第30話 先生からお説教をされなかった件

 こうして、俺とつむぎの二人は、別室に案内されることになった。


「呼び出した理由なんだけど……」


 心当たりといえば、今朝の件しかない。


「今朝の件、ですよね」

「先生も、別に男女交際があーだこーだ言う程無粋じゃないんだけどね……」

「ほんと、時と場所を考えるべきでした」

「それで、聞いておきたいんだけど、合意の上よね?」


 先生からの質問は予想外なものだった。


「は、はい?それはもちろんです」

「そ、そうです。ていうか、無理やりだったら、まずいですよね」


 揃って答える俺たち。


「それが、無理やりに見えたって生徒が居てね。こうして話を聞いてるんんだけど」


 困った顔で続ける先生。登校中に俺たちを目撃した生徒の一部が、紬が無理やりキスを迫られているということで先生に通報したとのこと。一方で、二人は付き合っているという話もあるので、事の次第を聞きに呼び出した、という事らしい。


「ちょっと恥ずかしかったですけど、ほんとに私の意思ですから」


 真剣な瞳で断言する紬。


「そうよね。先生も、時々みてたけど、とても仲が良さそうだったし……」


 よし、と立ち上がった先生。


「じゃあ、その生徒には、誤解だったって伝えておくわね」

「それだけ……ですか?」

「追加すると、TPOは弁えるように、くらいかしら」

「は、はい。それはさすがに」


 てっきり、お説教を食らうと思っていたのだが。


「じゃあ、もう戻っていいわよ、二人とも」

「え?いいんですか?」

「若い子たちが、羽目を外すくらいありがちだからね」

「そう言っていただけると助かります」

「不純異性交遊なら話は別だけど」


 不純異性交遊の言葉にギクリとする俺たちだが、先生は気づかなかったようだ。 


「とにかく。通報の件はともかく、変な噂にならないようにしなさいね」

「ほんとご迷惑をおかけしました」


 というわけで、何事もなく部屋を出る俺たち。


「結局、通報した誰かのせいでややこしい事になったのか」

「そうみたい、ですね」


 なんだか釈然としない気持ちで職員室を後にする俺たちだった。

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