第4話 腐れ縁な後輩と調査(デート)をすることになった件
そして、時は流れて土曜日。
「何もここまでしなくていいんじゃないか?」
場所は、俺たちの住む街の繁華街。タカと姫がうまく行くには、私たちで事前の調査が必要、という紬の主張に押されて、二人で外出する羽目に。
そう言うと、何故か紬はため息。
「
「確かに、怪しいかもなあ。あいつら、奥手だし」
下手をしたら、ろくに会話が進まないということすらありえる。
「というわけで!下見をしておけば、いいスポットとか教えられるわけですよ」
ドヤ顔で解説をし出す紬。確かに、いわれてみればもっともだ。ただ、そのくらいでドヤ顔するなよとは言いたくなるが。
しかし、今更だが、こうして休日に二人で外出しているというのに、こいつは平然としていて、なんというか色々モヤモヤとする。いや、いいんだが。
「そこのクレープ屋さん、最近、クラスで大人気なんですよ。行きましょう!」
女子は甘いものが好きというが、こいつもその例に漏れず甘いものが好きだ。
「俺は、甘いもの苦手なんだが……」
「スイーツは女子の嗜みですよ」
「そう言われると、なんとも言えないが」
ということで、行列が出来ているクレープ屋に並ぶ。
「しかし、なんでたかがクレープにこんなに並ぶのかね」
「縁ちゃん。それ、女の子の前で言っちゃ駄目ですからね」
めっと叱るように言われる。
「で、お前はいいのか?」
「良くないですけど、縁ちゃんは今更ですから」
どうも、俺がデリカシーに欠けるのは諦められているらしい。
しかし、なんかいい香りがただよってくるな。クレープとかじゃなくて、そう、香水みたいな。
「なあ、紬。ひょっとして、お前、香水つけたりしてる?」
「……今まで気づいていなかったんですか」
「つーことは、今までも」
「縁ちゃんと言っても、男性ですからね。そりゃ、気にしますよ」
少し早口なように見えるのは、気のせいだろうか。
「いや、すまんな。今まで気づかなくて」
「や、やめてくださいよ。いきなり殊勝になられても困りますってば」
そう言いながらも、まんざらではない様子な紬。
そんなこんなで、クレープ屋さんに並ぶこと約30分。
無事にクレープを手に入れたわけだが。
「うーん。美味しい。クレープの生地がやっぱり違いますねー」
ご機嫌な様子の紬。正直、俺には、クレープ生地がどうとか、イマイチわからない。香水の件もあることだし、あえて口に出すことでもないか。
「あ、カラオケ行きません?」
クレープを食べ終えた紬が指差したのは、カラオケ店。正直、俺のレパートリーは多くないが、紬なら気にすることもないし、いいか。
というわけで、カラオケ店へ。俺はゲームソング中心、紬はJ-POPや洋楽を中心に、幅広く色々な曲をカバー。それでいて、アニソンをデュエットしたりと、俺のレパートリーに合わせることもできる。趣味の幅が広いのはこいつの凄いところだ。
しかし、ふと気づいたが、香水だけじゃなく、髪もつややかで、念入りに手入れしてあるように見える。服装も、普段のスポーティで動きやすいものではなく、清楚系な感じだし。
(まさか、な……)
思いついた仮説があったが、間違っていたら恥ずかしいなんてものじゃない。
その後も、ゲーセン、女物の衣料品店、アクセサリー売り場など歩き回って、気が付いたら、もう夕方になっていた。
「いやー、遊び倒しましたねー」
晴れ晴れとした表情でそんなことを言う紬。
帰る途中に、公園に寄って相談しようとこいつが言い出したのだ。
別にお向かいさんなんだから、どっちかの部屋でもいいと思うんだが、気にしても仕方がないか。
「それはいいが、紬としては、どこが良かった?」
「女の子的に、クレープ屋は鉄板ですね。カラオケも雰囲気によってはありです」
「だな。いかんせん初対面だしなあ……」
下手をしたら、緊張をして、お互いロクに歌えないという事もあり得る。
「あとは、さっき通った、お洒落な喫茶店なんかもいいですね」
考え込みながら、思いついたデートスポットを挙げて行く紬。
「縁ちゃん的にはどこかいいところありました?」
「ゲーセンはタカとよく行くし、入れたいな」
「姫ちゃん、3D酔いしそうなのは苦手だって言ってた気がしますけど」
そういえば、そんな事を聞いた気がするな。
「そういうのは避ける方向で。あとで、タカが好きな機種送っとくよ」
姫が苦手な方向をうまく避けられれば大丈夫だろう。
「縁ちゃん、ほんと昔から、凝り性ですね」
何故だか微笑みながら、そんな事を言われる。
「せめて、こだわりがあると言ってくれ」
苦笑いをしながら、そんな言葉を返す。
「別に、言い換えてもかわらないと思うんですけど?」
意地の悪い顔をして、そんなことを言い返してくる。そりゃそうだが。
「凝り性っていうと、なんか、やり過ぎって感じだろ」
まあ、自覚はあるんだが。
「違うんですか?」
わかってるくせに、と言いたげな視線で問い返される。
「違わないが」
そう言われると、肯定するしかない。
その後も、あーだこーだ言いながら、二人の顔合わせデートの詳細を詰めていく。
「よし。これで後はなるようになれ、だ」
「凝り性な割に、そういうところは割り切りがいいですよね」
「だって、最終的にはタカと姫次第だろ。心配し過ぎても仕方ない」
やれるだけはやり切ったのだから、後は二人次第だ。
「ところでさ、なんで公園なんだ?俺かお前の部屋でも良かっただろ」
気になっていたところを聞いてみる。
「縁ちゃん、そこ聞いちゃいますか……」
急に緊張して、ぎこちない様子になる紬。顔も赤くなって、ぷるぷる震えている。
「どういうことだ?」
急に緊張しだした理由がわからない。いや、まさかな。
「あの、ですね。今日の、私の服とか、見て、どう思いました?」
目線を俺から逸らして、途切れ途切れに言う紬。顔から湯気でも出るんじゃないだろうか。
「服が清楚系だな、とか、髪がいつもよりつやつやしてるな、とか、思った、が、まさか……」
自分で言ってて、投げ捨てた仮説が急に真実味を帯びてくる。
「そのまさかですよ、縁ちゃん。でも、ちゃんと見ててくれて良かったです」
すーはーすーはーと深呼吸をして、自分を落ち着けている様子の紬。ここまで来たら、いくら俺でも何が言いたいかは予測できていた。
「単刀直入に言いますね……好きです、縁ちゃん。付き合ってください!」
本当に単刀直入な言葉だった。
そして、俺はといえば。まさか、という気持ちと、やっぱりか、という気持ちがあった。思い返せば、一緒に遊びたがったのも俺の気を惹きたかったのだとも思えるし、なんだかんだ言って、いつも頼みを引き受けてくれたのも。
「とりあえず、その、ありがとう。で、返事なんだが……ちょっと整理させてくれ」
色々な想いが脳裏を駆け巡る。出会った頃の事とか、小学校の頃とか中学の頃とか、高校に上がってからとか。どの風景にもこいつは居て、文句をいいつつも付き合ってくれたものだった。
「は、はい」
神妙な顔でうなずく紬。こいつには、俺の返事がわかっているだろうか。わかっているような気もするし、わかっていないような気もする。
「まずだ。お前は可愛い」
真っ先に浮かんだ言葉を告げる。ちんちくりんだった頃はともかく。
「は、はい!?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっている紬。自覚が無かったのか、こいつは?
「おまえなら気心も知れてるし、義理堅いし、友達想いだし」
あと、律儀にこんな話に付き合ってくれるところも良い。
「あ、ありがとうございます」
紬の奴は恐縮したような表情になっているが、気にせず続ける。
「可愛い後輩に告白されるとかロマンもあるし」
幼馴染として以前に男として、こいつに告白されたら……と思うことがあった。
「急に妄想入ってませんか?」
呆れた顔でツッコまれるが気にしない。
「でだ。全然不満はないんだが……これって俺に都合良すぎないか?」
自分でも何を言ってるのかわからなくなってきたが、とにかく、紬のことを女として意識したことは一回や二回じゃないし、性格も良いし、昔からの仲だから色々知ってるしで、全然ダメじゃない。ぶっちゃけOKなわけだが、これは俺の妄想の世界なのではないだろうか。
「別に、縁ちゃんにとって都合が良いかはどうでもいいんですが」
ツッコミ疲れたような顔の紬。
「まあ、そうだな」
とはいえ、色々考えてみて、出た結論はというと。
「俺も好きだ。ずっと好きだった。紬、付き合ってくれ」
そんなシンプルな言葉。そうなれたら、という気持ちは心のどこかにあった。
「長々と独白を聞かされた結果が、それですか?」
咎めるような言葉だが、紬の顔は笑っていて、ちょっと面白い。
「それは悪かった。とにかく、紬の返事はどうなんだ?YESか?NOか?」
この雰囲気が恥ずかしくて、ちょっとふざけた言葉を言ってみる。
「縁ちゃん、私が最初に告白したの忘れてませんか?」
凄く呆れられてしまった。いや、呆れたフリ、か。
「ということは、俺たちは恋人同士ってことでいいのか?」
一応、確認してみる。まさか、夢幻ってことはないよな。
「私に聞かないでくださいよー!ていうか、分かってますよね?」
やっぱり凄く嬉しそうな表情のままツッコミを入れるこいつ。ただ、ちょっとふざけ過ぎたかもしれない。
「いや、一応。念のため、な」
少し真面目な雰囲気に戻って続ける。
「じゃあ、改めて。私も好きです、縁ちゃん。これからも、よろしくお願いします」
こうして、俺たちは恋人になったのだった。
きっかけになった二人を置いてけぼりにしたまま。
そうして、俺たちの恋人としての日々と、親友たちの縁結びの日々が始まった――
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