第49話 トラップ
シンガーソングライターを夢見て上京した酒田くんは、家賃が安く、かつ楽器がNGではなく、なおかつ都心のライブハウスに通いやすいという物件を探し求めた末、事故物件にたどり着いた。
なんでも、前の住人が首吊り自殺したという。
「で、たぶんそいつだと思うんですけど、夜中に布団の周りをぐるぐる回るんですよ」
彼が言うには、夜、彼が寝ている万年床の周りを、軽いランニングくらいのペースでドカドカ走る何者かがいるらしい。そんなときに目を開けても、人の姿はなく、ただ音と振動だけが続くのだそうだ。
布団の位置を変えたり、布団を壁にぴったりくっつけたりしてもぐるぐる回られるので、最初のうちは怖くて辛かった。
しかし引っ越すためのお金がないので、恐怖を我慢しているうちに、いつの間にか酒田くんはすっかり慣れて、そいつが怖くなくなった。
そうなると今度は、ただただうるさい。毎晩彼が寝入ったところを見計らってドカドカ走るので、すっかり寝付きが悪くなってしまった。
うんざりした酒田くんは、一計を案じた。部屋の中の家具を使って、高さ10センチほどのところに釣り用のテグスを張ったのだ。
(幽霊に物理攻撃って効くのかな……)
少し自信がなかったが、その夜、彼が布団で目を閉じていると、ドカドカと足音が少し続いた後、バターン! という音と共に床が振動した。
「やったぜ!」
パッと目を開けると、目の前にパンパンに膨れ上がった顔があった。
酒田くんは失神した。
「それで、トラップ作戦は頓挫しました。まーでも、最近はめちゃくちゃ慣れてきたんで、普通に寝てますね」
相変わらず売れていない酒田くんは、当分そのアパートから引っ越すつもりはないそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます