第28話 もう安心

 田宮はあるマンションの一室、小綺麗な2DKにひとりで住んでいる。


 条件の割に家賃が安いと思っていたら、案の定妙なことが起きる部屋だった。誰もいないはずの廊下から足音がしたり、触っていない棚の上のものが勝手に落ちたり、部屋の隅から赤ん坊の泣き声がしたりする。


 堪り兼ねた田宮は、保健所から猫を2匹引き取ってきた。幸い、ペット可のマンションだったのだ。


「それで今は、安心して住んでられるんだよね」


 彼は穏やかな顔でそう言った。


 そういえば猫を飼うと、魔除けになると聞いたことがある。


「へー、効果あるんだ」


 感心していると、田宮は首を横に振った。


「いや、誰もいないはずのところで音がしても、ものが移動してても、変な声が聞こえても、『あー、猫がやったのか』って言えば何となく説明がつくじゃない。実際あいつら、部屋の中を自由にうろついてるわけだし」


 だから安心、なんだとか。




 その猫たちは、たまに2匹揃って、何もないはずのところを凝視しているそうだが、田宮は「小さい虫でもいるんだろ」と思うようにしているそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る