第31話 ドッペルゲンガーとドレス
某市で20年近くゲイバーを経営しているユリエさんは、「もう一人の自分を見たことがある」そうだ。
ある日、ユリエさんが自宅マンションで掃除機をかけていたら、突然パントリーから、ドレスアップした自分が出てきた。
もう一人のユリエさんは、食器棚からお気に入りの江戸切子のカップを取り出すと、水を一杯注いで飲み干し、カウンターにガツンと音を立てて置いた。そして驚きのあまり呆然としているユリエさんの目の前を通って、玄関の方に消えた。
数秒のち、我に返ったユリエさんが慌てて追いかけると、そこには誰の姿もなかった。玄関のドアにはチェーンがかかっていた。
「何が怖いってそいつ、あたしが20代の頃に買った紫色の派手なドレス着てたのよぉ。襟元がこーんなに開いてて、膝上までしか丈のないやつよ。顔はフルメイクなのに首はシワシワ、脚もダルダル。もうゾッとしちゃった」
白昼夢だったのかしら、と思いながらダイニングに戻ると、キッチンカウンターの上に、内側の濡れた江戸切子が置かれたままだった。
もう一人の自分を見ると死ぬ、と聞くが、幸い数年経った今も、ユリエさんは元気である。
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