り過ぎた気がした。
突如聞こえたその声に驚いて周りを見渡すが、周りには他の生徒達がもの珍しそうにこちらを横目に見るだけで誰もそんな口を出そうとする人は居なかった。
気の所為かと思いなおした僕は、特段気にする事なくカナタと共に下校した。
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