第34話 真夜中のダンス
フリーターのシンタローは一時期、何とかというヒップホップダンサーに憧れて、自分もダンスを極めようと思った。
しかしシンタローは当時、ダンスなど踊ろうものなら床が抜けそうなボロアパートに住んでいた。そこで彼は、近所の河原で練習をすることにした。
バイト帰りの深夜、人気のない川原を歩いていると、うまい具合に丸く草が生えていない場所を見つけた。
なぜここだけ草が生えていないのかはわからないが、シンタローは物事を深く考える質ではない。その夜から、そこが彼のダンススタジオとなった。
夜な夜な河原に立ち寄っては、イヤホンを耳に突っ込み、見よう見まねのヒップホップを踊ること数日。彼は、音楽の合間に妙な音が混ざるのに気付いた。男の声で、「おい」とか「なぁ」とか言うのが聞こえるのだ。
辺りに人はいないし、第一イヤホンから声がするというのがおかしい。音源に異音が入っているわけではないのだ。
気味が悪いなぁ、なとと思っていたある日、バイト先で後輩の男子高校生と単純作業をしながら駄弁っていたら、こんな話を聞いた。
「あそこの河原、幽霊が出るらしいんですよ。ほら、去年焼身自殺があったじゃないすか」
「え、俺知らない」
「えっ! こんな近所に住んでんのに!? あそこの河原に、丸く草生えてないとこあるじゃないすか。あそこですよ」
シンタローはあまり頭のいい方ではないが、さすがにそれを聞いてゾッとした。その場所というのは、自分の深夜のダンススタジオではないか。
じゃあ、あの声は……。
青ざめているシンタローに、男子高校生は畳み掛けた。
「深夜あの辺を通ると、自殺現場の辺りでのたうち回ってる人影が出るって、噂になってるんすよ! 俺の先輩も見たって言ってましたもん!」
「俺のダンス、他人にはのたうち回ってるように見えてたんだなって……」
シンタローはションボリと語った。
以来、彼はブレイクダンスをやめた。今はラッパーの真似事をしている。
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