第3話 腐れ縁な後輩に相談をすることになった件について

 ぴんぽーん。インターフォンを鳴らすと、ドタドタと騒がしい音が聞こえてくる。


「こんばんはー。えにしちゃん。ささ、入ってください」


 出て来たのは、ミディアムショートな茶髪の少女。動きやすさを重視した服装は、活発な印象を与える。くりくりとした大きな瞳がチャームポイントだ。


つむぎ。縁ちゃんっていい加減何とかならないのか?縁先輩とかさ」

「もう慣れちゃったからいいじゃないですか。で、FPSします?映画観ます?」


 軽口を交わしている相手は、佐藤紬さとうつむぎ。俺の1年後輩で、同じく成風高校に通っている。紬との出会いはかなり昔になるが、今はお互いの部屋で遊ぶことがよくある仲だ。


「なんで、遊ぶ前提なんだ。ちょっと相談事だよ」


 途端に紬は警戒するような視線を向けてくる。

 

「縁ちゃんが相談事ってロクなことがあったためしがないんですけど」


 疑わしげに、じーっと睨まれる。前科があるだけに、そう言われると弱い。


「なんで聞く前に警戒してるんだよ。もっと普通の話だって」

「とりあえず、聞きましょう」

「あのさ、タカは知ってるだろ?俺の親友」

「ああ。一貴かずたか先輩ですね」


 俺と紬は幼馴染と呼べる程、昔から付き合いがあるが、一貴と紬は、三人で一緒に遊んだことこそあるものの、付き合いは浅い。一貴と呼んでいるのがその証だ。


「でさ、そのタカが一目惚れしたんだと。成女の子に」

「一目惚れってまた珍しいですね。成女というとひめちゃんが居ますけど」


 姫ちゃん、というのは、紬が姫を呼ぶときのあだ名だ。俺に対してもそうなんだが、こいつは昔から親しい相手に「ちゃん」を付けたがる癖がある。


「それでさ。タカが一目惚れしたのが、まさにその姫なんだ」

「マジですか?」


 少しややこしいが、俺と姫が昔から親しいように、紬も姫と昔から親しい。


「いや、ほんと。マジなんだって」

「それは、さすがに驚きです」

「で、姫のことを知ってる俺が、タカを姫に紹介するってことになったわけだ」


 説明を聞き終えた紬がもらしたのは、大きなため息。


「縁ちゃん。そういう変な根回しするのが好きですね」

「根回しって何だよ。親友同士の恋を応援しようって、ただそれだけだろ」

「だったら、紹介だけして、後は二人に任せればいいんじゃないですか?」

 

 強い眼光で見据えられる。正論だけに、少し反論に困る。


「姫の好み、お前の方がよく知ってるだろ。だからだよ」


 俺は、正面から反論することは避けて、そうお茶を濁す。


「いいですけど。それで、私は姫ちゃんの相談に乗ればいいんですか?」

「さすが、紬。気が利くな」

「私なら一貴先輩とも知り合いですしね。でも、ややこしい話ですね」

「いやほんと、恩に着る」


 手を合わせて紬を拝むポーズをする。


「それで、感謝のつもりですか?」

「足りないか」

「足りません。今夜は一晩中、FPSに付き合ってもらいますからね」


 笑みを浮かべる紬。こういう頼み事をすると、大抵交換条件を持ちかけられる。


「またかよ。さすがに明日しんどいだろ」

「嫌なら協力しませんけど」


 こっちの立場が下なのをいいことに、足元を見てきやがる。くそ。


「わかったわかった」


 というわけで、徹夜で紬とFPSで対戦をする案で妥協。


 これくらいで協力してくれるなら安いものか。

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