第50話 ダブルデート(4)~映画館~

 喫茶店を出た俺たちは、次なる目的地の映画館へ。駅前にあるので、徒歩10分もしないうちに着いてしまった。


 事前にインターネットで予約しておいたので、券売機で予約番号を入力して4人分のチケットを受け取る。


「ほい。チケット」


 ダブルデートなので、4人が並んで座れるように予約をしてあったのだ。


「最近はネット予約のおかげで便利ですよね」

「混んでても事前にわかるしね」

「当日に行って満員ってならなくて済むのがいいよね」


 なんて言い合いながら、映画館に入場する。


「しっかし。『空気の女』か。どんな出来だろうな」

新庄尊しんじょうみこと監督最新作!って話題ですよね」

「ここ数年で、急にヒットした監督だよね」

「私も数年前の映画で初めて知ったよ」


 新庄尊監督は、数年前の『私の名は』で一躍大ブレイクしたアニメ映画の監督らしい。その前は、熱烈なファンは居たものの……だったとか。


「でも、なんか暗そうなあらすじだよな。空気が読めずに、クラスに馴染めなかった女の子が主人公って辺りがいかにもって感じで」

「それで、ある時、「空気が読める」能力が!て、後半に何かあるフラグ確定ですよね」


 予告ムービーなどのあらすじを見ると、主人公の少女は、空気を読むのが下手で、クラスで孤立していたが、ある日、空気を読む能力を身に着けて……というものらしい。


「気持ちはわかるけど、あんまり予想しない方が楽しめるんじゃないかな」

「私も一貴かずたか君派かな。予想し過ぎると楽しめなくなっちゃう」


 あらすじから後半の展開を予想する俺とつむぎ、それと、あえて予想せずに楽しむタカとひめのスタンスの違いが出たと言ったところか。


「ま、見れば分かるだろうし、行こうぜ」


 ぞろぞろと連れ立ってホールに歩いていく。俺たちの席は、前から見て真ん中辺り、列の中央辺りで、そこそこ見やすい位置取りだ。


 俺、紬、姫、タカの順番に並んで、ぼーっと映画が始まるのを待つ。しかし、映画館で、関係ないアニメや映画の宣伝を長々と見せつけられるのは非常にたるい。


「なんで、10分以上も宣伝見せられにゃいかんのだろうな」


 小声でぼやく。


「その分安く出来るとかじゃないですか?」

「ああ、そういう考え方もあるか。にしても、宣伝とか映画の中でやらんでも」


 どうしても思ってしまう。10分くらい待って、ようやく館内の照明が消されて、映画が始まる。


 映画は、主人公の少女が、「空気読みなさいよ」とクラスメイトの女生徒から苦情を言われるところから始まる。いかにも、そういう奴が居そうで、なかなかに嫌な感じだ。その他のクラスメイトも、追従しないものの、責める側に回るところなんかも、なかなかにリアリティがある。


 物語は、少女がそんないつもの仕打ちに会った帰りに、神社に参拝するところから始まる。少女は願う。空気が読めるようになりますように、と。その日以来、少女は、周りの「空気」が色で見えるようになる。周りが怒っている時は赤色、そこまでは行かないが、「あー、やっちゃった」と思っている時は黄色に。それだけでなく、どう言う立ち居振る舞いが求められているかまで手に取るようにわかるようになった。


 そして、少女はその能力を使って、周りと打ち解けるようになる。それだけでなく、想いを寄せていた男子まで、その能力を使って距離を縮めていく。順風満帆な少女の毎日が続いたある日、以前に自分を「空気を読みなさいよ」と責めていた女子が虐められている様子を目にする主人公。自分の「空気を読めるようになりたい」という願いと引き換えに、その女子は「空気が読めなく」なっていたのだった。


 葛藤する少女は、神社に再びお参りに行き「願いを取り消してくれるように」と願うのだった。しかし、覆水盆に帰らず。願いが取り消されることはなく、主人公を責めていた女子は、苛めを苦にして自殺してしまうのだった。「なんで、空気が読めなくなっちゃったんだろう」という趣旨の遺書を残して。


「なんか、救われない感じのお話だったな」


 ファストフード店に移動して、軽く飲み物を注文しながら映画の感想を口にする。


「前作を考えると、もうちょっとハッピーエンドにすると思ったんですけど」


 紬も釈然としないようだった。


「だよな。前作は、どんでん返しはあったけど、きっちりオチがあったんだけど」


 見た後にどうしようもなく陰鬱にさせられる映画だった。


「殴る蹴るじゃない辺りが、妙にリアリティがあって怖かったよ」

「うんうん。こういう虐めありそう、って思っちゃう」


 タカと姫は、現代にありそうな虐め描写のリアリティに驚いていたようだった。


「これ、批判続出だろうな」

「『私の名は』と作風違い過ぎですもんね」


 俺と紬は言い合う。監督もよくもまあこんな冒険をする気にになったものだ。


「でも、考えさせられる映画だったかな」

「うん。そうだね……」


 タカと姫は色々考えさせられる物があったらしい。フィクションに少し距離を置いてみる俺や紬とのスタンスの違いだろうか。


 少しの間沈黙が満ちる。エンタメ系か感動系かだったらともかく、こういう陰鬱な映画は、出来の良し悪しとは別に色々困るな。


「で、映画はともかく、この後どうする?」

「あ、そういえば、ここまでしか予定決めてませんでしたね」


 少しの間、考えていると、


「じゃ、そろそろ、二人ずつに分かれない?」


 姫の提案。


「そうだな。タカもそれでいいか?」

「うん。僕も……ちょっと二人きりになりたかったし」


 赤くなりながらも、はっきり言ったタカの台詞に俺も紬も目を丸くする。


「じゃ、あとは仲良くな。タカも今日は男を見せろよ」

「それ、どういう意味?」

「さあ、どういう意味だろうな。ともかく、また来週」

「姫ちゃん、一貴先輩、また来週ー」


 二人を差し置いて、店の外に出る。


「ちょっと無理やりなタイミングだったと思うんですけど」

「ま、そうだな。でも、あいつらも二人きりになりかっただろうし」

「それは否定しませんけど」


 まだ少し納得が行っていない様子の紬。


「とりあえず、俺たちは俺たちの時間を楽しもうぜ」

「もう。で、センパイはどこに行きたいんですか?」


 ため息をつきつつも理解してくれたようだ。で、場所がどこかと言われれば-


「俺の部屋とかどうだ?ゆっくりするのにいいだろ?」

「ゆっくり出来るといえばそうですけど……仕方ないですね」

「仕方ない?イチャコラするのにはうってつけだろ」

「イチャコラって……まあいいですけど」


 何を想像したのか、また顔を赤らめている紬。実にわかりやすい。というわけで、デートの最後は、俺の部屋に決定。

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