第26話 初めての朝ご飯とからかい

「そういえば、朝ご飯ができたんで呼びに来たんでした!」


 思い出したように言うつむぎ


「それを忘れるなよ」

えにしちゃんが朝から変なことしたせいですよね!?」

「相変わらずいいツッコミだ」


 律儀にツッコミ入れてくれるから、ボケたくなるんだよな。


 とにかく、ダイニングに移動する。食卓には既に父さんの姿。


「紬ちゃん、遅かったね。縁がなかなか起きなかったのかい?」


 事情を知らない父さんは無邪気にそんな質問を投げる。


「~~~!は、はい。縁ちゃんがお寝坊さんでして」


 さっきのキスを思い出したのか、思いっきりうろたえる紬。


「こっそりとキスしようとしたのは誰だったっけ」


 ぎろり。黙っててくださいと言わんばかりの視線で睨まれる。ちょっとからかい過ぎたか。反省反省。


 改めて食卓を眺めると、アジの開きに納豆、ネギと豆腐の味噌汁に白米と、「ザ・和食」という献立だ。


 いただきますをして、まずは味噌汁に口をつける。おお。美味い。


「美味い!これ、なんか隠し味でもいれたのか?」

「おばさんのを参考に、煮干し出汁も入れてみたんですよ」

「これは本当に美味しいね。手間かかったんじゃないかい?」

「ちょっと早起きしただけですよー」


 初めて我が家の食卓に出す味噌汁が好評で、紬も満足げだ。


「魚の焼き加減もいいし。いやー、さすがだな」

「ほ、褒め過ぎですよー。おばさんに比べればまだまだです」


 こいつが犬だったら、ぱたぱたと尻尾振ってるんじゃないかと思うくらいだ。ふと、また悪戯心がむくむくと芽生えてくる。


「紬が嫁になってくれたら、毎日こんな味噌汁飲めるんだろうなー」

「よ、嫁!?私には、ま、まだ早いですよ」


 途端にあたふたしだすこいつ。


「そうか、そうか。紬は俺と結婚したくないのか……」


 わざとらしくいじけてみる。


「そ、そうじゃなくて。今は恋人で居られるだけで幸せ、というか」

「俺としては、婚約してもいいくらいなんだがなあ」

「ですから、まだ早いですってば……わざと言ってません?」


 ようやく、俺が悪ノリしているのに気がついたか。


「だって、お前の反応が可愛いからさ」

「以前の縁ちゃん、こんなことぽんぽん言わなかったのに……」

「そりゃ、以前とは関係も変わったからな。安心して可愛がれる」

「人をペットみたいに言わないでください!」


 こんなやりとりもまた楽しい。ふと、視線に気がつくと、父さんが生暖かい視線で俺たちを見ていた。


「二人の仲がよくて、親としては嬉しい限りだよ、うん」

「「う」」


 二人揃ってうめき声を漏らす。二人っきりでこいつをからかうのはよくても、その様子を親に見られていたとなれば羞恥心も湧いてくる。


「からかうのは二人きりだけの時にするわ」

「二人きりのときでもやらないでください。だいたい、縁ちゃんはなんでそう、ひねくれた愛情表現するんですか」

「だって、ストレートに言うだけだと面白くないだろ?」

「面白くなくていいですよ」


 ぶつくさと文句を言う彼女。そういう風にリアクションしてくれるから、ふざけたくなるのだが、それは言わないでおこう。


 だって、そういう風にふざけあうのが楽しいのだから。

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