第2章 親友と親友

第16話 姫のお宅訪問

「なあ、タカ。姫とはうまくやってるか?」


 天気は快晴で、空には雲一つない。実にいい天気だ。

 5月中頃の中庭は、暑すぎるということもない。

 俺は、気になっていた二人の進展具合を聞いてみることにした。


「……大丈夫、うまくやってるよ」


 少しの沈黙に、硬い表情。何かがあったのは一目でわかる。


(どう思う、つむぎ


 相方に小声で聞いてみる。


(どう見ても順調そうじゃないですね)


(そう……だよな)


 やはり、ひめとの間に何かがあったのだろう。

 とはいえ、タカもこれ以上俺の手を借りたくないだろう。

 顔合わせのときに俺がさんざん世話焼いちゃったし。

 となれば手段は一つ。


◇◆◇◆ 


「それで、手段がこれですか」


 今は姫の家への道中。隣には紬が一緒で、俺と手を繋いでいる。

 あれから、俺たちは自然に手を繋ぐようになった。


「「しょうんと欲すればうまよ」って言うだろ」


「それ、元と意味が違いますよね」


 すかさず鋭い指摘。さすがに、わかるか。


「ちなみに、どう違うと思う?」


 話を引っ張りたくて、問いかけてみる。


「元の話は、目的のためには周辺から片づけていくべき、というものですよね。縁ちゃんは、別の将を射ているだけだと思います」


 こう見えて、紬は文系理系ともに得意だ。


「ただ、こっちの将の方が射やすそうなんだよな」


「それ、姫ちゃんを馬鹿にしてません?」


 紬に、微妙な表情をされる。


「タカは、必要以上に人の力を借りたがらないだろ?まずは姫の方かなと」


「姫ちゃんも同じかもしれませんよ?」


「……大丈夫だろ。電話の声は普通そうだったし」


 姫には、事前に二人で遊びに行くことを連絡してある。

 その時の声を思い出してみるが、明るかった……と思う。


「とにかく、行ってみなきゃわからん」


 しばらく歩くと、「三条さんじょう」と書かれた表札がかかった

 二階建ての一軒家。豪邸という程ではないが裕福なのがわかる。


 ぴんぽーん。インターフォンを鳴らす。

 しばらくすると、とたとたという音がする。


「お待たせ、二人とも。さ、上がって上がって」


 俺たちは、すぐに姫の部屋に案内された。

 調度品を見て、改めて、姫がいいところの子なことを実感する。


「これ、銘柄わかる?」


 お茶を持ってきた姫が俺に尋ねた。


「アールグレイだろ?」


 俺の答えに姫はびっくりしている。


「正解。縁君、いつの間に紅茶の銘柄、覚えたの?」


 そう。元々、紅茶の銘柄なんてあまり興味がなかった。


「俺は、負けず嫌いなんだよ」


 紅茶の銘柄当てをしたときに、完敗を期したので勉強したのだ。


えにし君、塾でもそうだったよね」


 懐かしむように姫が語る。

 姫と俺、姫と紬は小学校の頃、塾で出会って以来の仲だ。


えにしちゃん、昔から、勝負事で負けると執念燃やしてましたよね」


 同じく、懐かしむように紬が語る。

 同学年だった姫と俺は、成績に天と地ほどの差があった。

 言うまでも天が姫で、地が俺だ。

 

 そして、当時の俺は何かと負けず嫌いだった。

 というわけで、姫に負けまいと必死で勉強したものだったが。


「縁君、頑張ってたら進学出来たんじゃない?」


「いや、中学受験とか結局性に合ってなかったんだよ」


 親がなんとなく塾に通わせてただけだったしな。

 紬まで一緒に塾に入ったのは予想外だったが。


「……それはいいんだ。今日は聞きたいことがあったんだ」


「聞きたいこと?」


 何のことだろう、と首を傾げる姫。


「……タカとのこと。うまく行ってるか?」


 迷ったが、率直に尋ねてみる。

 予想通りなら、姫の方も何かありそうだが。


一貴かずたか君のことだよね。仲良くやってるよ」


 と姫は笑顔で答えた。

 どういうことだ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る