第10話 宴の音
大手出版社に勤める松田さんの帰宅は、深夜近くになりがちだ。
日付が変わろうとする頃、最寄り駅から家まで人気のない道を歩いていると、途中でどんちゃん騒ぎが聞こえてくる場所があるという。
かなり近くで騒いでいるに違いない、と思われるほどの音量で、大勢の人が笑う声や呂律の回っていない歌、グラスをぶつけ合う音などが、突然わっと耳に入ってくるのだ。
右手は小学校、左手は広い運動場のある公園で、あとは民家が立ち並んでいる。居酒屋はおろか、灯りが点いている窓もまばらなほどだ。
気になった松田さんはある夜、その声がする方へ、する方へと歩いていった。
公園の中に入り、道路に沿った遊歩道を歩いていくと、宴会の音はだんだん大きくなっていった。道の途中に自動販売機があり、眩しい明かりを放っている。
その辺りをしばらくウロウロしてから、どうもその取り出し口から音がするようだ、と気づいた。
そんなアホな、と思いながらも、取り出し口に耳を近づけてみた。すると、反対側の耳元でいきなり声がした。
「あんた、だぁれ」
女の声だった。振り返ってみたが、人の姿はなかった。
転げるように、家まで走って帰ったという。
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