第8話 ローレンシア王国の課題
エメラル星へジアースが来てから約3ヶ月が経った。ある日の朝、国王ザバンが評定を行うというので、ジアースとミュウは大会議室に出向いた。ジアースにとっては初めての評定である。
ジアース・ミュウ:おはようございます。
ジアースとミュウはザバンに挨拶をし、自分の席に座った。
ここに集っている者は、他にザバンの大臣のカイザー、王子のガイとその大臣のノルワー、各省庁の大臣と副大臣である。
ここで、ローレンシア王国の政治機構について説明しよう。
まず、政治機構の長は国王のザバンである。国王にはすべての決定権が与えられている。その下に、国務大臣、副国務大臣、各省庁の大臣、副大臣と続いている。
国務大臣についているのはカイザーで、副国務大臣はジアースとノルワーである。
ミュウとガイは決まった役職にはついていない。理由は、この二人には自由に活動させるためである。つまり、自分でこの国にとって大事だと思うことは法律に反しない限り自由に行動ができるのである。そのため、この二人には国務大臣と同等の権利が与えられている。
ローレンシア王国の省庁は十二に分かれている。
種類は、防衛庁、治安省、外務省、経済財務省、教育省、厚生省、交通省、環境省、労働省、技術開発省、法務省、通信省である。
さて、国王ザバンは立ち上がり、第一声を放った。
ザバン:皆の者。よく集まった。これから評定を行う。いつも通りに各省庁の大臣にこの国の現状を報告してもらい、みなで議論・発案する。ではカイザー、始めてくれ。
カイザーは評定では進行役もするのである。
カイザー:では、各省庁での活動報告を始める。まずは防衛庁大臣のトール。
トール(男):はっ。では報告します。わが国の現在の軍力は前期の5パーセント削減をし、さらに5パーセント削減をしますが、私はこの軍縮案には不安が残ります。わが国の近隣諸国であるラガティスは、近年軍事力を増強させているという情報が入っております。数は我が軍力の120%です。これはかなり危機的な数字ではないでしょうか。
大臣のカイザーはみなに声をかけた。
カイザー:皆の者、このことについて意見はないか。
外務大臣のテルル(女)が発言した。
テルル(女):私はラガティスと我が国は、現在、友好関係にあり、両国民の交流も深いので、現在の軍事力の差は気にする範疇ではないと思います。
ガイが反論した。
ガイ:いや、ラガティスの国王の気がいつ変わるかわからない。わが国の軍事力もアップさせるべきだ。
ジアースが発言した。
ジアース:仮にラガティスの国王が、今、わが国を攻めようともラガティスの国民が納得しないと思います。わが国とラガティスとの民衆的交流はそこまで深く、実際、私とミュウは、ラガティスとの国民とも個人的に交流を行っています。ですから、わが国が今の体制を維持する限り、ラガティスとの戦争はありえません。100歩譲って仮にあったとしても、現在の軍事力の差なら問題にはならないと思います。
ガイはジアースをにらみつけた。ジアースの意見が気にくわないのである。ジアースはさらに続けた。
ジアース:軍事力削減は、その分税金の支出を減らし、さらに人々の安全を保証でき、我が国家の支持がさらに強いものとなると思います。また、わが国は平和主義を目指していると世界にアピールすることもできます。
防衛大臣のトールは具体的な数字を求めた。
トール:では今期の軍事費は前期の5%削減の95%でいいでしょうか。
カイザーは皆に確認をした。
カイザー:トールの打ち出した95%案でよろしいか。
ジアースはここで1つ加えた。
ジアース:私は意見を追加したいのですが、核兵器の製造は中止すべきだと思います。今、世界での核兵器の存在価値は他国への威嚇の態度を取るためであり、我が国の核兵器の量は他国に比べ、非常に少ないながらも、威嚇できる力はすでにあるので、もう必要はないと思います。
このときのエメラル星は核兵器は、相手が攻撃しても自分には相手にダメージを与えるだけの力があるぞという、意思表示に使われているのである。
ジアースは根っからの平和主義者なのだ。だが、反論をするものがいた。ガイの大臣で、副国務大臣であるノルワーである。
ノルワー:確かにジアース殿の言うことは誤ってはいないが、用心に用心を重ねるにこしたことはないと思うが。
ジアース:私が言いたいのは、十の核兵器を持てば威嚇できるならば、それ以上の数を作ったとしても錆びつかせるだけであるので、必要はないということです。
ジアースはさらに言った。
ジアース:正直私はこの世界から核兵器を撤廃すべきだと思っております。核兵器を使った場合、被爆者は生きていたとしても放射能を浴びた者は、肉が溶け、顔が変形し、体に激痛が走る。それが死ぬまで続くんです。さらに、被害地域の食料と水には、核廃棄物が残り、一切それらを食べたり飲んだりできない世界になります。はっきり言えば地獄です。だから核兵器などはいらないのです。
国王を含め、この場にいるものの全員が静まった。ジアースのこの発言に対し、それぞれ思う所があるのだ。
だが、この静まった空気をやぶった者がいた。ガイである。
ガイ:ジアースはなかなか理想派で感心するが、では現実にどうするのだ。
ジアースはあっさり答えた。
ジアース:核兵器全廃運動をする。世界中のありとあらゆる所で核に対する展示会を行い、民衆に核に対し嫌悪感を持たす。国民に、世界に、核兵器は悪だと認識させる。また、マスコミを使いテレビなど映像で核の実態を理解し、脅威を抱かせることが最重要だと思います。こういう考えは如何でしょうか。
ガイは何も言えなかった。
ザバンはジアースの発言を賛嘆し、
ザバン:おお。さすがジアース。私も目が覚める思いだ。ジアースよ。
ジアース:はい。
ザバン:核兵器全廃運動の専門団体を作り、それを実行してくれ。
ジアース:はい。わかりました。
ザバン:よし、では、カイザー、次に進めてくれ。
カイザー:では、治安大臣サム(男)。活動報告を進めてくれ。
サム(男):はい。今現在、わが国の治安状況は良好であります。
ジアースはサムに強く言った。
ジアース:サム殿。私はこの国は治安はまだ不十分と感じている。なぜなら、先日、ミュウの付き人のサハリンがさらわれた。サハリンは国を代表する人物だ。そのサハリンをさらった者の黒幕はまだ捕まっていない。いったい治安省の警察は何をしているのだ。サハリンをさらえるほどの集団だ。国家を転覆するだけの力があるのかもしれない。仮にそうだとしたら、このままのさばらせておくわけにはいかない。私は全力でその黒幕の人物を捕まえてほしい。サム殿。依存はないか。
ガイとノルワーは冷や汗をかいた。まさか、黒幕は自分らだからだ。それに加えて、実は、サムもこの件に関して内通しているので背中に大量な汗が出ていた。サムは緊張した顔で言った。
サム:はっ。必ず探し出します。
ザバンは念を押した。
ザバン:サム。これは重大な問題だ。ジアースとミュウがサハリンを人質にして呼び出されたのだ。これは、国家に対するテロかもしれん。全力で黒幕を探せ。
サムは背筋を伸ばして言った。
サム:はっ。
ザバン:よし。カイザー。次に進め
。
次は外務大臣テルル(女)の活動報告である。
テルル:われわれ外務省の活動報告をいたします。他国との友好関係は良好で、各省庁と協力をして、この国の向上に精一杯努めているしだいでございます。
外務省に対する意見はなかったので、カイザーは次に進めた。
次は経済財務大臣デバロ(男)である。デバロはジアースとミュウとともに宇宙を旅したものである。
デバロ:では、報告します。わが国は現在の不況への対抗策を練り上げております。わが国のバブルによるインフレ、バブルの崩壊、そして、その後のデフレには、すべて銀行が関与しています。よって、経済財務省では、銀行に対する指導をし、改善がなく、倒産するような銀行については、最終手段としては、国営化をせざるを得ないと考えております。
ザバンは眉をひそませながら言った。
ザバン:これに対して意見はないか。
労働大臣のワルク(男)が言った。
ワルク(男):公的資金導入をさらに増やすのではまずいんですかね。
デバロ:公的資金導入は今までやってこの有様だ。これ以上は国民に申し訳ない。この不況は今までのやり方では到底この国は立ち直れない。もし、今の銀行が自力で立ち直れないのならば、銀行に資金投入するよりは、その資金で銀行を買ってしまうほうがいいと思います。この案以外で国の国債をなくし、不況から好況へ転換させる案は、今の私には増税しか思いつきません。
治安大臣のサムは意見を言った。
サム:私はその案は本当に最終手段として考え、まずは、内需拡大し、消費経済の振興を促進させるのがやはり先決なのではないかと思います。
ジアースは言った。
ジアース:私は両方の意見に賛成です。一方で銀行の構造を再構築する構造改革と、内需拡大については、価値のあるものを増やしていく、という二点を同時進行で行うべきであると思います。
ジアースの意見に反対する者はいなかったので、この考えを軸にすることになった。
次は教育大臣ラバンバ(男)の番である。ラバンバもジアースらとともに宇宙を旅したものである。
ラバンバ:では報告します。わが国の学力が低下が問題になっています。それに対する政策として、わが国の教育委員会では、学校に宿題の量を増やし、小テストを増やすという支持をするかどうか検討中です。さらに、教職員に生徒に対しわかりやすく教えることを指導するしだいです。
ジアースはラバンバの考えに追加をした。
ジアース:私は、その他に、学力の向上のためには、生徒が積極的に勉学に取り組むようにすることが重要であり、それには、生徒に勉強に対する興味・関心を持たせ、学んだことが社会生活の中でどのように使われるのかを教え、体験学習を行うことを提案したいと思います。
カイザーは周りを見て言った。
カイザー:教育に関しては、ラバンバとジアースの発言のとおりで良いか。
反対意見はなかった。
次は厚生大臣メディ(女)の番である。
メディ:報告します。ガンに対する新しい治療方法を開発中です。それは、有機エネルギーによる治療方法で、有機エネルギーを皮膚の外から流し、細胞に直接治療するものです。この方法は薬ではないので副作用がなく、痛みもないので画期的な治療方法であります。この治療方法は如何ですか。
ザバンは目を大きく開いて感動した。
ザバン:そんな治療方法があるのか。これは驚きだ。ジアース、どうだ、この治療方法は地球にはないだろ。
ジアース:いえ。あります。ただ、一般化はされていません。
ザバン:そうか。地球にもあるのか。それは残念。
次は交通大臣ネル(男)である。
ネル:報告します。不況のせいか、移動する人々が減少しています。これを解消するには今よりも行事を増やしたり、地方活性化を行うのが得策と考えております。行事については、例えば、花火大会を行うことによって、花火を見に来る人が花火をしている場所まで移動する、そのことにより車や電車が利用されるということです。また、地方の活性化についても同じように、例えば、その地方で行楽地を作り、その行楽地に行くことによって交通量が増えるということです。この案は如何でしょうか。
ザバン:なるほど、面白い。
ジアースがネルの案に追加した。
ジアース:これは当然のことですが、テレビや雑誌などでの宣伝も忘れないように。雑誌の売れ行きが上がるだけでも不況に対し抵抗したことにのなると思います。
ザバン:メイル。今のを聞いたか。宣伝についても考えておくように。
メイル:はい。
メイル(女)は通信省の大臣である。
次の報告は環境大臣エコー(男)である。エコーも宇宙船に乗った一人である。
エコー:では、報告します。私がエメラル星での環境は危機的な状況と言えもす。みなさんご存知のとおり、オゾン層破壊、温暖化、酸性雨、熱帯雨林の減少、砂漠化、産業廃棄物による汚染、人口爆発などが星全体で上げられます。私は解決策をまとめました。
① 植林――樹木の数が増えれば光合成により二酸化炭素の量が減少します。よって、二酸化炭素が原因となっている温暖化の進行をとめられると同時に、砂漠化に歯止めがかかり、新たな樹木は、そのまま資源にもなります。
② オゾン層の再生――オゾン層破壊により紫外線が直接生物に当たるため、皮膚がんの患者が増えています。最近は皮膚がんにならないように皮膚にクリームを塗ったりして防ぐこともできますが、皮膚がんは人間だけではないということです。他の動物もがんになっている種は未確認のものも数多くあるはずです。そうなっているなら、もちろん食料にも影響がでます。ですから、私はなんとしてもオゾン層の再生にエメラル星の全ての国が協力するべきだということです。
③ 技術開発――技術開発については次の3つを遂行させたいと思います。
1. 廃棄物を削減するための技術開発
2. 廃棄物を再利用するための技術開発
3. 新エネルギーの研究
です。以上が私の報告です。
環境庁に対して他に意見のあるものはいなかった。
次は労働省の労働大臣ワルク(男)である。
ワルク:報告します。労働省で最大な課題は経済不況によるリストラや、就職難による就労人口の減少と、給料の減少による消費の減少です。我が省では、企業に対し産業の充実を目指し、実施するためには、とにかくアイデアを出し、生かせるものは何でも生かすことをモットーにすることを浸透させています。以上です。
次は技術開発大臣コンバット(男)である。コンバットも宇宙に共に旅したメンバーである。
コンバット:報告します。我が省では現在技術開発に力を入れているものは、ナノテクノロジーです。ナノとは数字で言えば、10億分の1メートルの大きさの単位で、ナノテクノロジーは、ナノの大きさのものに機能を持たせ、様々な分野で使用できるものを作ることです。この技術を発展させれば、医療にも役立つし、精度の高いものを生み出したりすることができると思います。以上です。
次は法務大臣インカ(男)の番である。
インカ:我が省では、この経済不況を乗り切るにはどんな者でも高度な作業、事業ができるものには資格を得るチャンスを与えるべきです。能力があるのに資格がなくて仕事が自由にできないというシステムに私は矛盾を感じます。皆さんはどう思いますか。
ジアースは発言した。
ジアース:例えば年齢で資格が取れないなどというものはおかしいということですか。
インカはうなずいた。
インカ:他にも理由がありますが、そういうことです。
ザバンは納得して、
ザバン:インカ。資格を取るための資格について細かく検討してくれ。
インカ:はい。
最後は通信大臣のメイル(女)である。
メイル:では報告します。今、わが国ではインターネットによる事件・被害が相次いで起こっています。現在の法律では裁けない所が数多くあります。その中で、最も重要なのが、個人または企業の情報の保護です。これを実施するためプロテクターシステムの開発に重点を置いています。
ザバン:よし、これでひととおり報告が終わった。それでは本題に入るが、我が国による深刻な経済不況から脱出する景気回復案をカイザーがまとめた報告書をこれから皆に渡す。今から1時間休憩を含め、その時間内に目を通してほしい。
各大臣らは大会議室から思い思いの場所へ行った。
この時カイザーがジアースの側に来た。
カイザー:ジアース殿。実は今回の評定はいつもと違った進め方をしたのですが、それに気がつきましたか?
ジアース:何かと不自然とは思いましたが。
カイザー:そうです。一人一人に現在の部署の方針を軽く発言させました。
ジアースはうなずいて、
ジアース:なるほど、私に記憶がないため、一人一人に自己紹介みたいなかんじにさせ、なおかつ私にこの国の実情を悟らせるため、あのような形になったんですね。
カイザー:はい。そのとおりです。このようなことがわかるのはさすがですね。
ジアース:はい。お心遣い感謝します。
カイザー:今回の評定を、そういうふうな流れにしてほしいと頼んだのは、実はミュウ様なんですよ。
ジアース:ミュウが。
カイザー:ミュウ様はジアース殿が過去の記憶がないことを心配しておられたので、今回の評定はこのような形に進めてほしいとザバン様に進言されたんです。
ジアース:そうですか。
カイザー:ところで、ジアース殿。話は変わりますが、今回の私の景気回復の案の報告書をざっと見たところ、如何な意見をお持ちですか。
ジアース:私が見たところでは、正直言いまして、視野を全体に広げてから細かい所を論議したほうがより明確なのではないかと思います。
カイザー:なるほど。ジアース殿には何か見えているものがあると思いますので、それを評定で私の案の後に発言をしていただきたいが如何ですか。
ジアース:いいですよ。
カイザー:では、楽しみにしております。
カイザーは自負心が強い人物なのだが、ジアースには心服しているのである。
さて、休憩時間が終わり、評定の続きが開始された。
ザバン:では、評定の続きを始める。カイザー。景気回復の報告書を発表してくれ。
カイザー:わかりました。では、各大臣。私の報告書を見てくれ。
カイザーの報告書は次の通りである。
景気回復報告書 原案者:カイザー
景気を回復させるための案を箇条書きに記す
1. 軍事費用の削減
2. 内需拡大
2-1.新産業の興隆
2-2.新技術の開発・導入
2-3.構造改革(政府機関の効率化・法整備など)
2-4.その他
3. 新たな税制制度
4. 貿易
5. 規制緩和
カイザー:景気回復の案は以上の通りである。この案に対しおのおのの意見を仰ごうと思う。誰かこれに対し意見のあるものはおらぬか。
ジアースが手を上げた。
カイザー:では、ジアース殿。
ジアース:はい。私の意見を述べさせていただきます。まず、景気回復について大事なのは、消費経済のシステムの立て直しです。私は、カイザー殿の意見に賛成した上で、さらに追加したい案がございます。それは、行事の増加と需要の増加策です。いかに消費者に消費させ、収益を上げるかというテーマを掲げて消費者に心理的にアピールするのです。つまり、満足した消費、価値の合う消費をしたと消費者が思えるようなことをすればいいのです。では、消費者はどのようなものに対し消費するのか。それは、
1. 新しいもの
2. 便利なもの
3. 価値の高いもの
4. 健康なもの
5. 生活必需なもの
です。ここで、われわれがすることは、第1は、この5項目に対する企業の提案に耳を傾け、それを審査し、法的に認証することです。これは需要増加策を意味します。第2は、我々から新たに事業計画を打ち出し、企業に参加させることです。これは行事の増加を意味します。私は、この2点を追加したいと思います。細かい点については他日検討をしたいと思いますが如何でしょうか。
カイザー:ジアースのこの追加案は私ももっともだと思う。皆はどうか。
ジアースのこの意見に反対はいなかった。
カイザー:では、ジアース殿のこの案も景気回復案の骨格に加える。他に意見のあるものはいないか。
ミュウが手を上げた。
カイザー:ではミュウ様。
ミュウ:はい。わたしは、今の政府に必要なものを声を大にしていいたいものがあります。それは、政府機関の効率化です。先ほどのカイザーの案にもありましたが、この国には私が見たところ、本当に無駄が数多くあります。その無駄をなくすことこれは私は最優先するべきだと思います。
ここでガイが言った。
ガイ:ミュウよ。無駄があるというが、無駄とは具体的に何をさしているのか答えてみろ。
ミュウ:それは、お兄様がよくご存知なのでは。
ガイ:なに。
ガイは怒った。
ザバン:まて、そこの二人。喧嘩はよさぬか。評定の場だぞ。
ミュウ:父上、失礼しました。
ザバン:まあいい。ミュウの言ったことには私も思う所がある。無駄ということについてはまた後日にしよう。
皆ホッとした。
ザバン:今日の評定はこれくらいで終わろうと思う。カイザーの報告書とジアースの提案を頭に入れ、明日から法整備に取り掛かろう。皆の者。今日はご苦労であった。今日はこれで解散いたす。
今日の評定はこれで終わった。出席者は全員退出し、ザバンも自分の王室に移動した。
ザバンは王室でいつも側にいるカイザーに言った。
ザバン:カイザー。ガイとミュウの仲の悪さは困ったものだ。評定となると、7割の確率で喧嘩をする。何とかならぬのか。
カイザー:しかし、原因はガイ様にありますので私にはどうしようもありません。
ザバン:うーん。ところでカイザー。評定でも出たが、この前のサハリンの拉致事件の黒幕はおそらくガイだな。
カイザー:ザバン様。そのようなことをどこで・・・。
ザバン:話を聞かなくてもそれぐらいは洞察できる。ガイの狙いはサハリンを人質として、ミュウとジアースをおびき寄せて、この二人を殺害しようとしたことだろう。本当に何とかならぬのか。
カイザー:地球に行く前はジアース殿とガイ様とミュウ様の関係について相談はしていたのですが、帰ってきてからのジアース殿は、本当に一部記憶がないようなので、相談ができなくて困っている所です。
ザバン:そうか。しかし、私にはジアースは前とは別人のような気がするが。
カイザー:そのようなことはないと思います。出発前と帰国後の健康診断によれば、指紋は同じですし、DNAも変わっておりません。
ザバン:そうか。気のせいか。だが、そちとジアースとの関係はそれでもうまくいっているんだな。
カイザー:はい。しかし、ノルワーのほうは相変わらずで・・・。
ザバン:そうか。
一方、自分の部屋に戻ったミュウとジアースはさっそく評定での話をしていた。
ミュウ:お兄様には頭きちゃう。
部屋にいたサハリンはミュウに言った。
サハリン:ミュウ様、また評定でガイ様と喧嘩したの?
ミュウ:お兄様はこの国のことを考えてないのよ。むしろ、この国を自分の思い通りにしたいみたい。
ジアース:なるほどな。でもあの時、何が無駄かをはっきり言えば良かったんじゃないか。
ミュウ:ジアース。本当にそう思う?みんなの前なのよ。
ジアース:俺だったら明快な答えがあるなら言うけど。
サハリン:なるほど、ミュウ様が言えなかったのは、最良の考えが浮かばなかったからね。
ミュウ:確かにそうなんだけど・・・。
ミュウは複雑な表情をしていた。
ジアース:ミュウ。今は大変だけど、前に進んでいくしかないんじゃないか。前に進んだら新たな道も見つかるよ。
ミュウ:そうね。
ミュウの表情に明るさが戻った。
ここで、部屋をノックするものがいた。
サハリン:誰ですか。
カイザー:私です。カイザーです。
サハリンはドアを開けて、
サハリン:どうぞお入りください。
カイザー:失礼します。
カイザーは中に入ってジアースを目で探した。
カイザー:ジアース殿。
ジアース:カイザー殿。いかがしましたか。
カイザー:今回のジアース殿が加えた景気回復案は考えれば考えるほど非常に面白いとザバン様がおっしゃっておられました。
ジアース:ザバン様が。
カイザー:それで、その、ザバン様はジアース殿の頭の中には何か大企画を立てておる様だとおっしゃっていましたので、明日、ジアース殿が自分の考えをザバン様に伝えて欲しいのですが、ジアース殿はよろしいですか。
ジアース:私はかまいませんが。その場に他に誰がいますか?
カイザー:私とザバン様だけです。
ミュウ:えー。私も聞きたい。
カイザー:しかし、ザバン様はジアース殿だけを指名されたので、なんとも言えませんが。
ミュウ:ねえ。カイザー。私とジアースは一心同体なのよ。いつも一緒に活動をしてるの。だから私がいないのは変じゃない?
カイザー:いや、そう言われても。
ミュウ:なら、ちょっと電話するわ。
ミュウは手持ちの携帯電話で電話した。
ザバン:もしもし。
ミュウ:父上。カイザーから話は聞きました。ジアースと私は一心同体です。ジアースを呼ぶなら私も呼んでください。
ザバン:そうか。わかった。ミュウも来なさい。これでいいかね。
ミュウ:はい。ありがとうございます父上。
ミュウは携帯をきった。カイザーは困った様子だったので、ジアースは聞いてみた。
ジアース:カイザー殿。いかがなされた。
カイザー:いやー。私はザバン様にしかられますよ。ザバン様はたまにはジアース殿と二人で話したがっておられるんですよ。今回はそのいい機会だったんですが。
ジアース:カイザー殿。そのことはミュウは聞いても大丈夫なんですか。
カイザー:もうしょうがないです。とにかく私は伝えることは伝えました。明日の10時王室でお待ちしています。では失礼します。
カイザーはミュウの部屋を出て行った。
ミュウ:ねえ。ジアース。私が聞いても大丈夫ってどういう意味?
ジアース:俺の推測だけど、ザバン様は国政の話を理由に俺だけ読んで、呼んだ場所で二人で話をしてみないかというふうにしたかったのだと思う。ザバン様は国王だから二人で話すなんて滅多にない。だから、こういうふうな形で呼ぶのは、国王と二人で話すことで他の者にも余計な影響を与えないようにするためじゃないかな。
ミュウ:なるほどね。でも、それにしちゃ父上は私の電話で私が参加することはあっさり了解したわね。
サハリン:娘には弱いんじゃないの。でも、ミュウ様は本当に羨ましい。いつもジアースと一緒で。
ミュウ:そうね。そう思うならサハリンに1日だけジアースを貸してあげようか。
ジアース:おいおい。
サハリン:それっていいわね。
ミュウ:じゃあ、あさって私とジアースがすることを私に代わってサハリンがやって。
サハリン:えー。そんなー。ジアースに休暇が与えられるんじゃないの?
ミュウ:誰もそんなことは言ってないよ。
サハリン:これじゃあ、二人きりのチャンスが全然ないじゃん。
ミュウ:じゃあ、ジアース。そういうことでいい?
ジアース:ミュウはいいのか?
ミュウ:うん。あさっては休もうかなって思っただけ。でも、ジアース。不倫はだめだからね。
ジアース:ミュウ。俺を試してるのか?
ミュウ:じゃあ、とにかく今日は手紙の処理が終わったら、明日に備えて休息していいから。
こうして今日に長い1日も終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます