第27話 オバケかどうか微妙
「これ、オバケの話かどうか微妙なんだけど」
と前置きして、池下さんは話し始めた。
もう30年近く前のこと。
池下さんが幼い頃、家の近くに金物屋さんがあった。洗剤などの消耗品も取り扱っていて、彼女はよくお母さんと一緒に買い物にいった。
その店では、いつもおばあさんが店番をしていた。おばあさんは池下さんをかわいがっていて、会う度に彼女の服装や態度を誉めてくれたり、お菓子をくれたりした。
池下さんも、優しいおばあさんに会うことを楽しみにしていた。
池下さんが4歳のとき、妹ができた。
里帰り出産をするお母さんに、彼女もついていくことになった。
幸い無事に妹が産まれ、しばらくするとお母さんの体調も整ったので、池下さんたちはようやくお母さんの実家から家に戻ることができた。
あるとき、赤ちゃんも連れて3人で、数ヶ月ぶりに金物屋を訪れた。すると、いつもは見かけないおじさんが店番をしている。
「実は先月、母が亡くなりまして」
そう告げられて、お母さんはとても驚いた様子だった。まだ幼い池下さんには、おばあさんが「亡くなった」というものがよくわからなかったが、とにかくおばあさんには会えないらしい、ということは理解できた。
「お母様には大変お世話になったので、お線香をあげさせていただけませんか?」
お母さんがそう言うと、おじさんは店の奥へと案内してくれた。
店の奥は居住スペースになっている。
「ここが仏間です」
おじさんが襖を開けた。
こじんまりした、きれいに掃除された和室の真ん中に、おばあさんが正座してニコニコ笑っている。
なーんだ。おばあさん、いるじゃん。
池下さんがほっとした直後、お母さんとおじさんがほとんど同時に、
「えっ!?」
と大声を上げた。
するとおばあさんの姿は、ぱっと消えてしまった。
「えっ!? えっ!? おふくろ!?」
「いましたよね!? いましたよね今!」
お母さんとおじさんが、慌てた様子で話し合っている。
池下さんが仏壇を見ると、ニコニコ顔のおばあさんの写真が飾ってあった。
「いやいや池下さん。それ、フツーにオバケの話じゃないですか」
「だって、全然怖くなかったし、真っ昼間だったし。オバケって怖いもんじゃないの?」
おばあさんがあまりに当然のように出てきて、おまけにそれがまったく怖くなかったので、池下さんはそれが「オバケ」だということに長年気づかなかった。というか、今も「オバケを見た」という気がしないのだそうだ。
未だに帰省すると、お母さんとそのときの話をしては、不思議だ不思議だと言い合うのが恒例になっているという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます