第7話 尾行を終えた俺たちは、デートをすることにした

 というわけで、無事に尾行を終えた俺たち。


「どこでもリクエスト聞くぞ。今日は付き合ってもらったからな」

「別にそこは気にしなくていいですけど。でも、そうですね……」


 つむぎが指定したのは、女子に人気らしいパフェ専門店。


「なんか、食べたいパフェでもあるのか?」


 スイーツが好きなこいつのことだから、何かお目当てがあるのかと思ったが、首を横に振る。


「行けばわかります」


 その声はか細かった。しかも、なんだか顔が赤い。何か恥ずかしいことでもさせられるのか?


 さて、そのパフェ専門店に到着した俺たち。周りは女子グループやカップルであふれている。俺たちもそのカップルの一組なんだが。


「なあ、紬。これ、正気か?」

「……そりゃ、私も恥ずかしいですよ」

「だよな。なら、なんで」

「せっかく恋人同士になったんだから、こういうの体験してみたかったんですよ!」


 少し大きな声で叫ぶ紬。


 さて、俺たちの目の前に鎮座しているのは、クリームにフルーツ、ビスケットなどなど色々なものが添えられたパフェ。


 それはいいのだが、なんと、スプーンが一つしかない。おまけに、ドリンクも、どっかで見たことのある、カップルが二つのストローで、同じのを飲む奴だ。


 正直、こう、カップルしてます!なんてメニューを頼むのは俺にとっては羞恥プレイでしかないが、他ならぬ紬のリクエストとあっては断るわけにもいかない。


「紬がこんなに乙女乙女してたとは初めて知ったぞ」

えにしちゃん、失礼ですね。私はずっと乙女ですよ」


 ツッコんでくる紬だが、機嫌は良さそうだ。


 というわけで、まずはパフェをと考えていると、機先を制して、紬の奴がパフェを掬って、俺の口に近づけて来た。


「縁ちゃん、あーん」


 平静を装っているが、スプーンがぷるぷる震えているので、こいつとしても恥ずかしいんだろう。


 もぐもぐ、とパフェを咀嚼するものの、甘い以外の感想がない。まあ、紬の奴が嬉し恥ずかしな表情をしているので、俺にとってはそれだけで満足だ。


 そして、今度は俺のターンだ。スプーンでパフェを掬って、同じように紬の口に運ぶ。


「ほら、紬。あーん」


 紬の奴は、やっぱり恥ずかしいようで、目をつぶってぱくっとパフェを食べる。


「美味しいか?」


 こいつの反応が楽しいので、あえて弄ってみる。


「縁ちゃん、わかっていってますよね」


 涙目で睨まれるが、そんな事を言うこいつが可愛くて、イジメたくなってしまう。


「あー、もう。味なんてわかりませんよ!」


 なら、頼まなければいいのに、とは言わない。俺も、こいつの反応を見るのが楽しかったのだから。


「で、本当にこれだけでいいのか?」

「他は、今度の楽しみにとっておきます」


 ということで、パフェやドリンクでカップルらしさを味わって、パフェ専門店を後にした俺たちは、帰路につく。そういえば、あいつらはうまくやっているだろうか。まあ、後で結果を聞いてみよう。


 紬の部屋に通された俺は、隣り合ってしばらくぼーっとする。いつもなら、わいわい言い合っている俺たちだが、不思議と、今日はこうしたい気分だった。


「あの、縁ちゃん。今日はありがとうございます」

「どうした。改まって礼なんて」

「その、尾行だけじゃなくて、ちゃんと私とのデートを考えてくれて」


 そう言われると、俺も少し照れくさい。


「まあ、付き合ってから今日まで何にもしてなかったしな」


 そう。紬と付き合い始めたのが先週の土曜日だが、それから約1週間、タカと姫がうまく行くようにとばかり考えて、全然恋人らしいことが出来ていなかった。


「やっぱり、縁ちゃんは優しいです」


 そう言うと同時に俺の方にしなだれかかってくる紬。


「さ、さすがに過大評価だろ。1週間近くも放っておいた彼氏に対してさ」

「それでも、ちゃんと、埋め合わせ考えてくれてたのは嬉しいです」


 そう言いながら、紬の奴は顔を俺の方に近づけてきて、俺にもこいつが何をしたいのかよくわかった。


 俺も、それに応えるように顔を近づけて、艶やかな唇にキスをする。


「ファーストキスはレモンの味とかって聞きますけど」

「うん?」

「味はしませんでしたね」

「そりゃそうだ。レモン味とかホラーだろ」


 直前に何か食べていたならいざ知らず、そりゃ味はないだろうと思う。


「縁ちゃん、そこで茶化す辺り、照れてますよね」


 頬をつんつんとつつかれる。


「俺だって、可愛い彼女と初キスしたら、照れるぞ」


 幼馴染だと女性として見られないとか妹だとかそんな話はあるけど、やっぱりこいつは俺にとって前から女だったと思う。


「そういうとこ、縁ちゃん、可愛いですよね」


 俺がからかうならともかく、こいつにからかわれるのはシャクだが。

 まあ、たまにはいいか。 


 なお、その後。


【一貴君とは、また遊ぼうってことになったよ。ありがとー】


 という姫からのメッセージと、


【姫ちゃんとはとりあえず、うまく行ったよ。恩に着る】


 というタカからのメッセージ両方が届いていた。


 まずは、顔合わせがうまく行って、ほっと胸をなでおろした俺たちだった。

 ていうか、もう下の名前で呼び合ってるのな。一体何があったんだか。

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