第19話 見た同士

 大学の夏休み、律子さんが実家に帰ると、お母さんと兄嫁さんが、箪笥のある和室にたとう紙をたくさん並べている。


 聞けば、亡くなったお祖母さんの着物を整理しているのだという。お母さんには着物のことはさっぱりわからないが、兄嫁さんは少し詳しいので、お兄さんと一緒に帰省してきたのを幸い、手伝ってもらっているのだそうだ。


 めったに開け閉めしない箪笥が、ほとんど空っぽになっている。お祖母ちゃんの着物、こんなにあったのか、と改めて感心した。


「浴衣もあるわよ。律子に合うのがあったらあげる」


 そう言われたので、兄嫁さんに手伝ってもらって袖を通したりしていると、閉まっていた箪笥の観音開きが突然開いて、中から素っ裸の男の子が飛び出してきた。


 男の子は箪笥から一直線に和室を駆けると、反対側の壁にぶつかって消えてしまった。


 え? と思って横を見ると、口をぽっかり開けた兄嫁さんと目が合った。


「律子ちゃん、今の見た?」


「みっ、見た! 見た見た!」


「何!? 今の!」


 なぜか「怖い」という気はせず、3人でひとしきり「見た見た」と盛り上がった。




 それから何年も経ったが、未だにお盆や正月などで顔を合わせると、お母さんと兄嫁さんと3人、「見たよね~」「何だったのかしらね~」と話が弾む。

 目撃していないお父さんやお兄さんたちは、少し寂しそうにしているそうだ。

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