最終章 そして日々は続く
第53話 サプライズ失敗
「ようやく、梅雨、明けましたね」
照りつける太陽を眩しそうに見上げながら、
「ほんと。ようやく、夏本番って感じだな」
同じように紬の視線の先を追って、つぶやく。照りつける太陽が眩しい。
「春から色々ありましたよね」
「色々って、タカたちのことか?」
「それもですけど。おばさんが入院したり、私達の事が噂になったり」
「そういえば、そんなこともあったな……」
振り返ると、たしかに、色々あった。しかし。
「おまえと付き合うようになったのが一番大きいな」
何が大きいかというとやはりそれに尽きる。
「私も、です」
俺の言葉に照れながらも、ぎゅっと手を握り返してくる紬。
「ところで、さ。これは、仮に、仮に、なんだけど」
先日、
「なんですか?らしくもないですよ」
怪訝な顔の紬。ちょっとまずったか。
「いやその、仮におまえと将来結婚するとしてさ」
「また、からかう気ですか?」
すかさず話を遮られてしまう。何故、初手でからかいを警戒するのか。
「いやいや、今のは真面目な話」
「本当でしょうね?」
「本当の本当」
「ならいいですけど。それで、結婚がどうしたんですか?」
その言葉に、少し考えをまとめて話す。
「おまえ、結婚式とかってやりたい派?」
「また何か企んでません?」
じろりと睨みつけられる。
「ただの世間話だって。どれだけ信用ないんだ、俺」
「
「子どもができたらとか妄想してた癖に」
「あ、あれは場の勢いって奴ですよ。素面じゃなかったんです」
「で、それはおいといてだ。おまえの将来図的にはどうなんだ?」
その言葉に、少し考え込んだかと思うと、
「ひょっとして。あの、真剣に結婚とか考えてくれたりしてます?」
斜め上の返答を寄越してきたのだった。こころなしか嬉しそうだ。
「なんでそうなる?」
「やけに話を引っ張るなーと。で、真剣な話なのではと思い始めたんですけど」
そういう発想になるか。しかし、今のところ誰と結婚するかと言えば、こいつ以外に考えられないわけで。
「すぐじゃないけど、お前と結婚できたらなとは思ってる」
だましているわけじゃないのだが、心が痛い。
「そうですか。私もです」
横目でちらりと見ると、なんとも嬉しそうな顔をしている。しかし、これは流れ的にある意味チャンスか。
「その、結婚するとしてさ、紬は結婚式はしたいのかなと」
自分は何を言っているのだろう。
「できれば、したいですね。やっぱり、ウェディングドレスとか憧れですし」
そうぽつりと本音を漏らす紬。
「そ、そうか。俺もだぞ」
元々は、姫の計画のために、紬の気持ちを確認しておきたかっただけなのだが、思いもよらず真剣な答えが得られて、色々照れてしまう。
「あと、やっぱり、一貴先輩や姫ちゃんも呼びたいですね。それに、披露宴には、縁ちゃんと出会ってからの色々をDVDに焼いて、クイズゲームもして……」
そして、紬はと言えば、その先を妄想してらっしゃるようで、披露宴の計画まで語り始めてしまった。
「うん。披露宴とかはその時になったらな」
さすがに、そのレベルまではまだ考えられない。
「は、はい。すいません。つい、考えちゃって」
妄想が行き過ぎたのに気づいたのか、紬も少し気まずそうだ。
ともあれ、これなら計画通り進めても大丈夫そうだ。
【紬的にはOKらしい。今度、細かいところ打ち合わせな】
姫とタカに、結果を送る。
「?」
突然、スマホを操作しだした俺を不審に思ったのか、怪訝な目で見つめられる。
「いや、友達に借りたゲーム返せって催促されてさ」
そう、無難な言い訳で逃れようとするも。
「縁ちゃん、滅多にゲーム借りないですよね。いつも大体買ってますし」
鋭いツッコミ。
「たまにはゲームを借りたくなることだってある」
「滅茶苦茶苦しい言い訳なんですけど」
もうはっきりと疑われてしまった。仕方ない、正直に話すか。
「……というわけ」
姫が持ちかけて来た、「結婚式ごっこ」の話を正直に打ち明ける。
「それで、さっきから色々挙動不審だったんですね」
納得が行った様子の紬だが、俺的には色々気まずい。
「いや、ごめんな。秘密で進めて、わっとサプライズでやりたかったんだけど」
「そういうサプライズ好きですよね。付き合ってからも何度されたことか」
「悪かった。とりあえず、この話は」
ナシでと言おうとしたところ。
「せっかくだから、やっちゃいましょうよ」
予想外の紬からの提案。
「え?それだと、サプライズもクソもないだろ」
「別にサプライズじゃなくてもいいと思うんですよ。ドレス着てみたいですし」
「そ、そうか。じゃあ、やるか」
「あ、でも。私にも関わらせてくださいね?」
そうして、サプライズで結婚式(仮)をするはずが、当の本人も関わっての結婚式(仮)になってしまったのだった。
そして、なんだか楽しそうな愛しの彼女。色々具現化したい妄想があるんだろう、うん。
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