第48話 ダブルデート(2)~ボウリング勝負~
合流した俺たちは、連れ立って駅前ビル4Fにあるボーリング場へ。幸い、比較的空いていて、あっさり入ることができた。
ボウリング用のシューズとボールを借りて、「3」と番号のついたレーンに移動する。
「なあ、せっかくだから、賭けやろうぜ、賭け」
せっかくボウリングに行くのだからと考えていたことを持ちかける。
「うん、いいね。そっちの方が楽しそうー」
一も二もなく姫は賛成。
「あんまり変なことじゃなければね」
タカも何か含みがありそうな言葉をいいつつ賛成。そして、
「縁ちゃん、何企んでるんですか?」
露骨に疑いの視線を向けてきたのが、愛しの彼女である紬だ。
「企むってひどいな。勝った奴が負けた奴に1日命令できるってだけだ」
せっかくのダブルデートだし、こういう要素を入れてみたかったのだ。
「いいですけど。変なことはナシですからね?」
なおも疑いの視線を向けてくる紬。どれだけ信用ないんだ、俺は。
「変なことって、どんなこと想像したのかな?」
少しからかってみる。
「そりゃ、変なプレイとか……って言わせないでくださいよ」
こいつは、一体何を妄想していたんだか。
「じゃ、あんまり変なお願いだったら、拒否権ありでどうだ。あと、1位が4位に、2位が3位に命令できるってことでよろしく」
「また変なルールを持ち出して来たね」
タカは苦笑いだ。
「やっぱり、縁ちゃんが変なこと言い出しましたね」
そして、紬はジト目で睨みつけてくる。
「でも、面白そうじゃない?」
姫を除いて総ツッコミが来た。
「予想できない要素があった方が燃えるだろ。別に、金賭けてるわけでもなし」
「まあ、いいけど」
「ほんとに、変なことはナシですからね」
「どうしようかなー」
三者三様の反応。そして、姫は何やら狙いをつけているようで。
そして、ゲーム開始。まず、最初は俺だ。助走をつけて、手首を捻って投球。右端からうまく真ん中にカーブしたボールは全てのピンを倒して、見事ストライク。
「よっしゃー!」
皆とハイタッチ。
「相変わらず変化球が得意だね」
タカからのコメント。
「真っ直ぐだと、逆にずれるんだよな」
中央近くから投球するのだと、どうにもうまく行かないので編み出したのが、端っこから手首を捻って投球するフォームだった。
「こういうところにも性格が出てますね」
「地味にひどいこと言うなよ」
「縁君らしいと思うよ」
「らしいって何だよ、らしいって」
なんてわいわい言い合う。続いては、タカの番だ。綺麗なフォームで助走して、中央近くから投球。球速も早く、すべてのピンが一気に倒れる。
「さすがタカ!」
同じく皆でハイタッチをする。
「投球フォーム綺麗ですね、一貴先輩」
「一貴君、格好良かったよー」
冷静に分析した紬と彼女らしい姫のコメント。
続いては、紬の番だ。前にやったときは、普通だったと思うが、さて。
ゆっくり助走をつけて、真ん中からゆっくりと転がすような投球。ど真ん中に行ったのだが、ボールの重さか球速のせいか、左と右のピンを1本ずつ残したのだった。
「あー、惜しいな」
「私、こういうパターン多いんですよね」
「ドンマイ、紬ちゃん」
「マイペース、マイペース」
なんて言い合う。左と右のどっちかを取らざるを得ないので、次の投球では無難に左のピンを倒して、終了。
そして、最後は姫。以前見たのはだいぶ前だったが、はてさて。
スカートだからか、ゆっくりゆっくりと助走をつけて、ごとんと置くようにしての投球。ど真ん中を通って、右の1つを残してドカドカとピンが倒れた。そして、次の投球では、同じようにして置くように投球して、見事スペア。
「やったー!」
「あれでスペアとか地味に凄いな」
「姫ちゃん、狙いは鋭いんですよね」
「姫ちゃん、おめでとう」
あの置くような投球できっちり倒してくるところは凄いが、何はともあれこれで1フレーム目は終了だ。
紬は微妙に安定しないが、姫は意外に点を取ってくる。そして、無難に倒してくるタカは手強い。
そんな感じでゲームが進み、9フレーム目。点数は、
縁 :160
一貴:157
紬 :135
姫 :140
だ。よっぽどの事がない限り、3位4位争いは紬と姫で、1位2位争いは、俺とタカだろう。
しかし、だ。問題は、紬と姫だ。俺が2位になるとして、紬には3位をとってもらわないと困る。それに当たって問題なのは、姫の動向だ。というわけで、作戦開始。
「あ、ちょっとトイレ行ってくる」
と言って、トイレの便器に座った俺は、ラインで姫にメッセージを送る。
【相談があるんだが。姫、うまいことガーター連発してくれないか?】
【……また、変なこと企んでるんだね。理由によっては聞くよ】
【話が早い。俺としては、紬に命令したい】
【うんうん】
【で、そのためには俺が2位になって、紬に3位になってもらうのが早い】
【そうだね】
【というわけで、姫には4位になってもらえると助かる】
【それ、縁君には旨味があっても、私には無いと思うんだけど】
【せっかくだし、姫はタカのお願いを聞いてみたくないか?】
【……聞いてみたい】
【じゃ、交渉成立な】
というわけで、交渉を終えた俺はレーンに戻る。
「遅かったね」
「ああ、ちょっと、友達からラインがあってな」
そう誤魔化したが、特にタカには不審に思われなかったようだ。そして、第9フレーム開始。
最初の番の俺は、ガーター狙いの投球。あまり露骨過ぎるとまずいので、うまくコントロールを外した風を装う。そして、結果はピンを2つ倒しての終了。
「あー、ちょっとノーコンだったな」
「縁があそこまで外すの珍しいね」
「せっかくだから、1位取りたいと思ったら、つい、な」
「そっか」
タカは特に不審に思わなかったようだ。そして、姫はというと、
「ちょっと残念だったね」
「ああ。ちょっと悔しいな」
談合済みなので、そう言いつつも姫はちっとも残念そうではない。一方、
「じー……」
紬は何か疑わしげな視線を向けてきた。
「何か言いたいことでもあるのか?」
「いえ。どうも、投球フォームが不自然だったんですよね」
鋭い。こういう観察眼は侮れない。
「ちょっと緊張しただけだって」
「まあ、いいですけど」
深く追求する気はなかったのだろう。心の中でズルをしている事をそっと謝った。最終的には俺のスコアは162。できれば両方ともガーターにしたかったところだが、致し方ない。それでも、タカが7本以上倒してくれれば、うまく2位になれる。
そして、タカの投球。ど真ん中をぶち抜いた……かと思いきや、中央のピンだけふっ飛ばして、残りは3本。その後は、残りの3本の内2本を倒して、合計9本。最終スコアは166。これで、俺の2位はほぼ確定だ。
(よしっ)
心の中で俺はガッツポーズ。
次は紬の投球。ストライクでも来ない限りは、逆転は難しいはずだが。相変わらずゆっくりとした助走から放たれたボールは……なんと、全てのピンを倒してしまった。まずい。これで、第10フレームの得点次第では、逆転1位ということすらあり得る。
(外してくれ外してくれ……)
という俺の願いも虚しく、第10フレームで紬は再びストライク。
「やったー!」
全身で喜びを表している紬だが、せっかくの策がフイになってしまった。悔しい。
結局、第10フレームまで含めて、紬のスコアは165。これで、タカが1位、紬が2位、俺が3位という格好になってしまった。
そして、姫の投球。しかし、当初の予定とは違うが、さっきの談合の内容からすると……予想通り、適当に投球して、5本倒して終了。スコアは145だ。結果、
俺 :162
タカ:166
紬 :165
姫 :145
となり、俺は紬の命令を聞く羽目になってしまった。とほほ。姫の方は予定通りになったが。
「負けた、負けた。で、紬は何して欲しい?パフェ奢るのでも、何でもやるよ」
きっと、こいつの事だから、無茶なお願いはしてこないだろう。
「それじゃあ、センパイ。今日1日はこれでお願いしますね?」
紬は笑顔でそう言ったのだった。ん?
「一貴がどうかしたのか?」
「いえ。縁ちゃんのことですよ。センパイ。今日は1日そう呼びますから」
「はあ?なんでまたそんな願いを……」
「私達って、先輩後輩らしくないじゃないですか。せっかくですし」
「そりゃ、そうかもだが」
「それに以前、センパイも先輩って呼べって言ってたじゃないですか」
「それ、だいぶ前の事だろ(第3話参照)」
「とにかく。嫌なら止めますけど、どうですか?」
上目遣いでそんな事を言うとはずるい。
「わかったよ、わかった。今日1日はセンパイな」
「じゃ、よろしくお願いしますね。センパイ♪」
しかし、こう言われてみると、普段意識しなかった、先輩後輩というのを考えてしまい、ちょっとグッと来るのは事実だ。
そして、タカと姫も何やら話しており、お互いに赤面しているが、一体タカのやつは何をお願いしたのやら。
こうして無事、ボウリングを終えた俺たちは、喫茶店に向かうのだった。
※ダブルデート(3)に続きます
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