第42話 深夜のスーパー
その日は金曜日だった。三河さんの彼女は残業が長引き、三河さんと彼のアパートの最寄り駅で落ち合えたのは、夜の11時過ぎのことだった。
「遅いけどせっかくの金曜日だし、何か買って俺んちで飲もうか」
そう決めて、深夜営業のスーパーに行くことにした。
そのスーパーはこじんまりとした店舗で営業しており、特に出口付近が狭い。買い物を終えると、彼女は袋詰めを買って出た。
「邪魔になっちゃうから、外に出て待ってて」
そう言われて三河さんは店舗の外に出た。
初夏の夜気が心地よい。スーパーの大きな窓ガラスの向こうでは、彼女が購入したばかりの缶ビールやおつまみを、ビニール袋に手際よく詰めていた。
いいなぁ、こういうの。何だか俺たちが結婚して、ふたりで買い出しに来たみたいだな。
そんなことを考えていると、ふと彼女のすぐ隣に、子供の顔があることに気付いた。
鼻から上をサッカー台の上に出し、黒目勝ちの大きな瞳をキョロキョロさせている。男か女かよくわからないが、かわいい顔をした子だ。まだ小学校に入る前だろう。
(こんな時間に、小さい子供が外に出てるもんなんだなぁ)
不安そうなそぶりは見えないから、きっと親が近くにいるのだろう。どうやら迷子ではなさそうだ。
ふと、ガラス越しにその子と目が合った。ぱっちりした目元が、にっこりと微笑んだ。
(愛想のいい子だなぁ)
三河さんはその子に向かって手を振った。
すると、その子から妙に離れたところから、一本の腕がサッカー台の上ににょきっと出てきた。大きい。彼女の頭よりも大きな掌だ。
その手が、三河さんに向かってひらひらと振られた。
「あ? ……ああ!?」
危うく腰が抜けそうになった。通りすがりの人が、彼に不審そうな目線を向けていく。
「お待たせ~。何やってんの?」
ビニール袋を提げた彼女が、スーパーから出てきた。
「い、今お前の隣にいた子供がさ……イタズラかな。ああ、びっくりした」
胸を撫で下ろしていると、彼女が首を傾げた。
「何の話? 子供なんていなかったけど」
スーパーの窓を見ると、子供の姿はもうなかった。
それ以来三河さんは、夜にそのスーパーを利用しなくなった。
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