第2話 エメラル星での生活

 ジアースを乗せた宇宙船は、長い旅を終えた。エメラル星のミュウの国、ローレンシア王国の地上に着陸した。その時は真昼だった。

 宇宙船の扉がゆっくりと開き、中からミュウたちがゆっくりと出てきた。外にはミュウやジアースの帰りを待っていた大勢の国民が歓声を上げていた。

 早速、取材陣がミュウの近くに駆け寄り、

取材者:ミュウ様。地球というところはどうでした?

 ミュウは微笑を浮かべて答えた。

ミュウ:地球には、われわれエメラル星と同じように自然があり、海があり、生物がおり、

さらに我々と同じ考えを持つ人間までいました。正直驚きでいっぱいです。詳しいことは後日発表します。

 取材陣は今度はジアースに発言を求めたが、ミュウは取材人に対し言った。

ミュウ:すいません。ちょっと事故でジアースは記憶喪失になってしまいまして取材には応じられませんので・・・・・・。

 と、そこにジアースはミュウと目を合わせて、ミュウに大丈夫だというシグナルを送って、取材に応じた。

ジアース:いえ、大丈夫です。何とか答えられます。

取材者:ジアース様。先ほどミュウ様が言っておられましたが、記憶のほうは大丈夫でしょうか。

 ジアースはミュウの心配している顔をよそに答えた。

ジアース:記憶は、エメラル星での自分の生活を忘れてしまいましたが、それ以外の質問なら答えられます。

取材者:そうですか。それなら質問しましょう。ジアース様にとって地球はどんなものでしたか?

ジアース:そうですね。エメラル星とあまり変わらなかったです。

取材者:どの辺が?

ジアース:地球人はエメラル星とほとんど同じ姿・形をしていて、考え方も似ていました。はるか遠い星で我々のように文化が発達していた星が存在していたことは、私にとっても驚きでした。専門的なことは他の教授たちに聞いてください。

取材者:わかりました。ありがとうございます。

 ジアースはエメラル星の事を事前に聞いていたので、それを参考に答えたのだ。ミュウは、ジアースが無事にインタビューに答えられたのでホッとし、取材を終えたミュウとジアースは王宮の迎えの車に乗ってその場を去った。

 車の中でミュウとジアースは話していた。

ミュウ:今日の日程は、まず私の父、ローレンシア王国国王に挨拶をするだけよ。

ジアース:ここがローレンシア王国だということは、地球と同じように数多くの国が存在しているわけ?

ミュウ:そうよ。

ジアース:国王様ってどんな人?

ミュウ:父上は民を愛し、民のために政治をする人で、優しい人なの。前のジアースとは意気投合していたから、そんなに心配は要らないと思う。

ジアース:そ、そうか。でも、なんか緊張するなあ。それにけっこう不安もある。前のジアースと同じように動かなきゃいけないのだろ。大変だなあ。

ミュウ:前のジアースはあなたとあまり変わらないわよ。それに、前のジアースは今のジアースに一つだけ助言があったけど、それは自分の思うとおりにやってみることだって言ってたわよ。私もジアースは今も前も同一人物だから、根本的に性格は前と変わってないような感じがするから心配しなくてもいいわよ。

ジアース:そ、そうか。それで、前のジアースはこの国でどういうことをしてたの?

ミュウ:それは父上に挨拶をしてから話すわ。

 ジアースとミュウはいろいろ話をしているうちに王宮に着いた。


 ローレンシア王国の王宮は、大理石が多く使われており、空間が広く、多種多様な壁画があり、一言で言えば、荘厳華麗な印象を受ける建物で、建築界、芸術界の巨匠が精魂込めて建てられたものである。

 ミュウはジアースを王宮の大堂へ連れてゆき、国王ザバンの元へ行った。そこには国王ザバンの他に、その大臣カイザーもいた。

 ミュウとジアースは方膝をついて、手を胸に当て、ザバンに対し一礼をした。

ミュウ:父上。ただいま戻りました。

ジアース:ザバン様。ジアース戻りました。

 ザバンは優しい目をして声をかけた。

ザバン:長旅、ご苦労。よく無事に帰ってきた。

 ザバンは帰ってきた二人を見て安心した表情を見せた。

ザバン:ジアースよ。

ジアース:はい。

ザバン:おぬしは地球に言って記憶喪失になったと聞いたが大丈夫か。

ジアース:体はいたって健康ですが、地球へ行く前の自分の生活が記憶にありません。しかし何とか思い出そうと思います。

 大臣のカイザーは悲しそうな表情をしていた。

カイザー:ジアース殿。本当に忘れてしまったのですか。このカイザーのことも。

ジアース:大丈夫です。ちょっと忘れてしまっただけです。

ミュウ:父上。ジアースのことは私に任せてください。

ザバン:そうだな。ではミュウ、ジアース、下がってよいぞ。

ミュウ・ジアース:はい。

 ミュウとジアースは大堂を出て廊下を歩いた。

しばらく歩いていると、にやけた顔をした男が現れ、ジアースに声をかけた。

男:おい、ジアース。記憶喪失になったんだってな。

 ジアースは平然とした顔でその男を見ながら黙っていた。ミュウはその男に対し、不快な気分で言った。

ミュウ:お兄様。何か用ですか。ジアースは前と同じです。

ミュウの兄:ミュウ。よく帰ってこれたな。本当に前と同じか。ジアース。俺の名前を言ってみろ。

ジアース:・・・・・・。

 ジアースはミュウの兄をじっと見ながら黙っていた。ミュウの兄はジアースの状態を見てほくそ笑みを浮かべながら、

ガイ:俺の名前はガイだよ。

 ジアースは無表情のまま言った。

ジアース:・・・ガイ様ですか。

ガイ:本当に忘れたようだな。ジアースがこうなってしまってはミュウが女王になることはないな。

ジアース:どういうことです?

ガイ:本当に忘れたのか。はっはっはっ。後でミュウから聞きな。

 ガイは笑いながら去っていった。

 ジアースはミュウを見た。ミュウは怒った表情をしていた。ジアースはミュウとガイは仲が悪いのかと思いながら言った。

ジアース:ミュウ。どうしたんだ。

ミュウ:兄は私が時期国王になりそうだからってひがんでいるのよ。いつもいやな言い方ばっかりするのよね。私は別に今は王になるなんて考えてはいないつもりなんだけど、父上は兄より私を王にしたいつもりなのよ。ジアースが参謀ならこの国は安泰だと思っているのよ。

ジアース:え。前のジアースってそんなに凄いの?

ミュウ:そう。驚いた?

ジアース:参謀と言っても単なるミュウのお世話係だと思っていたから。

ミュウ:でも、ジアース。なんか嬉しそうだね。

ジアース:だってさあ。前のジアースを装うのだろ。なんか面白そうでさあ。

ミュウ:今のジアースは前のジアースと少し違うみたいだけど、今のジアースもいいわね。

ジアース:そりゃなんといっても俺はジアースだから。

ミュウ:今のセリフわけがわからない。

ジアース:それが狙いなんだよ。

 ミュウは気を取り直して、ジアースと話しながら歩いているうちに、ミュウの部屋に着いた。

 ミュウの部屋にはリビングと自分の寝室、ジアースの寝室、書斎、侍女の寝室があった。リビングには大きな机があり、そこに一人の座っている女性がいた。その女性の前のテーブルには何万通という手紙の山があった。その女性はジアースとミュウが来たのに気づいて、

女性:ジアース。ミュウ様。ご苦労様。

 ミュウは笑顔で、

ミュウ:ただいま。

 ジアースも続いて、

ジアース:ただいま。・・・・・・。えっと・・・。

 ジアースはその女性の名前が出てかなかった。その女性はそれに気づき、

サハリン:私の名前はサハリンよ。でも、本当に前のジアースじゃないんだ。

ミュウ:そうよ。

 ジアースは疑問な点を聞いた。

ジアース:えっと。サハリンさん。俺が地球人だということを知っているの?

サハリン:さん付けはしなくていいよ。でも、あなたが地球人だと知っているのは、私と宇宙船に乗っていた人だけよ。後は誰もこのことは知らないから。

ジアース:そうなんだ。

ミュウ:サハリン。私、ちょっと用事を思い出したから、ジアースとゆっくり話しててね。

 ミュウは部屋を出て行った。

 サハリンはジアースと二人きりになったのを確認して、

サハリン:ねえ、ジアース。私、なんでミュウ様の侍女やっているか知ってる?

ジアース:そりゃ、知るわけないよ。知ってたら怖いじゃん。

 サハリンは笑いながら、

サハリン:そりゃそうね。知ってたら、前のジアースと今のジアースは入れ替わってないってことになるもんね。ちょっと残念。でも、知りたい?

ジアース:一応参考に。

サハリン:なによー。その言い方。こういう時はどうしても聞きたいって言うのが礼儀でしょ。

ジアース:・・・・・・。どうしても聞きたいなあ・・・。

 ジアースは無理やりそう言うと、サハリンは笑いながら、

サハリン:じゃあ、お・し・え・て・あ・げ・る。

 サハリンは話し出した。

サハリン:実はね、私は前のジアースが好きだったんだ。だけど、彼はミュウ様一筋でね、ミュウ様の参謀になるのにはすごい苦労して、ついにそうなって、それで、私はジアースが好きだったから、ジアースを追っかけてミュウ様の侍女になったの。ジアースは自分は地球人だって言ってて、私はそれを信じていなかったんだけど、本当に宇宙船に乗っていちゃうとは思わなかった。その時私は失恋しちゃったかなっと思ったけど、新しいジアースとしてあなたが来たから、なんか新しい恋が始まりそう。

 ジアースはそれを聞いて、ドキッとして、

ジアース:あ、でも、俺はミュウに恋しちゃっているし・・・。そりゃ君は美人だし、性格もよさそうだから何と言っていいのかなあ。

サハリン:私、これでも、ミス・ローレンシアコンテストで優勝しているのよ。

ジアース:そう言われてもなあ。

 ジアースはちょっと困った表情をしたが、

サハリン:なーんて、いいのよ。ジアース。ちょっと困った顔を見たかっただけ。

ジアース:そりゃないだろ。

サハリン:冗談よ。冗談。気を使わなくてもいいのよ。前のジアースが言っていたんだけど、私は、これから先の人生ではすごい人と結婚するんだって。だから、私はそのすごい人と出会うのを夢見てるんだ。

 ジアースはふと我に帰って、

ジアース:そうか。なーんだ。ははは。でもなんか俺、失恋したかなあ。

サハリン:なに言ってるの。ジアースはミュウ様に恋してるんでしょ。

ジアース:冗談だよ。

サハリン:本当に。

ジアース:うん。

サハリン:なーんだ。冗談か。残念。

ジアース:おいおい。


 しばらくジアースはサハリンと会話していると、そこにミュウが帰ってきて、

サハリン:ミュウ様。早かったね。

ミュウ:そう?・・・。ところでサハリン。手紙の中身、全部チェックし終わった?

サハリン:まだだよ。あとちょっと。内容の中身をまとめたのはそこに置いといたよ。

ミュウ:ありがとう。

ジアース:なあ。ミュウ。手紙にはどんなことが書いてあるの?

ミュウ:そうね。例えば、自分の悩みを書いてくる人や、地域での問題の処理の相談、イベントへの招待状、政治の話などよ。私は、それに対して、メッセージを送ったり、講演をしたり、イベントに参加したりしているのよ。

ジアース:へえーっ。ミュウってすごいね。これを自分で決めて行動してるんだ。

ミュウ:うん。だけど、それは前のジアースと一緒だからできたの。

ジアース:俺も手伝ってもいいのか?

ミュウ:もちろん。ていうか、やってもらわなければ困るけどね。で、さっそくだけど、明日、私、地球について講演を行うんだけど、私の知らないことは私に教えてね。

ジアース:いいよ。

ミュウは何かを思い出して、

ミュウ:あ、そうだ。忘れないうちに言っとくけど、前のジアースが書いてた日記があるんだけど、それを読んでおいて。これからのジアースが活動するのに、前のジアースがしたことを分かっていたほうがいいと思うから。一応私は読んでないよ。というより、読めなかった。地球は言葉の種類は一つじゃないからだと思う。

ジアース:わかった。了解。

 ジアースは前のジアースの日記を読み、ミュウは明日の講演の原稿のまとめ、サハリンはミュウ宛の手紙の処理を、それぞれ行っていた。

 夜になった。ミュウとサハリンとジアースは夕食を済まして、自分のやることにまだ専念していた。

 しばらく経って、ミュウはジアースの部屋に言って声をかけた。

ミュウ:ねえ。ジアース。明日の講演会であなたに司会をやってもらいたいんだけどいいかな。

ジアース:いいよ。

 ジアースは驚きもせず、簡単に承知した。ミュウは言葉を続けて、

ミュウ:あと、式次第はこの紙に書いてあるから。

 ジアースは渡された式次第を読むと、そこにはなんと、ジアースが講演するところがあった。

 ジアースは、さすがにこれには驚いて、

ジアース:なあ、ミュウ。俺も講演するのか。

ミュウ:そうよ。驚いたでしょ。

ジアース:でも、俺はいったい何を言えばいいんだ?

ミュウ:そんなの心配しなくてもいいよ。ジアースが今言いたいことを言えばいいのよ。

ジアース:そうか。言いたいことか。そうだな。価値論を言ってみようかな。5分もかからないで終わってしまうけれど。

ミュウ:価値論ってなに?

ジアース:物事は何に価値があるのかっということをまとめたものだよ。

ミュウ:価値論かあ。私も聞きたいなあ。

ジアース:聞きたい?

ミュウ:うん。

ジアース:でも、これは地球人のマキグチという人の価値論に、自分自身の考えを加えただけだけどね。それでいい?

ミュウ:それでいいよ。

 ジアースとミュウは明日の講演会の自分の講演の原稿をまとめて、今日の一日が終わった。


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