第10話 ローレンシア歓喜祭編その1 ガイに対する牽制
ザバンの部屋から出た二人は、しゃべりながら廊下を歩いていた。
ミュウ:今日の父上はいつもよりさらに笑顔だったわ。ジアースは正体は話したの?
ジアース:話してないよ。
ミュウ:そう。・・・。それならなんで笑顔なんだろう。
ジアース:景気回復の展望が見えたからじゃないの。
ミュウ:というわけは、父上との話は景気回復の話だったんだ。
ジアース:まあ、それだけじゃないんだけど、それが中心だったかな。
二人は話しているうちに自分たちの部屋について、中に入った。
サハリン:二人ともお帰り。
ミュウ:ただいま。
ジアースとミュウの表情は、引き締まった笑顔だった。
昼食まで時間のあるジアースとミュウは、ローレンシアの文化祭に主要な人物に連絡をとり、スケジュールを決めていた。
昼食の時間、ジアースとミュウとサハリンは、ミュウの客間で食事をした。食事はもちろん王宮のシェフが作り、メイドがそれを運んでくるのである。
ジアース:ミュウ。この国の文化祭についてだけど、まず、文化祭のネーミングが必要だと思う。どういうネーミングがいい?
ミュウ:そうね。ジアースは何も浮かんでないの?
ジアース:そういうわけではないけど。
ミュウ:じゃあ、紙に書いて見せ合おうよ。
ジアース:そうだね。
サハリン:ちょっと二人とも待ってよ。私を無視しないでよ。
ジアース:ご、ごめん。サハリンも浮かんだのかい。
サハリン:うん。
ミュウ:じゃあ、サハリンもこの紙に書いて。
三人は紙を取って、この文化祭の名前を書いた。
ミュウ:じゃあ、いい?同時に見せ合うわよ。せーの。
三人は自分の書いた紙をお互い見せ合った。
そこで偶然が起こった。三人ともネーミングが同じだったのだ。文化祭の名前は“ローレンシア歓喜祭”だった。
ミュウ:へえーっ。偶然だね。
ジアース:じゃあ、決まりだな。じゃあ、次は・・・。
ミュウ:ジアース。歓喜祭については食事の後でいいと思うわよ。
ジアース:あっ。ごめん。今、頭が働きすぎてさあ。
ジアースは気持ちが急いでいた。
サハリン:無理もないよね。ジアースはこの星に来てから、まだ、三ヶ月だもんね。
三人は食事を終えた。ジアースとミュウはカイザーに報告することをまとめ、サハリンはアイドルであるため、今日もテレビ出演のために、その準備をしていた。
サハリンは出発前に、一言ミュウに言った。
サハリン:ミュウ様。明日の約束忘れないでね。
ミュウ:わかってるよ。
サハリンはニコッとして部屋を出て行った。
二人になった時、ジアースは疑問だったことをミュウに言った。
ジアース:ミュウ。これから歓喜祭で忙しいのに、明日の約束は後にまわした方がいいんじゃないのかい。
ミュウ:一度約束したし、ジアースはサハリンのことはわかっていたほうがいいと思ったからよ。人と行動することは他人をわかるってことだからね。
ミュウは、ジアースとサハリンが一日だけとはいえ共に行動することに特に不安に思っている様子はなかった。
それはさておき、ミュウとジアースは決めるべきことは決め、カイザーへ報告しに部屋まで行った。
カイザー:ジアース殿。ミュウ様。お待ちしておりました。
ジアース:早速ながら、まず決めたことを告げます。今回の企画の名前は、“ローレンシア歓喜祭”。開催場所は今のところは各州の七大都市。開催機関は一週間。最終日は首都シャムルルでフィナーレ。
カイザー:ほう。歓喜祭という名前がいい。で、私にできることは?
ジアース:まずは、各省庁から一人代表を集め、まず、歓喜祭企画組織団を結成しようと考えています。その代表をあらかじめ各省庁で選出しておくようカイザー殿にその働きかけをしていただき、私とミュウがその代表と直接会って話をしようと思います。
カイザー:わかりました。では、各省庁の大臣に連絡しておくので、明朝、ミュウ様の部屋に、使いの者に報告させます。
ミュウ:じゃあ。カイザー。お願いね。
カイザー:はい。
ジアースとミュウは用件が済んだので、カイザーの部屋から出て、ミュウの部屋に戻った。
ジアース:ミュウ。一つだけ気になることがある。
ミュウ:なあに?
ジアース:ガイ様のことだ。一応、ガイ様は王子であるから、まったくの無視というわけにはいかんだろう。時間的に見ても、話をつけるのは歓喜祭組織団結成の前がいい。となると今日しかない。今からガイ様のところへ行こうか。
ミュウ:うーん。お兄様はただ遊んでいるだけだから、別にいいんだけど、確かにそう言われるとそうね。
ジアース:ちょっ。ちょっと待って。お兄様のところへ行くのはいいけど、会って言うことは決めてないよ。
ジアース:俺は決まっている。まずは俺とガイ様の会話を聞いててよ。
ミュウ:でも・・・。
ジアース:心配はいらない。ここは俺を信用してくれないか。
ミュウ:わかった。
ジアースとミュウはガイの部屋のところに行った。ガイはそこにはいなかったが、大臣のノルワーがいた。ノルワーはドアを開けて出てきた。
ノルワー:二人そろって何か用か。
ジアース:一応、ガイ様に報告することがあったのだが・・・。
ノルワー:そうか。
ジアース:だから、ちょっとガイ様がここに来るまで待たせてもらえるか。
ノルワー:いいだろう。中へ入りたまえ。
ジアースとミュウは中に入った。
ガイの部屋は、色は茶と黒と白で構成されており、彫刻が数多くあった。本で埋もれているミュウの部屋とは対照的であった。
ミュウ:へぇー。意外だね。お兄様に彫刻を集める趣味があったとは。
ノルワー:ジアースもミュウ様も今日は雑談をしに来たわけではあるまい。用件はローレンシア文化祭のことだろう。
ミュウ:そうよ。話は父上から聞いているでしょ。
ノルワー:そのことについては私もガイ様も不快だ。われらをさしおいてローレンシア文化祭の実行者がミュウ様とジアースになってたからな。
ノルワーは露骨に自分の不満を態度に表していた。
ミュウ:でも、それは父上が決めたからしょうがないでしょ。
ノルワー:そう言われても納得するわけないだろ。
ジアース:ちょっと待った。ノルワー。俺とミュウがわざわざここまで来たのは俺らはガイ様とノルワーを無視してこの文化祭をやろうとは思っていないからだ。もし無視するつもりならここには来ない。
ノルワーはジアースの言葉を聞き、表情が少し和らいだ。
ノルワー:・・・・・・そうか。・・・・・・ジアース。・・・・・・そうだよな。・・・・・・。わかった。だが、無視しないとはいえども、ジアースは今回の大文化祭でわれわれをどういう位置におこうとしているのか。
ジアース:トリを飾ってもらおうと考えている。
ノルワー:つまり、最後をガイ様で飾ろうということか。
ジアース:いや、最後はもちろん国王であるザバン様だ。だが、最後のフィナーレをガイ様にも派手に出演してもらおうと考えているため、フィナーレの主役はガイ様ということになる。
ノルワー:なるほど。
ノルワーに笑みがこぼれた。
ジアース:このことをガイ様に伝えようと思ったがいかがか。
ノルワー:わかった。このことはガイ様には俺から伝えておく。
ジアース:本当はじかに会いたいが。
ノルワー:悪いな。今日はこっちにも事情があるのだ。今夜あたり、こっちからミュウ様の部屋までメールを入れておくから心配は無用だ。
ジアース:わかった。では、今日はこれで帰るが、くれぐれもよろしく。
ジアースとミュウはガイの部屋を出て行った。
ミュウ:なるほど。私、今のでジアースの考えがわかった。歓喜祭の最後にお兄様に出演して主役を譲ることによって、最後までお兄様に邪魔されないようにしようということね。
ジアース:ミュウ。その通りだよ。だけど、これは他人には絶対言うなよ。
ミュウ:もちろん。だけど、ジアース。よく気づいたね。お兄様が演出好きだということ。
ジアース:まあね。
ジアースとミュウは今日の昼は部屋で雑務をしていた。
一方、ガイとノルワーの方ではジアースの言ったことについて話し合っていた。
ガイ:ノルワー。どう思うか。ジアースが言ったことについて。
ノルワー:いい話とは思いますが。
ガイ:うむーっ。ジアースとミュウがこっちに訪問してくるとは・・・。ちょっと調子が狂うな。
ノルワー:私もそう思います。だが、油断は禁物です。
ガイ:そうだな。しかし、フィナーレの主役は悪くない。しかし、あのジアースとミュウはよく俺にこの役を薦めたなあ。意外と言えば意外だ。
ノルワー:ガイ様。これは私の考えですが、今回のローレンシアの文化祭は邪魔するよりも、利用されてはいかがですか。
ガイ:なるほど。それは面白い。だが、無駄な労力は嫌だぞ。
ノルワー:心得ております。
ガイとノルワーはジアースとミュウに対し妨害する気配はなくなっていた。これはジアースが望んでいたことでもあった。
舞台はジアースとミュウの所に戻る。
ミュウ:ねえ。ジアース。お兄様からメールが来たよ。
ジアース:ほう。どんな感じに。
ミュウ:フィナーレを楽しみにしてるって。
ジアース:そうか。なら、歓喜祭まで邪魔されることはないな。だが、一応ガイ様には報告すべきことは報告しなければならないな。
ミュウ:えーっ。そこまでしなくてもいいじゃん。
ジアース:今回の歓喜祭は、景気回復のためには絶対成功させなければならない。できるだけ邪魔は避けたい。まあ、それはおいといて、明日は各省庁の代表者と話さなければならないが、明日はサハリンと行動するっていうのはちょっとやりづらいんだが。
ミュウ:心配いらないよ。実は明日は私はやらなければいけないことがあるからね。
ジアース:今日の二人は自分の部屋でゆっくりすることにした。それぞれ考えていることを煮詰めていた。この日はサハリンは帰りが遅かったので、そのころにはジアースとミュウはそれぞれの部屋で寝ていたため、サハリンもそのまま自分のベットに寝た。
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