第36話 写真

 会社員の北見さんは、その晩会社の飲み会があったため、夜の0時すぎに帰宅した。


 家族を起こさないよう、静かに靴を脱いでいると、突然頭上が、一瞬だけぱっと明るくなった。


 誰かが電気のスイッチを入れたのかと思ったが、真っ暗に戻った廊下に人の気配はなかった。




 1年ほど経って、北見さん一家は引っ越すことになった。


 荷物を整理していると、昔買ったカメラが出てきた。懐かしいと思って見ていると、中にフィルムが残っているのに気付いた。


 ずいぶん使っていないカメラだが、いつの写真だろう? 気になった彼はフィルムを現像してもらった。何年も前に行った旅行の写真や、数年間まで近所の家で飼われていた犬の写真などが出てきた。


 奥さんや息子さんと話しながら眺めていると、一枚だけ比較的新しい日付の写真があった。1年ほど前のものだ。


 玄関で中腰の姿勢をとっている北見さんを、俯瞰で撮ったものだった。


 北見さんはその時、忘れていたあの夜の出来事を思い出した。


 あの光はフラッシュだったのか、と思い当ったものの、その時玄関には誰もいなかった。隠れられるような場所もなく、高いところに登れるようなものも置いていない。


 誰が、どうやって、なぜこの写真を撮ったのか、結局一切わからなかった。

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