第5章 お節介な誕生日パーティー

第39話 姫の誕生日パーティーをやる件

「あー、もう。梅雨ってほんっと鬱陶しいよな。蒸し暑いし」


 窓の外を見ると、雨露が窓を流れ落ちていく。もう梅雨に入った、6月のある月曜日。


「すぐ食材もカビちゃいますもんね」


 応じるのは、つむぎ。彼女もどことなく気怠けだるそうだ。


「早く梅雨明けないかなー」


 言っても仕方ないがぼやいてみる。


「気持ちはわかるけどね。我慢しないと仕方ないよ」


 苦笑いしながら、そう俺を宥めるのはタカ。ちなみに、今は三人で机を連ねて、昼飯を食べている最中だ。


「ところで、えにしちゃん。今日のお弁当はどうですか?」


 母さんが退院して以来、昼のお弁当は、しょっちゅう紬が作るようになった。少し悪いな、という気持ちもあるのだが、紬は紬でやりがいがあるらしい。


「いつも通り美味いぞ。ただ、野菜炒めはもうちょっと塩気が欲しいな」


 ちょっと贅沢かもと思うが、率直に感想を言ってくださいという紬からの頼みもあるので、もうちょっとこうして欲しいなという事は言うようにしている。


「ヘルシーなの意識して塩分控えめにしたんですが……」

「ああ、いや。そういうのだったら、気にしなくていいぞ」


 さすがに、健康を気にしてくれたのにどうこう言う気にはなれない。


「いえ。もうちょっと工夫してみます!」

「紬ちゃんはがんばり屋さんだね」


 側で俺たちのやり取りを見ていたタカが言う。いやもう、ほんとその通り。


「いえいえ。私なんかまだまだですよ」

「ま、ほどほどにな。今のままで十分美味しいし」


 俺の好みの料理を作ろうと努力してくれるのは嬉しいが、今でも十分過ぎるくらいなのだから。


「あ、ありがとうございます」


 少し照れつつも応じる紬。


「ほんと君たち、順風満帆って感じだね」


 タカは言う。呆れつつも、どこか羨ましげだ。


「待て待て。おまえは、順調じゃないのか?姫が居るだろ、姫」


 タカが一目惚れした相手であり、俺や紬の幼馴染でもあるひめ。俺たちが顔合わせを設定してからもう1ヶ月以上になると思うのだが。


「うまく行ってる、とは思うよ。ただ、なかなか踏ん切りがつかなくて」

「あんまり待たせ過ぎるのもどうかと思いますよ。一貴かずたか先輩」


 チクリと刺す紬。


「あはは。ちょっとグサっと来たよ」

「しかし、俺もそう思うぞ。もう何度もデートしてるだろ?」


 姫の方も悪くない感じの反応……というか、なんで告白してくれないのか、前に訝しがってたくらいだしな。そこはさすがに伏せておくが。


「それもそうなんだけどね。なかなか、いいきっかけが無くてね」

「変に完璧主義だよな。別に、デートの終わりにどっか誘って告白すればいいだろ」

「そうそう。縁ちゃんなんか、私から告白しなければ、どうなってたか」

「おいおい。俺だって、あの日はうっすら気づいてたぞ」

「でも、私から言わないと、なあなあだった気がするんですよね」


 俺の方を睨みながら、そんな事を言う紬だが、どことなく楽しそうだ。


「女の子の立場から言わせてもらうとですね」

「ん?」

「そんなに、告白のシチュエーションにこだわったりしないですよ?」

「はい。善処します」


 タカも、後輩である紬からも言われて、さすがに気まずいのだろう。


 しかし、タカの気持ちもわからないでもない。最高のシチュエーションでカッコよく告白したい、なんてロマンは俺にもないでもない。


 しかし、シチュエーションか。


「なあ。来週、姫の誕生日だろ。その日に告白するのはどうだ?」

「姫ちゃん、来週、誕生日だったの?」

「待て待て。姫から教えてもらってないのか」


 それは意外過ぎる。もう何度会ってるんだよ。


「うん。なんとなく、そういう話にならなくてね」

「それは、姫ちゃんも姫ちゃんですね」

「だよな。考えてみると、姫は、自分の誕生日も、直前に思い出す奴だった」


 今はここに居ない、もうひとりの幼馴染を思い浮かべる。毎年恒例の誕生日パーティーを開こうという時でも、「あ、そういえば、そうでした」とか返しやがるのだ。天然というか、なんというか。


「とにかく、教えてくれてありがとう。今からプレゼント考えないと……」

「よし。今年は、タカも加えて、四人で誕生日パーティーやろうぜ」

「いや、そこまでしてもらうのは」


 まあ、こいつならそう言うだろうと思っていたけど、そろそろ覚悟を決めてもいいだろうと思う。


「今回ばかりは聞き入れられない。このままだと、グダグダしてそうだからな」

「途中で、私たちが帰る感じで行きます?」


 紬も興が乗ったようだ。


「そんな感じでいいだろ。で、どうだ?」

「ほんと、君たちには頭が上がらないね。わかった、お願いするよ」


 こうして、俺、紬、タカ、姫の四人で誕生日パーティーをする計画が始まったのだった。

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