第41話 使えるものは使う

 斎藤さんが以前住んでいたアパートは、交通の便はいいが古くて、住人もほとんどいなかった。


 まぁでも人がいなくて静かだし、立地はいい割に家賃は安いからいいか、と思っていたら、案の定「出た」。


 そのアパートの間取りは少し変わっていて、リビングダイニングに引き戸を一枚隔てて洗面所がくっついていた。建て付けが悪いのか、何度閉めてもその引き戸は、いつの間にか10センチほど開いている。


 そこから見知らぬ女の顔が覗くのだ。


「それは気味が悪かったでしょう」


「でもアレ見ると、息子が泣き止むんだよ」


 赤ん坊にとっては、いないいないばあとさほど変わらなかったらしい。


「俺は激務だったし、嫁さんは出産後に片頭痛が悪化してね。お互い実家は遠いし……正直助かったよ」


 子供が1歳を過ぎ、リアクションが大きくなるにつれて、女の出現頻度は地味に上がっていった。が、斎藤さんに転勤の辞令が出たため、一家は引っ越すことになった。


「未だに思うねぇ。あいつ、息子がいなくなったとき、寂しくなかったかなって」




 あやしてもらった息子さんは、もう中学生になっている。

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