第32話 俺と後輩はお昼休みに愛を叫んだ

 校内に流れた噂をなんとかするために、一計を案じた俺達。

 とはいっても、やる事は至極単純。

 昼休みの放送の時間を拝借して、全校生徒の前で高らかに宣言するのだ。


「俺達は愛し合ってます」


 と。昨日の朝もちょっと羽目を外しただけなんです、と。


「さすがに、ちょっと緊張してきました」


 放送室の中で、きょろきょろとしているつむぎ


「実は、俺も緊張している」

えにしちゃんが?意外ですね」


 紬は目をまんまるにしている。


「全校生徒に流すとか初めてだしな。それに……」

「それに?」

「今度は別の反感買うかもしれないし」

「その時はその時ですって」

「おまえがそう言うとは意外だ」


 こいつなら、穏便に解決する方法を好みそうなものだが。


「縁ちゃんを悪しざまに言われて、イラっと来てますからね。いい機会ですよ」

「お前も泥をかぶるかもしれないぞ?それこそ、TPO弁えろとか」

「いいんですよ」


 そう言った紬はどこか晴れ晴れとした表情だった。


「場所も時間も考えずにキスに応じたのは、やっぱり私もしたかったからですし」


 だから、と続けて。


「TPOというなら、私も同罪です。縁ちゃんだけが気に病まないでください」


 そんな言葉が印象に残った。


 そして、いよいよお昼休みの放送が始まる。

 まず、勝手にお昼休みの放送を奪って申し訳ないという謝罪。続けて、


「どうも。2年Aクラスの鈴木縁だ」

「1年Fクラスの佐藤紬です。縁ちゃんとは少し前から付き合ってます」


 放送を聞いている奴らはどんな気持ちだろうか。

 タカはきっと頭を痛めているだろうな。

 そんな事を思い、少し可笑しくなる。


「今日は、皆さんにお伝えしたいことがあって、放送をお借りすることにしました」


 ひと呼吸おいて紬は続ける。


「私と縁ちゃんに関する噂です」

「俺が紬に無理やりだのなんだの。聞いている奴も多いと思う」


 放送室だと反応が聞こえないので、緊張する。


「一言でいうと、そーいうのは根も葉もない誤解です。ほんっとーに!」


 やたら声に力が入っているが、気のせいではないだろう。

 昨日の怒りようはものすごかったからな。


「見た人の一部が誤解したようですけど、私も実はノリノリだったんですよ?」


 紬が予定にないことを言い出して、少し慌てる。


「さすがにノリノリって事はないだろ。俺も少し強引だったし」

「縁ちゃんは優しいからこう言ってくれますけど、それはとにかく」

「流さないで欲しいんだが」

「ということで、私と縁ちゃんは愛し合ってますので、噂は事実無根です」

「TPO弁えろとかは正論だから、まあ好きに言って欲しい。以上」


 こういう時に小粋なトークでもできればいいんだが、そういうのはまだまだだな。


「ということです。二人を暖かく見守ってあげてくださいね」


 放送委員の柚木ゆずきちゃんが割って入る。


「いや、別に見守ってくれなくてもいいんだが」

「このまま色々ぶちまけちゃいましょうよ。まず、二人の馴れ初めについて!」


 は?この人は、一体何を言い出すんだ。

 話が予想外の方向に転び始めたぞ。

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