第31話 俺と後輩は気晴らしに街にでかけた
さて。釈然としない結果に終わったわけだが、一度火がついた噂話がそう簡単に静まるわけもなく。
廊下を歩けば、
「ああ、あいつがあの噂の……」
「彼女だからって強引に迫ったらしいな」
などと根も葉もないことを囁かれる始末。
幸い、クラスの連中は
「ほんと、いちゃいちゃする場所考えてくれよー」
程度の苦情で済んだのが幸いだった。
そんな居心地の悪い休み時間や昼休みを経てようやく放課後。
「はー、終わった。終わった」
別に学校は嫌いじゃないが、今日はさすがに疲れる。
ふと、スマホに通知が来ていた。
【
【別にいいぞ。今日のことか?】
紬のやつのところはもっと大変だっただろうな。
【それはいいんです。ちょっとストレス発散したくなりまして】
【OK。付き合うぞ】
元々は俺が軽率なせいで紬を巻き込んでしまったようなものだ。
彼女のちょっとした憂さ晴らしに付き合うくらいなんでもない。
というわけで、校門を少し出たところで待ち合わせ。
また、一緒にいるとなんやかや言われかねないからな。
「で、どこ行く。スイーツでもカラオケでも何でも付き合うぞ」
「とりあえず、卓球行きましょう、卓球」
「おまえ、そんな卓球好きだっけ?」
こいつと一緒に卓球をしたのなんて、旅行先でちょっとくらいだ。
「この際、身体を動かせればなんでもいいですよ」
むすっとした顔つきで言う紬。これは、相当怒ってるな。
「お、おう。わかった」
剣幕に押される形で、駅近の卓球場へ。
「とりあえず、1セット11点先取、3セットでいいですか?」
「おう。なんでもいいぞ」
というわけで、憂さ晴らしの卓球勝負が始まった。
まずは、俺からのレシーブ。
無難に行った……と思いきや、凄い勢いでスマッシュで返された。
あまりに突然だったので、反応する暇もなかった。
こいつの反射神経は元々いいが、今日は神がかっている。
「おいおい。ちょっとは手加減してくれよ」
「そればっかりは聞けません。徹底的に打ち込みますから」
笑顔だが、目は笑っていない。
そして、試合が再開するが、相も変わらず強烈なスマッシュを叩き込んでくる。
ただ、俺をなめてもらっちゃこまる。
二度目はないとばかりに、スマッシュを見極めて、打ち返す。
「ふっふっふ。どうだ?」
「手元みないと危ないですよ。それ、由美ちゃんの馬鹿ー!」
紬が打ち返した玉はコーナースレスレの打ち返しにくい位置。
さすがに、これに対応するのは無理だ。
というか、由美ちゃんって誰だ。
その後も、謎の罵倒は続いた。
「佳代ちゃんのおたんこなすー!」だの。
「美代ちゃんのすかたんー!」だの。
女子に対する罵倒とともに激しく打ち返してくる。
ああ、ほんと溜まってたんだなあ。
そして、1ゲーム目は1対11という大差で俺の敗北。
「なあ、これ以上はよくないか?」
「まだまだこれからですよ。縁ちゃんも反撃していいですからね」
「いや、反撃したいのはやまやまなんだが」
本気のお前の球が打ち返しづらすぎるんだよ。
俺も少しずつ紬の球に対応できるようになってきたが、力及ばず、結局、
1ゲーム目:1対11
2ゲーム目:3対11
3ゲーム目:5対11
という大差で負け越したのだった。
少しずつ、差を縮めていったのだから、褒めてほしい。
☆★☆★
卓球が終わって汗をかいた俺達は、近くのファーストフード店へ。
「はー。運動の後のジュースって美味しいですね」
気怠げな表情でストローからオレンジジュースを飲んでいる。
「あまり食べすぎるなよ。晩飯にも響くし」
「そういえば、今日から私が担当するんでした……」
今しがた思い出したかのように言う紬。
「今日はさすがにしんどかったろ。明日からでいいって」
「そーですね。今日はお言葉に甘えます」
意地になりそうなのに、珍しくしおらしい返事。
「そんなに噂ひどかったんだな」
「私自身がどうこう言われたわけじゃないんですけどね」
はあ、とため息。
「俺のが無理やりってやつか?別に気にしないけど」
「私が気にするんですよ!人の彼氏に言いたい放題言って……」
締めた方がいいですかね、という不穏な言葉も聞こえる。
「だいたい、縁ちゃんは無理やりなんてしないのに」
「でも、紬も場所は考えて欲しいって言ってただろ」
「あれは、ちょっと、恥ずかしかっただけです。
それを強引にだの無理やりだの、弱みを握られているだの。
縁ちゃんに失礼です」
俺は言うほど気にしていないが、紬の方が相当なようだ。
これは、ちょっと対策を考えた方がいいかもしれない。
「なあ、紬。噂、なんとかしたいか?」
「できるならしたいですよ。でも、私達にできることなんて……」
「ある、といったらどうする?」
ニヤリを笑みを浮かべて言う。
一つだけ、うまく行けば解決できるかもしれない方法がある。
それには紬の同意が必要なんだがー
「物騒な手段じゃないですよね」
紬は疑わしげな目だ。
「大丈夫、穏便な手段だ。耳貸せ、耳」
耳元で考えていた案を打ち明ける。
「ええ!?いくらなんでも恥ずかしすぎますよ」
「でも、これなら誤解はなくなるぞ」
「それはそうですけど、バカップル認定されますよ。うう」
頬を赤らめつつ、もじもじしだす紬。
そんな様子が不覚にも可愛くて―というのはおいておく。
「嫌だったら、無理にとは言わないが」
「……やりましょう!ちょっと面白そうですし」
「だろ?噂してた奴がどんな顔をするかびっくりだ」
「縁ちゃん、本来の目的忘れてませんよね」
ジト目で見上げてくる。
「もちろん。俺も、少し腹立ってたからな」
というわけで、計画の決行は決定。
細かいところは今夜以降詰めようとなった。
夕暮れの帰り道にて。
「あの。いろいろ、ありがとうございます」
紬からの小さなお礼の言葉。
「別に。元はといえば俺のせいだからな」
「お礼くらい素直に受け止めてくださいよ」
「それもそうだな」
「それと。こんなところで言うことじゃないんですが」
「ん?」
「嬉しかったです。私、愛されてるんだなーって」
らしくもなく、頬に両手を当てる仕草をする紬。
「好きだってのは前から言ってるだろ?」
「女の子は何度でも愛情表現が欲しいんですよ」
妙に機嫌が良さげなこいつを見て、ようやく安心する。
これで、ひとまずは解決するといいんだが。
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