第13話 俺は後輩とイチャイチャしたい

 気が付くと目が覚めていた。伸びをしてリビングに行くと、つむぎが敷いた布団で寝ている。こういう風に遊び疲れたら、時々うちに泊まっていくのは付き合う前と変わらない。ちなみに、以前はソファだったが、さすがに寝苦しいだろうと思い、布団で寝てもらうようにした。


 布団にくるまっている紬に近づくと、穏やかな寝息が聞こえてくる。寝顔は安らかだ。笑顔なので、何かいい夢でも見ているのだろうか。ふと、頬に優しく触れてみる。すべすべとしていて、暖かい。


「ふわぁ。えにしちゃん?」


 声がするが、半目で意識もぼんやりしているようだ。ちょっと遊んでみたくなるが、我慢我慢。


◇◇◇◇


 いつものように、朝ご飯を我が家で食べている紬。じーっとその様子を見ていると、ふと、視線が合った。


「どうかしましたか?」 

「いや、何も」


 平和な食卓を眺めながら、俺は少し考え事をしていた。


 一つは、俺の親友であるタカと姫の間についてだ。仲良くなったようだが、順調に進展してるだろうか。あんまりお節介をするのも無粋なので、静観しているものの、その内聞いてみよう。


 もう一つは、最近彼女となった、後輩であり幼馴染でもある目の前の少女のことだ。こいつと付き合い初めて3週間くらい。


 2週間前のキスを最後に、俺たちの間に特に色っぽい出来事が起こることはなかった。別に仲が悪いわけではない。むしろ逆だ。ただ、出かけても、付き合う前みたいに楽しく遊んで終わりだし、家で遊んでいても、多少スキンシップを取る程度だ。


 現状に不満があるわけではないが、紬と前に進みたいと思う気持ちがある。もっとキスしたいとか、エッチなこともしたいとか。同時に、現状に満足してしまっているのも確かで、だからこそあまり動けないでいた。でも、もうちょっと仲を進めてみてもいいのかもしれない。


◇◇◇◇


 いつものように二人で登校する。今更だが、手を繋ぐくらいしてもいいのではないか。なんで、先にキスだけしているんだろう。


「あ、あのさ。紬」

「なんですか、えにしちゃん」


 何かあったのかという視線で俺の方を見る紬。

 しかし、どう言えばいいだろう。

 手を繋いでいいか、とか。今更だし、言うのも恥ずかしい。

 タカのことをさんざん奥手と言ったが、人の事を笑えない。


 さんざん悩んだ末、そろっと紬の手に手を重ねると、紬の方も気づいたらしく、握り返してくる。


「手、大きいですね」


 はにかみながら、つぶやく紬。


「お前の手、意外と小さいよな」


 考えてみると、大きくなってから、手をつないだことは少ないかもしれない。


「女の子ですから。でも良かったです」

「良かった?」

「縁ちゃんもこうしたいと思ってくれて」


 嬉しそうにつぶやく紬。俺は現状に満足してしまっていたけど、紬の方はそうではないのだ、という事に今更気が付く。


「いや、なんていうか、すまん」

「謝らないでくださいよ。嬉しいんですし」


 幸せいっぱいという感じの笑顔だ。もっと早くこうしてればよかった。


◇◇◇◇


 お昼休み。俺たちは購買でパンを買って、二人きりになるために中庭へ。ベンチに座ると、隣の紬はとても嬉しそうだ。


「そんなに嬉しかったのか?」

「そりゃもう。縁ちゃんのことはよくわかってるつもりですけど、今で満足なのかなーとか思ってましたから」


 惣菜パンをかじりながら、そんなことをぽつりとつぶやく紬。


「これからは、もっとこういう風な時間作ろうな」


 同じく、総菜パンを食べながら、そう返す。


「嬉しいんですけど、ほどほどにしてくださいね?」


 紬の奴が意外な言葉を発する。


「ほどほど?どういうことだ?」


 意図がつかめない。


「縁ちゃん、ほんとに全力でイチャイチャして来そうですし」


 それに、と続けて、


「私もそうされたら、拒めないですし。突っ走ってしまいそうです」


 そういうことならわかる。ただ、拒めない、と言ってくれるのは嬉しい。


「拒まないなら、ちょっと強引でもいいか?」


 意思を確認してみる。


「そ、そりゃまあ、いつでも……」


 赤い顔でうつむくこいつはとても可愛くて、今すぐにでも抱きしめたくなる。


「て、ひゃ!?」


 背中に手をまわして抱きしめる。


「いくらなんでも、いきなり過ぎません?」


 抗議しているようで、全然抗議していない声。


「したくなったんだよ。おまえが可愛いから」


 少し身体を離して、今度は顔を近づけていく。


「んっ……」


 目を閉じて唇を受け入れてくれた紬に気を良くして、舌も入れてみる。


「んんんっ…………はぁ」


 一瞬びっくりしたようだけど、舌を絡め返して応えてくれる。


 しばらく、舌を絡ませあいながらキスを続ける。舌が絡まるたびにどんどん興奮していく。


「……縁ちゃん、エッチ過ぎますよ」


 唇を離すと、紬がそうこぼす。少し熱に浮かれたような表情と声なのは、俺と同じような気分なのだろうか。


「俺だって、健康な思春期男子だぞ」

「ちゃんと、そういう欲望はあったんですね」

「人を何だと思ってたんだ」

「冗談ですよ。でも、いきなり強引にされて、ドキドキしてます」


 胸を押さえて、そう言うのがまたいじらしくて欲望を掻き立てられる。

 このままいたしてしまいたいという思いが沸き上がってくる。

 嫌われないだろうかとも思うが、素直に想いを告げることにした。


「お前を抱きたい、紬」

「え、い、今ですか?ちょっと待ってください、えーと……」


 急に周囲を確認し出す紬。


「さすがに、今は。放課後とか、どうだ?」

「び、びっくりしましたよ。周りに人が居ないか確認しちゃいました」


 本気で受け入れるつもりだったとは、こっちが驚きだ。


「居なかったら、良かったのか?」

「だって、拒めないですよ」

「いくら俺でも、初めてが外とか高度なのはちょっとな……」

「縁ちゃんなら、やりかねないです」


 断言されてしまう。


 最後の言葉はともかく、こうして、俺たちはそのまま一線を越える流れになってしまったのだった。

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