第49話 ダブルデート(3)~喫茶店~
「それじゃ、センパイ、次行きましょう」
腕を組みながら、
「ああ。じゃ、喫茶店行くか」
紬からセンパイ呼びされるのがどうにも慣れない。が、その非日常的なシチュエーションにドキドキしているのも事実だ。
そして、後ろを歩く二人組はというと-
「……」
「……」
何故か無言で、手をつないで歩いている。ひょっとしてタカの奴は手を繋いで歩きたい、というお願いをしたのだろうか。だとしたら、なんと純情なことか。
「
「だな。俺たちもあんな頃があったっけ」
「センパイは、最初から割とフツーだった気がしますけど」
「そうだったか?」
「そうですよ。付き合い立ての時も、平然と私泊めてたじゃないですか」
「言われてみると」
そんな有様だったから、距離を詰めるのに戸惑ったのを思い出す。
そんな風に、何気ないことを話していると、あっという間にお目当ての喫茶店に到着していた。外装は新しめで、タピオカ系で有名な喫茶店らしい。
揃って着席して、メニューを開く。
「センパイは何にします?」
紬が視線を向けて聞いてくる。
「じゃ、俺はタピオカメロンソーダで」
目についたもので面白そうなのを適当に頼む。
「ほんと、何にでもタピオカ入ってますよね……」
そこはかとなく微妙そうに言う紬。
「そば屋にタピオカ丼なんてのもあったよな」
「タピオカより醤油の味じゃないかと思うんですけど」
食べたことはないが、そうなのかもしれない。
「それじゃ、私はタピオカ抹茶オレにしようかな」
姫も決めたようだ。
「意外だな。タピオカミルクティーでも頼むかと思った」
紅茶党の姫のことだし。
「最近は、緑茶とか抹茶も開拓してみてるんだよ」
「へー、それは意外だな。姫が紅茶以外に手出すなんて」
「姫ちゃんち行ったら、いっつも紅茶でしたもんね」
口々に意外がる。
「じゃ、僕はタピオカミルクティーで」
意外にも、タカの方がオーソドックスに来た。
「またオーソドックスだな」
「タピオカブームの始まりですよね。最近、影薄いですけど」
紬が遠い目をしてつぶやく。
「それじゃ、私はタピオカレモンティーで」
「紬はもうちょっと面白いの行こうぜ」
「こんなところで冒険してどうするんですか?」
呆れられてしまう。
「それもいい思い出になるって」
「……仕方ないですね。じゃあ、タピオカオレンジジュースで」
「さすが、紬。俺の彼女」
「褒めても何も出ませんよ。でも、美味しくなかったらお願いしますね?」
「あ、ああ。それはわかった」
そして、運ばれてきたタピオカ系ドリングを飲んで、喉を潤す。
「底にタピオカが沈んでるだけの、普通のメロンソーダだな」
もっと、面白い代物かと思っていたのに。
「センパイは、何を期待してたんですか……」
「いや、タピオカが浮いてるとか、シュワシュワとかさ」
「それは手間かかり過ぎますよ」
「言われてみればそうかもな」
そして、タピオカ抹茶オレを頼んだ姫は、
「甘すぎるかなあ。それに、お茶の風味がないし」
イマイチ判定を下していた。
「見るからに甘そうだよな。タピオカはおいといて」
「さすがに、姫ちゃんは厳しいですね」
普段紅茶にこだわりがあるだけあって、細かい風味にもこだわる姫である。
「で、紬はどうだ?タピオカオレンジジュース」
「タピオカが沈殿してるだけの、オレンジジュースですね」
「そっちもか……」
「そもそも、タピオカ自体は無味ですからね」
「そういえば、そうだったな」
とりあえず、タピオカ入れておいたら、まずくはならないが、よくもならないということか。
「タピオカミルクティーは普通だよ。コンビニで飲んだのよりは美味しいけど」
「ああ、以前飲んだことあるぞ」
「私も」
「私はまだかな」
というわけで、タピオカミルクティーは普通と。
「イマイチ面白みのない結果になったもんだな」
「別にキワモノのために来たわけじゃないですよね?」
「そりゃそうなんだが、もうちょっとネタになるのがあっても……」
「今日は平和にダブルデートしましょうよ、センパイ」
「わかった、わかった」
各々がタピオカドリンクを飲みながらボウリングの話に花を咲かせる。
「ところで、ボウリングの9フレーム目、センパイの投球フォームが妙でしたよね」
疑るような目線で俺をみやる紬。
「い、いや、あれはちょっと緊張しただけだって」
「それに、急にトイレに行ったと思ったら、姫ちゃんまでラインしてるし」
「え、えーと」
やばい。紬の奴はどこをどう見たのが知らないが、疑ってやがる。
「最後に、姫ちゃんのスコアがいきなり伸びなかったのも気になるんですよね」
「……」
鋭い、鋭いが、それだけだと証拠にはならない。
「それに、私の所に、姫ちゃんから、センパイ宛ぽいメッセージが来た後、送信取り消しがあったんですよね」
おいおい。
「姫。そこでミスるのは勘弁してくれよ」
「私はそんなのしてないよ?」
姫は覚えがないとばかりに否定する。ということは。
「やっぱりですか。姫ちゃんとセンパイがこそこそしてると思ってたんですよ」
謎は解けたとばかりに勝ち誇る紬。カマかけに引っかかったのは仕方ないが、まあ怒られることでもないし、ばらしてもいいか。
「わかった、わかった。白状するよ。9フレーム目、俺が紬に、タカが姫に命令できるように談合したんだよ。結局、紬がストライク連発したせいで、逆になっちゃったけどな」
「また、変なこと企んでたんですね。で、センパイは何して欲しかったんです?」
また、妙なことを考えていたんだろうとばかりに睨みつけてくる。
「で、それ聞いてどうするんだ?現にお前が勝ったわけだしさ」
「一応、気になりますからね。で、答えは?」
問われて答えに窮する。言えないわけじゃないんだが、いかんせんこの場で言うのなちと恥ずかしいな。
「仲良くなったきっかけ」
「え?」
「いや、仲良くなったきっかけ。前にはぐらかされただろ(第35話参照)」
「そういえば、そんな話がありましたね。でも、大したことじゃないですよ」
「俺としてはモヤモヤするんだよ」
「わかりましたよ、じゃあ、今度話しますから、それでいいですか?」
「いいのか?」
「変態チックなのならともかく。それくらい別に賭けにしなくても大丈夫ですから」
楽しそうにそんなことを言われてしまう。
「そ、そうか。悪かったな……」
改まって聞きづらかったのだが、紬の奴は別に気にしていないようだった。
「あ、僕も興味あるな。縁と紬ちゃんが仲良くなったきっかけ」
「私も私も、教えてよー」
「駄目です。センパイだけですから」
頬を赤くして首をブンブン振っている。大したことじゃないはずじゃなかったのか。これは益々興味が湧いてきた。
そして、そんな事を話しつつ、たっぷり喫茶店で2時間は時間を潰したのだった。
※ダブルデート(4)に続く
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