第3章 相談屋としての日常

第20話 相談屋な俺と後輩(前編)

 俺は平凡な高校2年生だ。というと、だいたいの奴に「おまえは絶対平凡じゃない」と言われる。色々やらかして来た自覚はあるが、天才棋士だったりスーパーハッカ―だったり、バスケ一筋でインターハイ出場とか、そういう特別さはない。


 ただ、一つ違うことがあるとしたら、何のきっかけか始まった相談屋なんてものをやっていることだ。別に、自分から相談屋をやるなんてアレなことをしているわけではない。悩み相談に応じていたら、気が付いたら噂が広まってという具合だ。


【相談屋さんへ ちょっと依頼があるのですが、放課後時間取れますか?】


 ある昼休みの事、ラインの通知を見るとそんなメッセージが届いていた。差出人は「朝比奈」とあるが、本名なのかハンドルなのかはわからない。ラインは割と匿名でやってる奴もいるからな。


【じゃあ、15:00に第一校舎の裏で、どう?】


 無視するのも自由なのだが、寝覚めが悪いので、いつも話までは聞いている。


「こういう話が来てるんだが、どう思う?」


 スマホの画面をつむぎに見せつつ聞いてみる。人の相談に乗るなんてのは、一人だと荷が重いので、こいつにも伝えることにしている。


「あー。朝比奈先輩ですか……」


 言いづらそうな表情の紬が気になる。


「なんか知ってるのか?この人の事」

「サッカー部のマネージャーなんですが、最近、トラブってるそうです」

「初耳だな」

えにしちゃん、相談屋なんてしてる割に、こういうの興味ないですよね」

「俺がどうできるわけでもない、いざこざを聞いてもなあ」


 それは本音だった。


「とにかく。朝比奈先輩ですが、部の男子に言い寄られて困ってるらしいです」


 なるほどな。しつこい男はどこにでもいるもんだ。


「ふーむ。相談はそれ絡みかもな」

「そうかもしれませんね。で、行きます?」


 答えはわかってるだろうに、聞いてくるこいつ。


「聞くだけならタダだし、まあ」

「それ、相談に乗る人の台詞じゃないですよ」


 呆れたように、そんなツッコミを入れる紬。


「聞かないで放置ってのは寝覚めが悪いんだよ」


 手に負えないと思ったら、教師に相談するなり警察に相談するなりしろとぶん投げることはあるが、聞かないままというのが落ち着かないのが性分だ。


「そういうとこ、昔から変わってませんよね」

「律儀についてくるおまえもな」


 うちは中学高校とエスカレーター方式だ。そのため、去年も中学3年だった紬に相談に乗ってもらうことがあった。そういえば、ふと、気づいたことがあった。


「以前から相談に乗ってくれてたのって、俺と一緒に居た……むぐ」


 言いかけた口を強引に塞がれる。


「縁ちゃん、デリカシーが足りないですよ」


 少し拗ねたように言う紬。


「デリカシーが無いのは前からだろ。彼氏としては、気になるんだが」


 以前から意識されていたかはどうでもいいが、聞いてみたいという好奇心もある。


「はあ。縁ちゃんが察してる通りですよ!一緒に居たかったからですよ……」


 若干投げやりな回答だったが、そういうのもいつものことだ。


「そう言ってもらえるのは男冥利に尽きるな」


 付き合ってからこっち、キスをした後はあまり甘ったるい雰囲気になることが無いが、それだけにそう言われると喜びもひとしおだ。


「そこまで嬉しそうにされると、私が照れるんですが」

「もっとデレてくれていいぞ」

「十分デレてるつもりなんですが」


 青春してるなあ、俺たち、と実感する。

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