第8話 俺と後輩のとある平日(1)

 とりあえず、親友の一貴かずたかことタカと、ひめが無事に仲良くなれてほっと一息ついた次の月曜日のこと。


 意識が覚醒しているのに気が付いて、ぱちりと目を開ける。そういえば、昨日はつむぎと、FPSしたり映画観たり、アニメ観たりと一日中遊んでいたのだった。


 くっついたばっかりの恋人同士が色気のかけらもなく、一日中遊びまくっているとか我ながらどうかと思うが、それが俺と紬の関係ということなのだろう。


 洗面台で顔を洗って、リビングに顔を出すと、ソファで寝ていたつむぎがパジャマ姿で伸びをしている。


「ふわぁー。おはようございます。えにしちゃん」


 まだ春先だからか、ふわふわもこもこな冬仕様のパジャマで、それがまた愛らしい。しかし、こいつも無防備過ぎるだろ。


 つーか、ゲームやって疲れ果ててたからそのままソファーで眠らせてしまったけど、よく眠れたのだろうか。


「ああ、おはよう、紬。よく眠れたか?」

「うん?よく眠れましたけど」

「それならいいんだ。それなら」


 そして、当然のように我が家の食卓で一緒にご飯を食べる紬。


「やっぱり、朝は和食に限りますねー。おかわり!」


 呑気に言う紬。


「紬ちゃんがいい食べっぷりでおばさん、嬉しいわー」


 そして、呑気におかわりをよそう母さん。


「そういえば、紬ちゃん、うちの息子はどうだい?付き合ってみて」


 父さんの言葉に、飲んでいた味噌汁を危うく吹き出しそうになった。


「つ、紬。おまえ、父さんと母さんに……」

「そりゃ、言いましたよ。聞かれましたから」


 平然とそんな言葉が返って来る。マジか。


「俺たち、そんなにわかりやすかったか?」

「おまえたち、昨日は妙に距離が近かったからなあ」

「そりゃ、ずっと見てればわかるわよ。この子たちデキたんだなって」


 とは父さんと母さんの弁。


 無意識の内に心のガードが解けていたのか。不覚。


「あー。死にたい……」


 心からの叫びをつぶやく。


「別にいいじゃないか。遅かれ早かれそうなってただろう?」

「ねえ」


 実の両親から生暖かい目で見守られていたことを知って、ちょっとショックだ。


 許可を取っているとはいえ、紬のとこのおばさんとおじさんはそれでいいのか。

 今更過ぎるが、そんなことが気になった。


(今度聞いてみよう)


 考えながら、登校の準備を済ませる。


「「行ってきまーす」」


 朝の挨拶も二人一緒だ。

 しかし、今の関係ならともかく、恋人でもないのに、こんな生活を送っていたわけだが、皆感覚が麻痺していたのではなかろうか。

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