第9話 ザバンとジアース

 次の日、ジアースは約束通りミュウと共にザバン国王の部屋へ行った。中ではカイザーが待っていた。

カイザー:お待ちしておりました。ジアース殿。ミュウ様。

ミュウ:あれ?父上は?

カイザー:今、雑務をなさっています。そこのソファーに座って待っててください。今、お茶を用意してまいります。

 カイザーは台所に行った。

ジアース:なあ、ミュウ。俺の見るところ、カイザー殿は家族のもとへは帰らないのか?なんか、毎日ザバン様のもとにいるから女房役をやっているように見えるが。

ミュウ:そうなのよ。カイザーはちゃんと家族はいるよ。奥さんだって。だけど、今の父上には母上がいないから、カイザーがしばらくは父上の護衛も兼ねて世話役をしているのよ。

ジアース:母上って、女王様のことだろ?最近亡くなられたの?

ミュウ:そう。前のジアースがいる時にね。

ジアース:そうか。

ミュウ:今の父上は母上が亡くなられてから政務一本で生きているのよ。

カイザー:ジアース殿。ミュウ様。お茶が入りましたよ。

 カイザーは黄色いお茶を出してきた。

ジアース:ありがとうございます。

カイザー:ジアース殿。女王様のことは気になりますか?

ジアース:はい。

カイザー:そうですよね。まだお会いになってないですからね。

ジアース:はい。

カイザー:やはりそうでしたか。

 ジアースは自分の失言に気がついた。前のジアースは女王様と面識があるのに、会っていないのはおかしいからである。

ミュウ:カイザー。ちょっと待って。これには事情があって・・・。

カイザー:ミュウ様。何をあわてているのです。私はまだ何も言ってませんが。

ミュウ:あ。

 ジアースとミュウは沈黙した。

カイザー:ジアース殿。ジアース殿はジアース殿であって、ジアース殿ではないように思われるが、実はジアース殿である、というふうに思えますが。

ミュウ:カイザー。言っていることがよくわかんない。

カイザー:つまり、地球へ行かれる前と戻ってきた後のジアース殿は同一人物だが別人だ。これは前から思っていることですが、それを説明する理屈がないのでそれを知りたいのですが。

 ジアースとミュウは目を合わせた。

ジアース:ミュウ。本当のことを言ってもいいんじゃないか。

ミュウ:そうね。カイザー。よく聞いて。地球へ行く前のジアースは地球から来た今のジアースの未来の人物なのよ。

カイザー:つまり、我々は今の未来のジアース殿が過去へタイムスリップして、地球へ行く前までは、その未来のジアース殿を相手にしていたわけですね。

ミュウ:さっすが、カイザー。

カイザー:ということは、地球へ行く前のジアースはこのローレンシア王国の未来を知っていたわけですか。

ミュウ:そういうことになるわね。

カイザー:しまった。未来のことを聞いとけば良かった。

ミュウ:カイザー。未来は知らないからいいんじゃない。

カイザー:ミュウ様もミュウ様ですよ。私はともかくザバン様まで内緒にしなくてもいいじゃないですか。

ミュウ:事情があるのよ。でも、もう遅いけど。

カイザー:どうりで何か変だと思いましたよ。だが、今のジアース殿も頭脳明晰であられる。このままミュウ様の参謀をやって、副国務大臣の役職を任せても心配はないだろう。

ミュウ:カイザー。このことは内緒よ。国が混乱するわ。

カイザー:そうですな。まあ、私は同一人物だから気にしませんが、私は今のジアース殿の方が興味ありますよ。

ジアース:そうですか。それにしてもこのお茶はいいですね。ビタミン茶ですか。

カイザー:その通りです。ビタミン茶はわが国では人気商品の一つです。

ミュウ:それより父上は遅いわね。

カイザー:ザバン様が来られるまで雑談でもしましょうか。

 三十分程三人で雑談し終わった後、ザバンは来た。


ザバン:ジアース。ミュウ。待たせたな。

ジアース:おはようございます。

ミュウ:父上。おはようございます。

ザバン:ジアース。ミュウ。お前たちにこの国でやってほしいことがあるんだ。

ミュウ:なんでしょう。

ザバン:昨日の評定が終わってずっと考えていたことがある。ジアースが追加して言った、景気回復案のことだが、国が事業計画を打ち出すということだが、ジアースには何か案があるのか。

ジアース:そうですね。学校に文化祭があるように、国にも文化祭があっていいと思っているわけです。

ザバン:国の文化祭か。ジアース。具体案はあるのか。

ジアース:一応、頭の中では出来上がっています。

ザバン:なるほど。ミュウはどうだ。

ミュウ:面白そうですね。

ザバン:そうか。よし、決めた。ジアース。ミュウ。この国の文化祭、お前たちに任す。

カイザー:ザバン様。ちょっとお待ちを。

ザバン:何だ。ジアースとミュウなら各大臣は納得すると思うが。

カイザー:ガイ様が気になります。

ザバン:カイザー。この国はガイ一人のためにできているのではない。この国は国民一人一人のものだ。しかも、この国を挙げての文化祭で国が活気づけば、不況など乗り越えられる。今、この国に必要なのは活気だ。活気がなければならん。というわけだ。ジアース。ミュウ頼むぞ。

ミュウ:はい。

ジアース:かしこまりました。

ザバン:決まったな。このことは各大臣には私が直接伝える。総指揮者はミュウ。副総指揮者はジアース。ミュウとジアースには全ての権限を与える。全力を尽くして欲しい。

カイザー:ザバン様。

ザバン:何だ。ガイのことか。

カイザー:いえ。違います。私はザバン様が総指揮をされたほうがよろしいと思うのですが。

ザバン:いくら私でも平時の政務に加えてこの企画に全力で指揮をとることはできまいし、こういう時は誰が平時の政務を行うのだ。私がやるしかないだろう。それに、この祭りの総指揮者は自由の身でありながら国民に慕われ、なおかつ権限と能力をもつものでなければならない。それができる者はジアースとミュウしかおらんだろう。

カイザー:そこまで言われたら、このカイザーは何も言えません。

ザバン:よし決まりだ。ミュウ、ジアース、頼んだぞ。

ミュウ:はい父上。責任をもって遂行します。

ジアース:私も全力を尽くします。

ザバン:よし。

 ザバンは納得した後、ジアースをジーと見ていた。

カイザー:ザバン様。ジアース殿に何か気にかかることでも。

ザバン:いや、少しの間、私はジアースと二人で話したいのだが。ミュウよ。たまにはいいだろう。

 ミュウはザバンが今のジアースの正体を確かめたいのだと思い、一瞬ためらったが、正体がわかったとしてもカイザーがわかってもらえたから心配はいらないのかもと思いながら、一言言った。

ミュウ:父上。私はここでカイザーと待っています。父上はジアースとゆっくり話してください。と、いっても三十分ぐらいしかありませんが。

ザバン:ミュウよ。なぜ三十分なのだ?

 ミュウはジアースとザバンの会話の時間を短くしたかった。理由はもちろん時間が長い分だけジアースがボロをこぼす確率が高くなると思ったからであったのだが、

ミュウ:父上から命ぜられたこの国の文化祭の計画に早く取り掛かりたいので。

ザバン:わかった。わかった。少しでもジアースと一緒にいたいのだろう。しょうがない娘だ。・・・。では、ちょっと、ジアース、こっちに来てくれ。

 ミュウはザバンが勘違いしていると思ったため安心した。


 ジアースはザバンに連れられ、屋上のテラスで二人で正面を向かい合って机を挟んで椅子に座った。机と椅子は白で、座り心地は抜群である。

ザバン:ジアース。どうだこの屋上のテラスは。妻がいた頃はここでよく二人でいた場所だ。

ジアース:恐れ入ります。

ザバン:ジアースよ。今回のこの国の文化祭は自信はあるか。

ジアース:三ヶ月というのは少々期間が短いと思いますが、権限が与えられていますので、活気をつけ景気回復に弾みをつけることならできないことでもありません。

ザバン:何で三ヶ月という短い期間かわかるか?

ジアース:私は新たに物を造るというよりも、今あるものを全て有効に使うのが今回の文化祭の趣旨で、有効に使うぐらいなら三ヶ月で十分だということと思いますが。

ザバン:そうだ。新たに物を造るとなると時間と財が大量に消費する。だが、今回は不況の中での文化祭である。だから、できるだけ財力と時間は消費したくない。活気は少ない財力でも造れるものがいい。だから、そういう意味でもジアースが言ったことは的を得ている。さすがだ。

ジアース:恐縮です。

ザバン:聞きたいことはまだあるのだが、ジアースの考えている文化祭を聞きたい。

 ここでジアースは自分の頭に描いている文化祭というものをザバンに話した。

ザバン:なるほど、それは広大なものだなあ。本当にこの国にあるものを全て使おうとしている。面白い。私も裏からできる限り最大限に援助するぞ。

ジアース:ありがとうございます。

ザバン:ところで、ジアースよ。私にはジアースが地球へ行く前と戻ってきた後と何かが違うような気がするが、私はそのことについては追求しないし、事実を知ったとしても、ジアースに対する心は特に変わらぬから、そのことは安心するがよい。

ジアース:それはどういうことでしょう。

ザバン:あ、いや、悪い、悪い。そこで、ジアースが「はい」なんて答えたら「(ジアースに何か事実があるから)私への心遣いは感謝します」と言っている様なものだな。すまん。すまん。

ジアース:ザバン様。私は一部記憶をなくしただけです。記憶が全てよみがえるかどうかは疑問ですが、国に対する思い、人々に対する思いは星の数ほどあります。心配には及びません。任せてください。

ザバン:期待しているぞ。そろそろミュウが待ちきれなくなる時間だな。戻るか。

 ジアースとザバンは戻ってきた。ミュウとカイザーはザバンが笑顔でいるのでひとまず安心した。

ミュウ:では父上。私とジアースは出陣します。途中経過はその都度報告しますので、連携しあって前進していきましょう。

ザバン:わかった。ミュウ。ジアース。下がってよいぞ。

ミュウ:失礼しました。

ジアース:失礼しました。

 ミュウとジアースは部屋を出て行った。

カイザー:ザバン様。ジアースはどうですか。

ザバン:ジアースは赤心で人と接している。この国と人々を大切にする心は(地球への)出発前と(地球からの)帰着後も同じだ。このことは以後は問わないことにしよう。

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