第42話 姫の誕生日パーティー

「誕生日おめでとう、ひめ

「おめでとうございます、姫ちゃん」

「おめでとう、姫ちゃん」


 口々にお祝いの言葉を口にする俺たち。場所は三条さんじょう家のリビング。テーブルには、誕生日を祝うケーキがどかんと置かれている。


『Happy Birthday Hime』


 という文字がデコレーションされたチョコが乗っかっている他には、17本のロウソクが印象的だ。


「皆、ありがとう。こうして集まってくれて、幸せだよー」


 ほわほわとした笑顔で言う姫。


「とりあえず、定番の、ロウソクを吹くのやろうぜ」


 毎年こんなことをしている家はそう多くないかもしれないが、これも様式美ということで、きちんと歳の数だけ立ったロウソクに火を灯していく。そうこうしている間に、つむぎの奴が部屋の電気を消して、準備OKだ。


「ハッピバースディトゥユー、ハッピバースディトゥユー……」


 そんな、定番の歌を皆で歌う。自分の誕生日を忘れていた、なんて奴だけど、やっぱり祝われるのは嬉しいらしく、はにかんでいるのが印象的だ。


「ふーー」


 最後に、姫が息を吹きかけるものの、一発で17本のロウソクの火が消えることはなく、何度も息を吹きかけていた。


「それにしても、ほんと、誕生日知らせてくれて良かったよ」


 そうぼやくのはタカ。


「だってさ、姫?」


 流し目で姫の方を見る。


「それは悪かったからー」

「姫ちゃんなら、いつものことですもんね」


 なにはともあれ、タカにとって良い日になることを願いたい。


「そういえば、その服、似合ってるね。可愛いよ」


 タカが、姫の服装を褒める。


 つられてみると、姫は桃色のパーティードレスで着飾っていて、いかにも上流階級という感じだ。それを言ってからかうと、「そんなことないよー」と言われるに決まっているのだが。やっぱりいいとこのお嬢さんだとつくづく感じる。


「あ、ありがと。一貴かずたか君のも似合ってるよ」


 姫もそんな言葉を返す。


「そ、そっか。良かった。色々悩んだし……」


 タカが照れていて、なんとも微笑ましい光景だ。


(なんか、いい雰囲気だな)

(下手に手出ししなくても大丈夫そうですね)


 隣り合った俺たちは、そんな事をささやきあう。


「そういえばさ、誕生日の抱負とかないのかー?」


 ちょっとしたネタを振ってみる。


「抱負?新年じゃないんだからー」


 あしらおうとする姫だが、


「あ、私もせっかくだから聞きたいです」

「僕も聞きたいな」

「ええ。これって言う流れ!?」


 つむぎもタカも揃ってノッてくれたようだ。


「誕生日の抱負、抱負かあ。むむむ」


 眉間にシワを寄せて悩みだす姫。こういうのは適当な事を言っておけばいいのに、答えを真剣に考えてしまう所が、姫が天然と言われる理由の一つだが、本人には自覚がないらしい。


「一つは、皆仲良く、かな。こうして来年も集まれるといいよね」


 にぱっとした笑顔でそんなことを言う。こいつの場合、真剣にそう言っている節があるので、嫌味がない。


「ちょっと普通過ぎるな」

「もうちょっと何かないんですか?」

「もう一声」


 とはいえ、これで終わっては面白くないので、もうちょっと粘ってみる。


「もう一つ、一つ、かあ。うーん。あ!」


 またも悩みだす姫。と思ったら、何か思いついたようだ。


「でも、これを皆の前で言うのはナシだよね。別なのは……」


 なんてぶつぶつ言っている。皆の前でいうのはナシということは、何か恥ずかしい系だろうか?弄ってやろうかな、なんて思っていたら。


「その、皆の前で言うのナシっていうの聞きたいな」


 意外にタカが積極的な反応を示した。


「よりによって、一貴君がそれを言う?」

「僕だと言えないこと?」

「そうじゃないんだけど。うーん……もう、やめ、やめ!この話は今度ね!」


 強引に話を打ち切られてしまった。最近、姫が抱えている悩みで、皆の前、特にタカの前で言いづらいことというと、ひょっとして……。


(ひょっとして、告白のことだったりします?)

(どうだろうな。案外当たってそうだけど)


 再び、ヒソヒソ話をする俺たち。


「よっし。じゃあ、次は誕生日プレゼント行くとしようか」


 バッグに入れていた、ティーカップが入った箱をラッピングしたものを手渡す。


「17歳の誕生日おめでとう、姫。毎年の奴だけど、せっかくだから使ってみてくれ」

「毎年、ということは……やっぱり、ティーカップ」

「いい加減定番になって来たから、飽きたかもしれないけどな」

「ううん。そんなことないよ。使わせてもらうね」


 そう言って、プレゼントした箱を大事に手元に置いてくれた。


「誕生日おめでとうございます、姫ちゃん。私からはこれです」


 次にプレゼントを手渡したのは紬。


「……お茶っ葉だね」

「せっかくなので、姫ちゃんが飲んでなさそうなのを選んでみました」

「ありがとう。今度、淹れてみるね、紬ちゃん」


 ここまではお決まりの流れだ。あとは、タカだが-


「誕生日おめでとう、姫ちゃん。ちょっと外したら悪いんだけど」


 こないだ買ったぬいぐるみが入っていると思われる、大きめの袋を取り出して、手渡すタカ。


「ちょっと大きいね?開けてもいいのかな?」

「うん。どうぞ、どうぞ」


 そうして出てきたのは、予想通り、クマのヌイグルミ……とメッセージカード?


(メッセージカードなんてありませんでしたよね)

(だよな。何書いてんだ)


 予想外のメッセージカードに、少し不安が込み上げてくる。


「この、ヌイグルミってひょっとして、こないだのデートの……」

「欲しがってたからね。紬ちゃんやえにしにも協力してもらったんだ」

「このバカ。そんな所までバラさないでもいいのに」

「やっぱり、縁君、なんか企んでるなーと思ったんだよ」


 じとっとした視線を送られる。


「別にいいだろ、これくらい」

「もっと変なことかなーと思ったんだけど、意外にまともでびっくり」

「おいおい。もっと信用してくれよ」


 まあ、自業自得か。


「とにかく、ありがと。嬉しかったよ」


 俺たちに向けるのとは、少し違った、どこか恥ずかしそうな、そんな笑みをタカに向ける姫。


「どういたしまして。喜んでくれて良かったよ」


 一方、タカはといえば堂々としたものだ。


「あと、そのメッセージカードだけど」

「あ、これ?」


 そう。そのメッセージカードは俺たちも気になっていたのだった。


「うん。できれば、ここで読んで欲しい」


 そうはっきりと言うタカ。ここで読んで欲しい?どういうことだ?


「じゃあ、読ませてもらうね。えーと……」


 最初は笑顔で読み進めていた姫だが、読み進めるにつれて、だんたん顔が紅潮して来て、しかも、なんだか少し息も乱れているような。一体、何書いたんだ、こいつは。


「これって、私へのラブレター、だよ、ね?」


 ラブレター?


「そうだよ。口だと全部言えそうにないから、思い切って手紙にしてみたんだ」


 笑顔でいうタカは、整った容姿も相まって、様になっている。まさか、こんな大胆な真似に踏み切るとは。


「そっか。ありがとう。凄く、嬉しい」


 対する姫はというと、恥ずかしさで湯気がでそうなくらいぷすぷすとしている。どんなこっ恥ずかしい言葉が並んでいたんだか。


「それで、返事はどうかな?」

「ここじゃなきゃ駄目?」

「できれば」


 ここまで来るともう出来レースだが、なんでまたそんな羞恥プレイを強要するような真似を。なんて思っていたら、タカが何やら視線を送ってきた。ん?


「そうだね。わかったよ」


 覚悟を決めたのか、息を大きく吸い込んだ姫は、


「私も、あなたの事が好き。だから、喜んで、お受けします」


 そう深々とお辞儀をしたのだった。


(おお、大胆)

(見てるこっちが恥ずかしくなりますね)

(ほんと、ほんと)


 なんて、相変わらずヒソヒソ話をしていたところに。


「これで、安心できた?縁」


 そんな言葉をかけられたのだった。


「はあ?」

「だって、最近、いつもやきもきしてたでしょ」

「別にそこまでは」

「だから、これくらいした方が君たちも安心できるんじゃないかって思って」


「おま。ひょっとして、この羞恥プレイは……」

「羞恥プレイってことはないと思うけど」

「いやいや、羞恥プレイだろ。特に俺たちとか姫とか」


 見ろ。姫が、ぷるぷると震えているじゃないか。


「まあ、いいか。行こうぜ、紬」

「あ、はいはい」


 これ以上この場にいたら、恥ずかしすぎるので、退散させてもらう。


「ちょ、ちょっと縁?」

「縁君?」


 そんな言葉をかけてくる2人だが、気にしない。


「あとは、2人でお幸せにイチャコラしてろ」

「こんな事言ってますが、縁ちゃん、恥ずかしいだけですからね」


 スタスタと三条家を後にしたのだった。


「はー。もう顔から火が出るかと思ったぜ」

「一貴先輩があんなことするの、予想外でしたね」

「いや、ほんともう、その通り」


 後押ししてやらなきゃと思っていたところを、勝手に出し抜かれた気がして、少し悔しい。


 と思ったら、紬に何故か頭を撫でられていた。


「何のつもりだ?」

「色々準備して来たのが、ご破産になって悔しかったんですよね?」


 笑いをこらえながら、こういうことをされると、なんと言っていいのやら。


「なんでわかるんだよ」

「そりゃ、縁ちゃんの相談に付き合ったの私ですから」

「そういえば、そうだった」


 今日の段取りとか、どこら辺で抜けるかまで事前に打ち合わせしていたのだが、それを相談したのは目の前のこいつだった。


「あいつらがうまく行ったのはいいけど、それはそれとして悔しい……!」

「やっぱりそうじゃないですか」


 こいつはこいつで、相変わらず俺の頭に手を置いたままだ。途端に、自分が子どもになったような気がしてしまう。


「まあいいか。あとは、俺達の時間だ。ちょっとついてこい」

「いいですけど、どこ行くんです?」


 ちょっと予定より早いけど、タカたちはうまく行ったようだし、こっちはこっちの話をしよう。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

次に続きます。

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