第6話 後輩と一緒に、親友の尾行をしている俺たち(2)
尾行を始めた俺たちだが、実のところ、デートプランは前日までに念入りにタカと相談してある。最後の方は、タカがちょっと引いていた気がするが。
「ところで、どこまで尾行をするんですか?最後まではなしですよ」
そのことについて言おうと思ったら、
「いくらなんでも、そこまではしないって。喫茶店を出るまでな」
「それでもちょっとやり過ぎな気がしますが……わかりました」
最初の喫茶店で話が弾んだかどうかを見届けてから、離脱する予定だ。
二人で並んで何やら話しながら、例のお洒落喫茶店に入っていくタカと姫。
少し間を置いて、紬と二人で同じ喫茶店に入る。近くの席だとバレる危険性があるので、こちらから見えて、向こうからは死角になるところに二人で着席する。
「私は、ダージリンのストレートで。縁ちゃんは?」
「じゃあ俺もダージリンのストレートで」
注文を告げると、ウェイトレスは去って行った。
「
「馬鹿にするなよ。ダージリンというのはな、インド北東部西ベンガル州北部……」
ダージリンの定義をスマホで調べて淡々と読み上げる。
「Wikipedia見ながら言わないでくださいよ」
なんだかんだ言って律儀にツッコんでくれる紬。見ていないのに、Wikipediaだとわかるのはさすがだ。
「ま、それは冗談だが。何度か飲んだことはあるぞ?」
「縁ちゃん、紅茶の銘柄とかこだわらないのに。意外ですね」
確かに、こいつの前であんまり紅茶がどうのこうの言った覚えがないな。
「ああ、いや。姫が淹れてくれたもんでな」
姫のところに遊びに行ったときに、何度か淹れてもらった。
「……縁ちゃん、さすがにそれ、一貴先輩に言ってないですよね」
紬が険しい顔つきで俺の方を見てくる。
「さすがにそれは。あいつも、俺が姫と親しいとわかっていい気はしないだろうし」
「それが無難ですね」
出て来た紅茶を飲みながら、ちらちらと二人の方を観察する。
「紬、どう思う?」
「今のところいい感じじゃないでしょうか?姫ちゃんも楽しそうですし」
「よく見えるな。俺なんか、うまく相槌打ってるなーくらいしかわからんぞ?」
「私、視力は2.0ですから」
少し、誇らしげに胸を張ってそう言う紬。
「そういえば、そうだったな」
俺も視力は悪くないが、そこまで違うと見え方は違ってくるか。
「姫ちゃんと一貴先輩、何話してるんでしょうね?」
観察しているのにも飽きて来たのか、そんな話を振って来る。
「さあな。姫が好きそうな話題は一通りタカに教えといたが」
「やっぱり縁ちゃんは凝り性ですね……ちなみに、どんな?」
「紅茶の話だろ、好きなキャラクターの話だろ、それに……」
指折り数えて、教えたことを思い出す。
「もういいです」
ツッコミを入れるのにも疲れたらしい。
その後も、俺たちは二人を観察し続ける。
「お。そろそろ、話が盛り上がってきたかな?」
「はい。いい感じですね。これだったら大丈夫だと思います」
「そうだな。じゃ、二人が喫茶店出たら、尾行終了ってことで」
さらに30分程経って、話が盛り上がった二人が喫茶店を出るのを見届ける。
「で、どうする?せっかくだし、デートしたいんだが」
「ひょっとして、縁ちゃん、最初からそのつもりで?」
「そりゃ、いくら俺でも、出来たばかりの彼女と二人きりだったら、考えるさ」
「縁ちゃん、そういうところはちゃんと考えてるんですよね」
はにかんだ紬の表情はとても可愛らしくて、ここが喫茶店の中じゃなかったら抱きしめたいと思うくらいだった。
というわけで、尾行はこれにて終了。ここからは、紬とのデートだ。
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