第9話 見えない子供
高野くんのお母さんの英枝さんが、まだ新婚だった頃の話。
ある日英枝さんがバスを待っていると、知らないおばさんに声をかけられた。
「まぁ、元気な坊ちゃんですね」
英枝さんは戸惑った。当時、彼女は夫との二人暮らし。子供など連れていなかったのだ。
「うちの子じゃないと思いますが……」
「そうでしたの? それは失礼しました」
おばさんは頭を下げ、それから不思議そうに辺りを見回した。
「あら……さっきの子、どこへ行っちゃったのかしら」
英枝さんも辺りを見渡したが、子供などどこにもいなかった。
それ以来、似たようなことが多々起こるようになった。どうやら皆、幼い男の子を見ているようなのだが、肝心の英枝さんにはまったく見えない。そしてそれは、彼女の夫にも同じく見えないようだった。
一度など、喫茶店で頼んでもいないオレンジジュースが運ばれてきたことがあった。店員さんがにこやかに、「こちらはサービスです」と言って置いていったが、背筋が寒くなったという。
元々心霊系の話が好きだった彼女の頭には、嫌な想像が浮かんでいた。もしかすると自分は、子供の霊にとり憑かれているのではないだろうか?
その考えに伴うかのように、体調を崩すことが多くなった。心配した夫に連れられて、ある日英枝さんは病院に向かった。
そして、お腹の中に赤ちゃんがいることが判明した。
逆算すると、妊娠したと思われる時期と、見えない子供につきまとわれるようになった時期とが重なった。
その後英枝さんが出産するまで、見えない子供は度々目撃されたという。
「お前は、生まれる前はでしゃばりだったのよ、って今でも母に言われますよ」
現在、物静かな若者に成長した高野くんは、そう言って苦笑した。
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