第26話 根性なし

 チサちゃんはよくお化けを見るという。




 ついこの間も、高校からの帰り道で、近くに住んでいるお姉さんとばったり会った際、見た。


 年の離れたお姉さんは、今年の春に赤ちゃんが産まれたばかりだ。今、抱っこ紐の中では、チサちゃんの姪っ子が白桃のようなほっぺたを膨らませ、愛らしいお目々をぱちぱちさせている。


 その横に、見知らぬ女がくっついていた。


 枯れ木みたいに痩せていて、もう11月なのに汚れた黄色いワンピース一枚きりの寒々しい姿。目玉がピンポン玉を顔に置いたみたいに飛び出している。その女が、細い首を伸ばして姪をじろじろ見ていた。


 不躾な女に、お姉さんは何も言わない。無論、この世のものではないのだ。


(お化けも、赤ちゃん可愛い~、とか思うのかな?)


 わからないが、こういうときはとにかく無視することに決めている。チサちゃんは普段通り、お姉さんと話しながらぶらぶら歩いた。


 そうやって5分も過ぎただろうか。まだ女はついてくる。


(うっざ……てかこのままお姉ちゃんたちについて行っちゃったらどうしよう)


 チサちゃんはお化けは見えるが、追い払うことはできない。困っていると突然、赤ちゃんが急に唸りだした。


「あれっ、ウーウー言ってる。もしかして具合悪いの?」


 少し焦りながら尋ねると、お姉さんはその様子を見て、平然と


「あ、これね。ウンチしてるの」


 と言った。


 その途端、痩せた女がぐっと顔を離したかと思うと、消えてしまった。




「赤ちゃんのウンチがイヤとか、根性ないですよね」


 と、チサちゃんはため息混じりに言っていたが、彼女も別に、姪っ子のオムツを替えたことがあるとかいうわけではないそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る