第40話 ガッチャンガッチャン

 壮亮くんがまだ大学生だった年の年末。


 ひさしぶりに郷里に帰った日の夜、散歩がてら家の近くの公園で缶コーヒーを飲みつつ郷愁に浸っていたら、目の前を黄色い帽子をかぶって、黄色いカバーをつけたランドセルを背負った小さな女の子が走り抜けていった。


 筆箱か何かが入っているのだろうか、その子が走るのにつられて、ランドセルからガッチャンガッチャンと派手な音がしている。


 突然現れた女の子にびっくりした壮亮くんは、はっとして公園の時計を見上げた。


 すでに夜の11時を過ぎている。


 こんな夜更けに一体なぜあんな小さな子が、と女の子が走っていった方角を見るが、すでにその姿はなかった。


(なんか変なもん見たな……帰ろ)


 壮亮くんは缶コーヒーを飲み干し、ゴミ箱に空き缶を放り込むと、小走りで実家に帰った。


 玄関にはまだ、黄色い電灯が煌々と点いている。


「ただいまぁ」


 声をかけながらドアを開けると、洗面所のドアが開いて、お姉さんが顔を出した。


「あー、壮ちゃんおかえり」


 その時、家の奥の暗がりから突然ガッチャンガッチャンという音が聞こえてきたかと思うと、黄色いランドセルを背負った女の子が唐突に出てきて、壮亮くんの横を走り抜け、家の外へと出ていった。


「ん? 今ガッチャンガッチャン言ってたの、何?」


 お姉さんには女の子の姿が見えなかったのか、辺りをキョロキョロ見回している。


 壮亮くんは玄関に立ち尽くしたまま、今しがた出ていった女の子が、すれ違う瞬間彼の顔を見上げてニッと笑ったことを思い出していた。


(またねっ)


 口の動きだけで、確かにそう言ったという。




 それから5年と1ヵ月ほどが過ぎたが、まだ再会は果たされていない。

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