第25話 朝の一幕

えにしちゃーん。朝ですよー」


 トントントン、とノックの後に声がする。ぼんやりとした頭で昨日のことを思い返す。そういえば、今日からつむぎがご飯を作ってくれるんだった。


「あーさーごーはーんでーすーよー」


 再び、紬の声が響く。起きてもいいが、こいつがどんな反応をするのか知りたくて、狸寝入りを決め込む。はてさて。


 ガチャリと音がして、そろっと部屋に入ってくるのがわかる。何をするのやら。ちょっと楽しくなってきた。


「こんなに寝起きが悪いの珍しいですね」


 訝しげな声。まあ、狸寝入りだしな。

 薄目で観察すると制服姿にエプロンという格好をしている。


「あ。でも、これはチャンスかも」


 一体何のチャンスだろうか。なんて思っていると、床に座って、顔を近づけてくる。おいおい。まさか。


「こういうの、一度やってみたかったんですよね」


 少し緊張したような声で言う紬。これはやはり、目覚めのキスとかそういうやつか。俺までドキドキしてくる。


 しかし、いくら待っても想像した感触はこない。再び薄目を開けてみると、目と鼻の先に唇がある状態で、ピクピクしている。


「やっぱり、こういうのは良くないですよね」


 そんな言葉が漏れる。いや、期待させといてそれはないだろう?こうなったら。少し強引に紬を抱き寄せて唇を奪う。


「!?」


 紬は一瞬、目を白黒させていたが、すぐにキスに没頭し始める。そんな感じで10分ほどキスをした後の事。


「縁ちゃん、趣味が悪いですよ」


 拗ねたように言っているが、機嫌は良さそうだ。


「それは悪かった。でも、おまえも焦らすからさ」

「それ、寝たふりしてた縁ちゃんが悪いですよね!?」

「別に、堂々とすればいいだろう?」

「だって、寝てる時だと一方的ですし……」


 ごにょごにょと、恥ずかしそうに、言葉を濁す紬。根が真面目なものだから、勢いでできないのも、またこいつらしい。


「とにかく。こういう不意打ちは止めてくださいね」

「不意打ちじゃなきゃいいのか?」

「そりゃ、私は縁ちゃんの彼女ですし、好きですから」


 照れながらもそういってくれるこいつはやっぱり可愛くて。

 また、ちょっとしたイタズラでもしようかと思うのだった。

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